雇用調整助成金の財源ひっ迫 保険料率引き上げ検討で議論開始

新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化する中、雇用を守る雇用調整助成金の支給額が急増。財源がひっ迫しています。
厚生労働省の審議会は、来年度からの雇用保険の保険料率について、8日から引き上げなどの検討を始めました。

雇用保険の保険料 今の水準より引き上げ検討

雇用調整助成金は、新型コロナウイルスの影響を受けた企業などが従業員の雇用を維持した時に、休業手当などを助成する制度です。

感染拡大の影響の長期化で、去年2月からこれまでの支給額は4兆3000億円を超えていて、雇用保険の財源は不足しています。

厚生労働省の労使の代表などでつくる審議会は、来年度からの雇用保険の保険料率について、8日から引き上げなどの検討を始めました。
現在の保険料率は、
▽失業給付と育児休業給付の事業は企業と従業員の双方が負担し、賃金の合わせて0.6%、
▽雇用調整助成金などの事業は企業が負担し、賃金の0.3%
となっていて、財政に余裕があったとして一時的に引き下げられています。
8日の会合では、労働者側の委員は
「働く人の家計は悪化し保険料率の引き上げは受け入れられない。国庫負担の割合をあげるべきだ」と述べました。

また、企業側の委員からは
「多くの企業は経営が厳しく最低賃金の引き上げもあり悲鳴に近い声が寄せられている。保険料率が引き上げにならないよう求めたい」という意見が出されました。

助成金の支給額 リーマンショック後の4.4倍

厚生労働省によりますと、去年2月から今月3日までの支給決定件数は、441万2511件金額にして4兆3481億円に上っています。

リーマンショックの後の2009年度から2年間の支給額は、合わせておよそ9785億円です。

これと比較すると、およそ1年7か月間で、支給額はその4.4倍にあたります。
厚生労働省は、新型コロナウイルスの影響を踏まえ
▽1人1日あたりの助成金の上限額を1万5000円に、
▽従業員に支払った休業手当などの助成率を大企業と中小企業はいずれも100%に引き上げるなど、
特例措置を実施しています。

この特例措置は、
▽「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」の対象地域で、自治体からの要請に基づき休業や営業時間の短縮などに協力する企業や、
▽直近3か月の売り上げなどが前の年や2年前と比べて30%以上減少している全国の企業
が対象です。

厚生労働省は、感染拡大の影響が続いているとして、この特例措置をことし11月末まで継続することを決めています。

コロナ長期化で主な財源 底をつく

雇用調整助成金の主な財源は、企業が負担する雇用保険の保険料を積み立てた「雇用安定資金」です。

「雇用安定資金」は、昨年度の当初は1兆5000億円余りありましたが、新型コロナウイルスの影響が長期化し、支給額の急増でほぼ底をつきました。

このため、失業給付などのために企業と従業員の双方が負担する保険料の積立金から、およそ1兆7000億円を借り入れたり、一般会計から1兆700億円余りを繰り入れたりしています。

今年度も支給の急増が続いていて、支給額が2000億円を超える月も多くなっています。

現在と比べ どのくらい負担が増える?

雇用保険の保険料率は原則として
▽失業給付と育児休業給付の事業は企業と従業員の双方が負担し、月給の合わせて1.2%、
▽雇用調整助成金などの事業は企業が負担して、月給の0.35%
となっています。

財政に余裕があったとして、2017年度以降は
▽失業給付などの事業は合わせて0.6%に、
▽雇用調整助成金などの事業は0.3%に
一時的に引き下げられています。
月給が30万円の場合、雇用保険の保険料は現在、企業が1800円従業員が900円を負担しています。

仮に保険料率を原則の水準に戻すと、毎月の保険料は
▽企業が2850円、
▽従業員は1800円となり、
現在より企業が1050円、従業員が900円、負担が増えることになります。
また、失業給付などの事業について国が負担する割合、「国庫負担率」は現在、2.5%となっていて原則の25%から一時的に引き下げられています。

厚生労働省の審議会は、国庫負担率の引き上げについても検討を進めることにしています。

旅行会社 “助成金や社員の声でやってこれた”

横浜市の旅行会社は、海外旅行のツアーなどを中心に扱っていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で売り上げはおよそ90%減少するなど厳しい経営が続いています。

このため、従業員の雇用を守るために去年4月から雇用調整助成金を利用し、従業員を休ませて休業手当を支払い、その分について助成を受けています。

しかし、海外旅行のツアーなどが再開できるめどはたたず、国内旅行の商品を企画しても、感染拡大や緊急事態宣言で何度も中止を余儀なくされ、売り上げは回復していません。

このままでは事業の継続が難しいと判断し、ことし2月いっぱいでの希望退職を募ったところ、10人が退職を決め、会社に残ったのは6人となりました。
東京都内の中心部にあったオフィスを売却して横浜市内で事務所を借りるなどして、当面の運転資金は確保しました。

しかし現在も、雇用調整助成金を利用して一部の従業員を週2日から3日休ませて雇用を維持しています。

会社では
▽オンラインで実施する海外ツアーの企画や、
▽交流のあった観光ガイドと連携した特産品の輸入など
新たな事業で売り上げを増やそうと取り組んでいます。
正社員として働く入社3年目の金光いつかさん(25)は、現在は週3日の出勤となっていますが、旅行会社で働くことにやりがいを感じています。
金光さんは
「とにかく不安で先が見えない状況が続いていますが、お客さんから『落ち着いたら旅行に行くからそれまで頑張って』という声をいただいて、それを励みに頑張っています。会社を盛り上げていけるよう今まで以上に頑張りたい」と話していました。
「富士国際旅行社」の太田正一社長は、
「新型コロナウイルスの影響が直撃したため、会社を続けるかどうかも含めて悩んだ時期もありましたが、雇用調整助成金や『会社を支えたい』という社員の声があったから、なんとかここまでやってこれたと思っています。オンラインツアーなど新しいことに挑戦し、経営を感染拡大前の状態に戻せるよう取り組みたい」と話しています。

官房長官 “予算編成過程で十分検討する必要”

加藤官房長官は、午後の記者会見で
「来年度以降の雇用保険制度の財政運営については、保険料率や国庫負担のあり方も含めて、労使でご議論いただくものと承知している。その議論も伺いながら、雇用保険のセーフティーネットとしての機能が十分発揮できるよう、予算編成過程で十分検討していく必要がある」と述べました。
審議会は、年末にかけて議論を続けることにしていて、厚生労働省はその結果を踏まえて雇用保険法の改正案を来年の通常国会に提出する方針です。