コロナ感染1人暮らし50代男性死亡 保健所と連絡とれないまま…

東京・荒川区では新型コロナウイルスに感染し自宅で療養していた50代の男性が亡くなっているのが見つかりましたが、男性は糖尿病で重症化のリスクがあったにもかかわらず保健所が健康状態を把握できていなかったことが分かりました。

先月3日、東京・荒川区の住宅で公務員の田尻敏仁さん(53)が亡くなっているのが見つかりました。

関係者によりますと、田尻さんは1人暮らしでその10日前の7月24日に検査で新型コロナウイルスの感染が確認されたあと、自宅で保健所からの連絡を待つことになったといいます。

田尻さんの勤務先によりますと、7月24日に検査で陽性になったという報告が本人から電話であったということです。

1人暮らしで糖尿病の基礎疾患

田尻さんは1人暮らしで糖尿病の基礎疾患があったことから、職場では健康状態を毎日電話で報告してもらうようにしていました。

電話のやり取りの中で「食べる物がなくなってきた」などと話したため、亡くなっているのが見つかった3日前の7月31日に同僚が自宅に食料品を届けに行きました。
その時「熱がなかなか下がらない。保健所からまだ連絡がない」と話していたということです。
その後、8月2日になって電話をかけても応答がなくなったため、保健所にも連絡して翌日の8月3日に上司や同僚が自宅を訪れたところ、1階の部屋で亡くなっていたということです。
上司の男性は「1人暮らしで、基礎疾患もあったので、職場のみんなが心配して、毎日、連絡を取るようにしていましたが、こんなことになってしまい残念です。なぜ保健所と連絡が取れなかったのかは分かりませんが、自宅療養者の場合、保健所だけでなく職場としてもこまめな安否確認が必要だと感じました」と話していました。
荒川区の保健所によりますと、感染の連絡を医療機関から受けたあと田尻さん本人の携帯電話に連日、電話をかけたもののつながらず、自宅にも一度訪問しましたが応答がなかったということです。

自宅で療養している人には保健所などが連絡をとって確認することになっていますが今回、糖尿病の基礎疾患があったにもかかわらず、本人と話ができず健康状態を把握できないままだったということです。

母親「最後のお別れもできず、悲しくつらい」

埼玉県内で暮らす田尻さんの母親は、息子が新型コロナに感染して療養していたことは知らなかったということです。

母親は「最後に会ったのは7月に寄ってくれた時で、その時は『またね』と言って手を振って別れたので、まさかこんなことになるとは思ってもいませんでした。私に迷惑をかけると思ったのかコロナに感染したことは言わなかったので、息子がどういう状態だったのか分かりませんでしたが、もしどこからか連絡があればタクシーを使ってでも駆けつけて看病していました」
「1人暮らしだったので急に具合が悪くなっても何ともできなかったのかもしれません。ひとりで亡くなってしまい、最後のお別れもできなかったのは悲しくつらいです」と話していました。

荒川区は警察と連携して安否確認強化へ

今回の事態を受けて荒川区では自宅で療養している人と連絡が取れないことを防ぐためにより踏み込んだ対策を取ることにしました。

具体的には、3回電話をかけても連絡が取れない場合には自宅への訪問を検討し、自宅を訪ねて応答がない場合には警察に通報して協力を求め直ちに部屋の中に入って安否を確認するとしています。
また、感染者が受診した医療機関から本人以外の連絡先などの情報を提供してもらい、必要に応じて職場などとも連絡を取るということです。

荒川区では今月(9月)からすでにこの取り組みを始めていて、連絡が取れない自宅療養者の家に警察官と一緒に入って入院につなげたケースもあったということです。

荒川区は「区民の方がお亡くなりになったことは大変残念でなりません。これまで以上に緊張感を持って自宅で療養されている方々への万全の支援に一丸となって取り組んでまいります」とコメントしています。

専門家「社会全体でSOSをキャッチして」

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで東邦大学の舘田一博教授は「はじめは症状が軽くても急激に悪化するおそれもあるので日々の健康状態の把握が非常に重要だが、自宅療養者が急増している中で保健所のマンパワーだけでは限界で、感染者の体調の異変などをキャッチすることが難しくなっている」と指摘しています。
そのうえで「自宅療養をしている人は家族や職場の人などに自分の状態を毎日報告するなどしてほしい。逆に身近な人が感染して自宅療養となった場合、こまめに連絡を取って状態を把握し万が一体調が急変した場合には本人に代わって保健所に連絡をしてあげるなど社会全体でSOSをキャッチすることが重要だ」と話しています。