異常気象 保険金支払いを急げ ~損保各社×テック最前線~

異常気象 保険金支払いを急げ ~損保各社×テック最前線~
ここ数年、日本列島で相次ぐ大規模な自然災害。被災した人たちの生活再建の糧になるのが損害保険です。保険金をいち早く被災者の手元に届けるため、今、大手損保各社はドローンや人工衛星などの最新テクノロジーの導入を急いでいます。さらに損保会社が得たさまざまな情報を、防災や減災に生かそうという取り組みも始まりました。異常気象に挑む損保各社。その最前線を取材しました。
(経済部記者 藤本浩輝/経済番組ディレクター 金武孝幸)

ドローンとAI 浸水高を1センチ単位で

8月19日、佐賀県武雄市で「三井住友海上」がドローンによる被害状況の調査を行いました。

記録的な豪雨で武雄市では市内を流れる六角川が氾濫。広い範囲が水につかり、住宅1600棟余りが浸水しました。
ドローンを使うねらいは、「浸水したエリアの正確な地形の把握」です。

ドローンから1秒間に3回撮影した画像をつなぎ合わせ、高精細な3Dモデルを作成。その3Dモデルに雨量などのデータを加え、AIで分析することで、被災した建物の浸水高を1センチ単位ではじき出すことができるといいます。
誤差はあるものの、被災した建物1軒1軒に調査員を派遣する必要がなくなるため、保険金を支払うまでにかかる日数を大幅に短縮できるといいます。

保険金支払い 年間1兆円超

損保各社がこうした技術の導入を急ぐのは、風水害などに伴う保険金の支払額が増加傾向にあることが背景にあります。
2018年度・2019年度は2年連続で1兆円を超え、自然災害の多発の影響で損保各社の火災保険の収支は悪化。この10年はほぼ毎年のように赤字になっています。

このままでは保険金の迅速な支払いに支障をきたしかねないと危機感を抱いているのです。

各社にとって保険金の支払いを迅速化させることは、被害にあった人たちの生活再建を支えるという使命を全うするためだけではありません。コストを削減し、火災保険の事業を持続可能なものにするためにも、業界共通の喫緊の課題となっているのです。

「人海戦術」もはや限界

特に河川が氾濫した場合、被害は広範囲に及びます。

保険金支払いのための立会調査を実施するには、天候の回復を待ち、被害の範囲を特定したうえで、保険加入者にアポイントを取り、調査員を派遣し1軒1軒訪ねる必要があります。

河川の氾濫では、人手を増やしたとしても、災害の規模が大きくなるほど、支払いまでに時間がかかってしまいます。そのため、なるべく人手に頼らずに、支払いを迅速化する体制を構築することが求められているのです。
ドローンを活用している「三井住友海上」が、いま懸念しているのが、東京都内を流れる荒川で氾濫が起きた際の浸水被害です。

もし現実に起きた場合、被害は極めて広範囲に及ぶと見られ、保険金の支払い件数は東日本大震災を超えると想定しています。

そこで導入を進めているのが、国産の最新型ドローンです。
飛行機のように翼があり、垂直に離陸した後は高速で水平飛行するのが特徴で、従来型に比べ速度は約4倍、航続時間は約3倍になり、1度に調査できる範囲が大幅に広がります。

荒川が氾濫した場合、従来型では撮影に1か月以上かかるところを、数日程度に短縮できると見込んでいます。
丸山課長
「人海戦術ではもう現実的には無理だと思っている。あらゆる場面を想定して対応できる体制をつくっていくことが重要だ」

人工衛星も活用

人工衛星を使って氾濫発生の直後から被害状況の把握に動き始めているのが、「東京海上日動」です。

人工衛星は特殊なレーダーを備えているため、厚い雨雲に覆われた場所や夜間でも撮影が可能です。
協業先のフィンランド企業が保有する人工衛星が撮影した画像では、水に覆われた部分が黒く映ります。

浸水する前に撮影した画像と、浸水した後に撮影した画像を比較することで、浸水の範囲とその深さを算出することができます。こちらも、誤差はありますが、建物ごとに浸水の深さを1センチ単位で推定することが可能です。

調査担当者が現地に行かなくても、保険金の支払いの対象になるか判断できるようになるため、支払いまでの期間を2週間程度、短縮することにつながるといいます。
大橋課長代理
「大きな被害が生じる場合は、被害直後は普通であれば撮影ができない条件になるが、人工衛星では発災したその日の夜間に撮影することができた」

損保が持つデータを一般公開 防災・減災に役立てる

損保会社は、災害に関わるさまざまなデータを持っています。

そのデータを、広く公開し、防災や減災に役立ててもらおうという動きも出ています。
あいおいニッセイ同和損保が公開している被害予測ウェブサイト「cmap」。

台風や豪雨、地震による建物被害の予測を市区町村ごとに地図上で確認できるほか、浸水被害や土砂災害に関するハザードマップを見ることもできます。ウェブサイトのほか、スマートフォンのアプリでも、無料で利用することができます。

もともとは自社の迅速な体制構築に役立てようと開発していたものでしたが、防災・減災に活用してもらおうと、2019年6月から一般向けに公開しました。ことし8月からは自治体の避難所の場所や一部の混雑状況も表示されるようになり、機能が順次追加されています。

このほかにも、住民の事前避難を支援するサービスの開発や、自治体向けに被害予測に関するデータを提供するための取り組みも始まっています。

損保会社のビジネスは「災害が起きた後への対応」だけでなく、「被害が大きくなるのを未然に防ぐこと」にも広がりつつあります。

頻発・大規模化する自然災害をきっかけに、最新テクノロジーと情報を活用した変革は今後さらに加速していきそうです。
経済部記者
藤本 浩輝
平成17年入局
山口放送局、大阪放送局など経て、現在は金融業界を担当
経済番組ディレクター
金武 孝幸
平成23年入局
札幌放送局、おはよう日本、ニュースウオッチ9を経て経済番組