LGBTへの意識にも地域差?

LGBTへの意識にも地域差?
“モラル・節度のないLGBTのお客様のご入浴お断り。待ち合わせ、いちゃつく等の行為で一般のお客様に不快を与える行動は警察に通報します”

最近、家の近所の銭湯でこのような内容の張り紙を見つけました。

過去の専門家の調査で“LGBTに不寛容”という結果まで出てしまった北陸の人たち。

ダイバーシティーの波は、ここにはまだ届いていないの??
(金沢放送局記者 松葉翼 吉倉崇唯)

待ち望んだ日

7月1日の金沢市役所。

申請書を持ったカップルがやってきました。
体の性(女性)と心の性(男性)が一致しない“トランスジェンダー”の岡田千央美さんと、そのパートナーの女性です。

この日、金沢市では性的マイノリティーのカップルなどを“結婚に相当する関係”と認める「パートナーシップ制度」が北陸3県で初めてスタート。

岡田さんたち2人は制度の第1号として宣誓を行いました。
岡田さん
「市役所の職員から“あなたたちはパートナーです”と言われたとき、はじめて公的に2人の関係が認められた気がして、改めてずっと一緒に生きていきたいと思いました」
2人で一緒に暮らし始めてから約10年。

これまでに感じたことがないような、こみあげる思いがあったと語る岡田さん。

「ゆっくりだけど、少しずつ、前に進めている気がします」

パートナーを見つめるその表情は喜びに満ちていました。

北陸では“初”だけど…

制度づくりを担当した金沢市ダイバーシティ人権政策課の橋爪覚さん。
北陸初となるパートナーシップ制度が「近隣の都市にも広がってほしい」と語り、エリア全体でダイバーシティーの機運を高めていきたいという気概もうかがえました。
橋爪さん
「制度をきっかけに、市民や事業者に、性的マイノリティーへの理解を深めてもらい、互いの人権を尊重できる社会を実現したい」
でも振り返ってみると、「パートナーシップ」ということばが聞かれるようになったのは、もうずいぶん前のこと。
6年前、東京・渋谷区で初めて制度が導入されたのを皮切りに、今では全国100を超える自治体に広がっています。

北陸で“初”であること自体、“後進”であることの裏返しとも言えます。

同性愛者に嫌悪感??

「近所の人が同性愛者だったら嫌悪感を抱きますか?」

少しぎょっとするような意識調査を行ったのは、広島修道大学の河口和也教授です。

6年前、全国を11のブロックに分けてアンケートを取りました。
『嫌悪感を抱く』と答えた人の割合を見ると、北陸は2位の四国を約13ポイントも引き離し、61.5%でダントツのトップに。

この調査結果だけを見れば、北陸は、“性的マイノリティーに不寛容な地域”と言わざるを得ません。

河口教授はこの結果について次のように分析します。
河口教授
「北陸地方は、持ち家率も高く、家族という集まりを特に重要視する傾向があります。“性的マイノリティーが身近にいると、伝統的な家族の概念が崩れてしまう”といった懸念が調査の結果に表れたのではないかと思います」

幸せ度はトップクラス

一方、北陸は民間のシンクタンクがランク付けする『幸福度ランキング』で、福井が過去4回連続で全国1位を獲得。

最新の調査で富山が全国2位、石川が全国4位に名を連ねるなど“幸せ指数”の高いエリアとして知られています。
働く女性の割合が高いこと。

持ち家率が高いこと。

子どもが運動能力に優れ、不登校の児童が少ないこと。

ランキング付けしたシンクタンクによると、女性や若者を含めた雇用の安定や、子どもが健全に成長できる教育環境の良さが3県の順位を押し上げたということです。

その土地に暮らす人たちの『幸福』。

性的マイノリティーであっても、同じように幸せを感じられる社会が望まれることは、言うまでもありません。

あなたのそばの性的マイノリティー

「都会だけじゃない。あなたの近くにだって性的マイノリティーはいるんだよ」

YouTubeでこんな発信を続けている女性どうしのカップルがいます。
金沢市のこぴさんと、たやさんです。

この秋、パートナーの宣誓をすることを前提に交際を続けています。

“LGBTなんて、ごく少数の人だけの問題でしょう?”

“身の回りにいないから、自分とは関係が無い”

まだまだ感じられるこんな雰囲気を、少しずつでも変えていきたいといいます。
配信しているのは散歩やドライブ、料理など、なにげない日常の動画。

2人は、“自分たちが望むのはなにも特別なことじゃない。ただありのまま、生きていきたいと願っているだけなんだ”と話します。
最近では、こんなリアクションも寄せられるようになりました。
“私も石川県に住んでいます。性的マイノリティーの人と、お話ししてみたい”

“私は同性愛者ではないけれど2人に癒やされて毎回動画が楽しみです”

“地方であっても、同性であっても、好きな人といていいんだって思いました”
2人の動画を『チャンネル登録』する人は、しだいに増えて、現在、2000人を超えています。
こぴさん たやさん
「LGBTを気持ち悪いって思う人もいるかもしれない。パートナーシップ制度を否定的にとらえる人もいると思います。社会がよくない方向に進んでしまうっていう意見も目にしました。

けれど、制度ができて私たちは幸せになれるけど、反対する人の生活は何も変わらない。よい方向に受け取ってもらえたらうれしいなって思います。

私たちが発信していくことが、少しでも同じ北陸に住んでいる人の後押しになればいいな」
金沢放送局記者
松葉翼
令和2年入局
学生時代に風呂なしアパートで暮らしたことがきっかけで国内外での銭湯めぐりが趣味に
社会的弱者やマイノリティーの取材に関心を持ち続けている
金沢放送局記者
吉倉崇唯
令和3年入局
オンラインでの新人研修を終えて5月に金沢に配属
コロナ禍の取材が続いているが、農家や市場を訪ねる中で北陸の食の魅力を知る