米 学校でのマスク着用義務付け巡り激しく対立

アメリカでは新学期が始まる時期を迎えていますが、学校でマスクの着用を義務づけるかを巡って保護者の意見が激しく対立し対応も州ごとにわかれていて、政治的な立場の違いが子どもの健康にまで影響を及ぼしかねない状況となっています。

アメリカでは、ことし7月CDC=疾病対策センターが、変異ウイルスの「デルタ株」の広がりを受け、学校の感染対策として、すべての生徒や教員などが屋内でマスクを着用するよう推奨し、これを受けて比較的リベラルで与党・民主党が強いとされる西部カリフォルニア州や東部ニューヨーク州などで小中学校や高校での着用を義務づける動きが始まっています。

このうち、先月中旬から新学期が始まったロサンゼルスの小学校では児童たち全員がマスクをつけて登校しました。
一方、野党・共和党が強い州では「着用は個人の自由に委ねられるべきだ」などとして反対意見も強く、そうした州のひとつ、南部フロリダ州では、先月、学校でのマスク着用を義務づけた郡の決定に対する保護者たちの抗議デモが行われ賛成する人との間で激しい口論となる場面も見られました。

共和党の州知事も義務化に反対で、方針に従わない学校への財政支援を停止できるとした行政命令を出し、テキサス州やアリゾナ州などのほかの共和党の知事らも同様に義務化に反対する動きをみせています。

このため、アメリカにおける学校でのマスクの着用は、対応にばらつきがあるのが現状で公衆衛生の専門家からは懸念の声も出ていて、政治的な立場の違いが子どもの健康にまで影響を及ぼしかねない状況となっています。

「マスク着用は児童虐待」との主張も

アメリカでのマスクの義務化を巡っては、これまでも保守層から、「自由の尊重」という、アメリカの建国の理念に反するといった声が相次いできました。

また、AP通信などが、先月全米のおよそ1700人を対象に行った世論調査では、学校でのマスクの着用に賛成と回答したのは、与党・民主党支持者が80%あまりだったのに対し、野党・共和党支持者は30%あまりと意見の違いが浮き彫りになっています。

共和党を支持する保守層が多いとされるフロリダ州では反対する人が多く先月、フォートローダーデールでは、郡が学校でのマスク着用を義務づけた決定に反対する保護者らの抗議デモが行われました。
郡の庁舎前で行われたデモにはおよそ50人が参加して、「学校には親と同様の権利はない」、「マスク着用は児童虐待だ」などというプラカードを掲げました。

参加した保護者たちは、「バイデン大統領は新型コロナに打ち勝つと言っていましたが、パンデミックが始まって1年半がたっても状況は改善していません」などと批判していました。
一方で、なかには義務化に賛成の人もいて、「新型コロナでこれまでに何人が亡くなったのかを考えるべきだ」と参加者に激しく詰め寄り口論になる場面も見られました。

フロリダ州では、共和党のデサンティス知事が「子どもの健康について決める権利は学校ではなく親にある」として義務化に反対し、方針に従わない学校には財政支援を停止できるなどとした行政命令に署名しました。

フロリダ州の裁判所は、先月27日にこの命令は認められないという判断を下しましたが、知事は控訴する方針で先行きの見通せない状況となっています。

専門家「国全体の取り組みが必要」

公衆衛生が専門のカリフォルニア大学サンフランシスコ校のジョージ・ラザフォード教授は、アメリカでは、CDC=疾病対策センターがマスクの着用を推奨しても、対応はそれぞれの州に委ねられていることが課題だとして「国全体としての取り組みが必要だ。マスクの義務化やワクチン接種などに大きな地域差があるのは許容できない」と話しています。

その上で、「ワクチン接種の対象外の12歳未満の子どもを感染から守るにはマスクしかない。着用に反対の人が増えるほど、感染は拡大し、パンデミックの期間は長くなるということを理解してほしい」と話し、マスクの着用を巡る意見の対立に懸念を示しています。