アフガニスタン タリバンが首都の空港に戦闘員配置し管理下に

アメリカ軍の撤退から一夜明けたアフガニスタンでは、武装勢力タリバンが首都カブールの空港に戦闘員を配置して管理下に置き、タリバン主導で統治を進める姿勢を強くアピールしました。

アフガニスタンでは現地時間の30日夜、日付が変わる直前に、アメリカ軍の最後の部隊を乗せた軍用機がカブールの空港を離陸し、20年に及んだ軍事作戦が終了しました。

カブール市内では、タリバンの戦闘員がアメリカ軍の撤退を祝って上空に向かって発砲し、各地で銃声が鳴り響きました。

タリバンは早速、アメリカ軍が去ったばかりの空港に戦闘員を配置して管理下に置き、31日朝は銃を構えて警備にあたる姿が見られました。

空港を訪れた幹部の1人は「アフガニスタンは再び侵略されることはない。イスラムの教えにもとづいて統治していく」と述べました。

タリバンは、崩壊した政権の有力者などと協議を進めながら、近く新しい政権を発足させる意向を示しており、今後もタリバン主導で統治を進める姿勢を強くアピールした形です。

一方、カブール市内では市民が行き交い、商店などには営業再開の動きも見られますが、市内に住む男性によりますと、タリバンによる統治がどのようなものになるのかはっきりしないとして、不安に感じて外出を控える市民も多いということです。

カブールに住む人は

カブールに住む男性の1人は「アメリカ軍は何も達成せず、人々を取り巻く問題は日増しに深刻になっている。撤退してうれしい」と話していました。

別の男性は「アフガニスタンはまだ自立できない。タリバンにはできるだけ早く国際社会からの支援が得られるようにしてほしい」と話し、新しい政権が国際社会と良好な関係を築くことに期待感を示しました。

一方で、タリバンによる統治がどのようなものになるのか不透明な中、これらの市民からは発言に慎重になっている様子もうかがえました。

出国できなかった元アメリカ軍通訳は

2012年からおよそ1年半にわたり、アメリカ軍の通訳を務めたものの、アメリカ政府から退避のためのビザが発給されず、出国できなかった男性が、アメリカ軍の撤退について、NHKの取材に応じました。

男性は「置き去りにされたが、私は今もビザが発給されるのを待ち続けている。落ち着いた環境で、子どもたちを学校に通わせたい」と述べ、引き続き国外への退避を目指すとしています。

この男性のもとには、ことし5月、タリバンからとみられる殺害予告が届いたということです。

そのタリバンが権力を掌握してから融和を目指す姿勢を示していることについて「彼らは約束を守ったことがない。信用できない」と述べ、不信感を示しました。

米 アフガン軍事作戦の20年

「アメリカ史上、最も長い戦争」とも言われるアフガニスタンでの軍事作戦は、20年前の2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに始まりました。

アメリカの当時のブッシュ政権は、国際テロ組織アルカイダを率いるオサマ・ビンラディン容疑者を事件の首謀者と断定し、アフガニスタンの当時のタリバン政権に身柄の引き渡しを要求しました。

これをタリバン側が拒否したため、ブッシュ政権は軍事作戦に踏み切り、激しい空爆などを行ってタリバン政権を崩壊させました。

しかし、タリバンの一部は政権崩壊後、隣国パキスタンとの国境地帯に潜伏するなどして勢力を盛り返し、テロや襲撃を繰り返すようになります。

これに対応するためアメリカ軍は現地に展開する部隊の規模を増強し、ピーク時には10万人規模の部隊が駐留していました。

その後、アメリカ側は2011年にビンラディン容疑者を殺害したことや、戦費の削減を求めるアメリカ議会などの声を受け、現地部隊の規模縮小を段階的に進めます。

2014年末にはアメリカ軍を中心とする国際部隊が戦闘任務を終えて大部分がアフガニスタンから撤退し、2017年に就任したトランプ前大統領は完全撤退を目指してタリバン側と和平交渉を続け、去年2月、和平合意に署名しました。

この中には、アフガニスタンに駐留するアメリカ軍などが14か月以内に完全撤退することが盛り込まれ、ことし5月1日までという撤退の期限が示されました。

これを受けてアメリカ側はことし1月、アフガニスタンに駐留するアメリカ軍の部隊を、現地で軍事作戦を開始して以降最も少ないおよそ2500人規模に削減したと明らかにしました。

ただ、現地では和平合意以降も戦闘やテロが続き、ことし1月に発足したバイデン政権は期限を4か月余り延長して、同時多発テロから20年となることし9月11日までに完全撤退させることを決めました。

そして先月、バイデン大統領はアフガニスタン政府軍には十分な力が備わっているなどとして、完全撤退の時期を今月末とする方針を発表しました。

しかし、アメリカ軍の完全撤退の方針が明らかになって以降、タリバンが攻勢を強め、支配地域を急速に拡大していきました。

撤退期限まで1か月を切った今月上旬以降、タリバンは南西部ニムルーズ州の州都ザランジを制圧したのに続き、地方の主要都市を次々と制圧し、今月15日、首都カブールに進攻しました。

そして、アフガニスタン政府トップのガニ大統領が出国したことで政権が事実上崩壊し、タリバンが勝利を宣言しました。

こうした事態を受けて、バイデン政権は現地のアメリカ人や軍の通訳などを務めた地元の協力者たちの国外退避を支援するため、追加の部隊の派遣を決め、現地の部隊を6000人規模に拡大しました。

アメリカ軍は連日、首都カブールの国際空港から退避を希望する人たちを軍用機などで国外に輸送しましたが、今月26日、空港の近くで起きた大規模な自爆テロでアメリカ兵13人を含む100人以上が死亡しました。

アメリカ軍は過激派組織IS=イスラミックステートの地域組織が関わったとして、アフガニスタン東部で無人機による攻撃を行い、テロの計画に関わったとされる人物を殺害したほか、新たな攻撃を防ぐとしてカブールで爆発物を積んでいたとみられる車両を空爆しましたが、アメリカのメディアによると、この攻撃で子どもを含む民間人に死傷者を出す事態になりました。

その後も現地では空港に向けて複数のロケット弾が打ち込まれるなど情勢が不安定化する中、アメリカ軍は日本時間の31日朝、最後の軍用機が離陸したとして、撤退が完了したと発表しました。

死亡した民間人 4万人以上

アフガニスタンで戦闘やテロに巻き込まれて死亡した民間人は、国連が統計を取り始めた2009年からことし6月までの間で4万人以上にのぼっています。

国連アフガニスタン支援団によりますと、2009年からことし6月までの間に戦闘やテロに巻き込まれて死亡した民間人は合わせて4万218人に上り、けがをした人は7万5000人を超えています。

タリバンの攻勢や過激派組織IS=イスラミックステートの地域組織の台頭に加え、アメリカ軍の空爆の巻き添えになるなどして、去年まで7年連続で年間の死者が3000人を超えたほか、ことし1月から6月までの死傷者の数は統計をとり始めて以来最悪の水準となりました。

ことし5月には、首都カブールにある学校の近くで爆発が起き、女子高校生など85人が亡くなるなど、子どもや女性が犠牲になるケースも後を絶たず、治安の悪化に歯止めがかからないままとなっていました。

20年間の米軍の死傷者と戦費は

アメリカ国防総省によりますと、軍事作戦を開始した2001年10月からこれまでに、アフガニスタンで死亡したアメリカ兵は2461人で、2万人以上がけがをしました。

また、アフガニスタンの復興状況を調べているアメリカ政府の監察官の報告書によりますと、この20年間、アフガニスタンでの戦費は合わせておよそ8370億ドル、日本円でおよそ92兆円に上ります。

ただ、アメリカ・ブラウン大学のワトソン国際問題研究所が国債の利子などを含めて試算したところ、実際にはその3倍近い2兆3000億ドル余り、日本円でおよそ253兆円に上るとしています。

専門家「国際テロの拠点にならない努力が問われている」

アフガニスタン情勢に詳しい上智大学の東大作教授は、現地で権力を掌握したタリバンがどのような統治を進めるのか、注視する必要があると指摘します。

タリバンについて、東教授は「現在のタリバンは、旧タリバン政権時代に3か国からしか国際的な承認を得られなかった反省から、主要な国々とつき合える組織だとアピールするため、戦略的な発信を続けている」と分析します。

そのうえで「対外的に主張している包括的な政権や女性の権利の問題について、有言実行できるかどうかが焦点になる」と指摘します。

またアメリカ軍の撤退に伴って、今後、治安のさらなる悪化が懸念されることについては「タリバンは、自分たちが政権につけば治安がよくなると主張している。先日の過激派組織IS=イスラミックステートの地域組織による自爆テロのように、市民を狙った攻撃をいかに抑え込むかが重要な課題となるため、厳しく取締りをしていくことになるだろう。国際テロ組織の拠点にならないための努力をしていけるかどうか、その能力が問われている」と述べました。

中国「アメリカは責任を負うべき」

アメリカ軍のアフガニスタンからの撤退について、中国外務省の汪文斌報道官は、31日の記者会見で「みだりに他国に軍事介入し自国の価値観や社会制度を強制する政策は通用せず、失敗に終わるだけだということを示している」と述べ、軍事作戦を続けてきたアメリカを改めて批判しました。

そのうえで「アメリカが引き起こした戦争がアフガニスタンの混乱と人々の生活苦の主な原因だ。アメリカはこの責任を負うべきで、放っておいてはならない」と述べ、アメリカは、撤退後もアフガニスタンの安定に向けて国際社会とともに協力すべきだとする考えを強調しました。

アフガニスタン情勢をめぐっては、29日に行われた米中外相の電話会談でも、王毅外相が「アメリカはアフガニスタンの主権と独立を尊重することを前提にテロを阻止するための行動をとるべきだ」と述べています。