居場所がないあなたに ~今 相談員が伝えたいこと~

居場所がないあなたに ~今 相談員が伝えたいこと~
あすから9月。多くの学校で新学期が始まります。でも「学校に行きづらい」。そう感じている人もいるのではないでしょうか。きょうは、そんな皆さんに紹介したい人がいます。(社会部 厚生労働省担当 宮崎良太記者)
鎌田沙織さん(33)。

「生きていくのが苦しい」
そんな中高生たちを支援しているNPOで、相談員をしています。
鎌田さん
「例年、新学期が近づくと『学校に行きたくない』という相談が急増しますが、ことしはさらに増えていると感じます」
今、相談を受けてやりとりしているのは20人ほど。実はほとんどの人が、家庭でも悩みを抱えているそうです。

届いたメッセージを個人情報を伏せた上で教えてもらうと、新型コロナの影響で、状況はさらに深刻になっていました。
「収入が減って、親が精神的に不安定に。ストレスをぶつけられる」
「家にいるのが嫌だけど、自粛で学校や部活動がないので苦しい」

実は自身も…

鎌田さんも高校生のころ、同じような悩みを抱えていました。

幼いころから、周囲や大人の顔色をうかがってしまい、素直に気持ちを表に出せないまま、ずっと”生きづらさ”を感じていたそうです。
特に苦しかったのが、家に”居場所”がなかったことでした。

両親のけんかや言い争いが絶えず、家庭内別居の状態に。父親とは高校2年生から2年間、ひとことも口をきかず、母親とも食事のときなどに最低限ことばを交わすだけでした。将来の進路が気になりましたが、やりたいことや夢が見つからず、焦る日々が続きました。

しかし、家族には相談できませんでした。
「誰も自分のことを分かってくれない」。そんな気持ちが強くなっていったそうです。しだいに学校の成績も低下。初めての赤点もとってしまいました。

「自分はだめな人間なんだ」「未来なんてない」
そう自分を責め続けました。学校でも、周囲に本音を伝えることはできませんでした。
クラスメートの前で無理に笑顔をつくる毎日。気づいた時には、家にも学校にも”居場所”はありませんでした。「自分を見てほしい」と思わず手首を切ってしまうと、その後はストレスがたまるたびに繰り返すようになりました。

そして、高校3年生の時、自殺を図りました。
鎌田さん
「ただでさえ家にいるのが苦痛なのに、学校でも周囲に合わせないといけないし、強がってうそをつかなくてはならず、さらに追い詰められました。心が苦しいのに『しんどい』と外に向かって言えない。心がいつもカラカラで、満たされない気持ちで、最後には限界を迎えてしまいました。死にたいというよりも『早く楽になりたい』『自分の存在を消したい』。そんな気持ちでした」

相談で前を向けた人も

社会人になって信頼できる人に出会い、体験を打ち明けたことで、ようやく前を向けたという鎌田さん。おととし、今のNPOの代表と知り合い、「自分の経験を悩んでいる若い人のために役立てたい」と相談員になりました。
これまでに250人を超える中高生などの相談に応じてきた鎌田さん。心がけているのは、子どもたちの”居場所”になることです。

ある女子生徒とのやりとりを、本人の許可を頂いて見せてもらいました。
「私なんか生きていない方がいい」 
「生きててごめんなさい…」
相談に乗り始めたころ、生徒から送られてきたメッセージです。「両親から冷たくされる」と悩み、学校にも「同級生に苦手な人がいる」と拒否感を示していました。
「怒られそう…こわい…」
「学校行きたくない…もう無理」
「消えたい… もう無理…」
「薬いっぱい飲みたい…」
一日中、送られてくるメッセージ。
鎌田さんは「あなたが生きていてくれてありがとうと伝えたい」、「あなたは何も悪いことをしていないよ」などと返し続けました。
「学校を早退するときがつらい」というメッセージが届くと、「早退できたことをほめてあげたい」と伝えました。

しだいに、女子生徒に変化が見えてきました。メッセージで“笑”の字が少しずつ使われるようになったのです。やがて、オンライン上で顔を見せて会話もしてくれるようになりました。
鎌田さん
「このときは私もうれしくて泣きました。あんなに“死にたい”とメッセージを送ってきた子が、直接声を聞かせてくれた!って」

自分のことが大好きに

生徒からは「両親とも会話ができるようになった」と知らせが届きました。先週、送られてきたメッセージには「自分のことが大好きになった」とつづられていました。
鎌田さん
「私が何か変えてあげたり、何かをしてあげるということではなくて、ただただ寄り添って話を聞いて、苦しい気持ちを受け止めたい。『死にたい』という言葉も『生きたい』の裏返しで、本当は自分のことを分かってほしいという気持ちがあると思います。昔の自分と似ている子が多い気がするんです。そういう言葉にできないSOSを受け止めていきたい。
だから、今はまず『相手が心を開いてくれるのを待つ』ことを心がけています。生徒たちは、重圧を背負った状態で連絡をしてくれているし、『本当に相談員を信頼していいのか』と迷っている子も多いと思います。その子なりのSOSにあわせて、とにかく『話を聞いているよ』と。『私はベンチに座っていてあなたの話をいつでも聞く。ベンチに座るのも立ち去るのもあなたの自由だよ』というイメージで寄り添いたい」

相談の“一歩”を

他人に相談することは決して簡単なことではありません。そのことを身をもって知っている鎌田さんから、最後に皆さんに伝えたいことがあります。
鎌田さん
「少しでも悩みがあれば相談をしてほしい。『大人を信頼できない』という気持ちも含めて受け入れたいと思っています。私も以前は『みんな敵』、『大人は信用できない』と内心思っていて、手を差し伸べられても自分で払っていました。今思えば、もしあの時、相談員さんに話を聞いてもらえていたら救われていたのかもしれません。
信用できないなら、思いを吐き出すだけでいい。『すべて話さないとだめ』と思わないで下さい。『ちょっとのぞいてみるか』『少しだけグチを話してみようか』というくらいの気持ちで連絡を下さい。少し勇気がいるかもしれませんが、大きな一歩になるかもしれません。
いい成績でなくてもいいし、学校に行っていなくてもいい。生まれてきて、ここまで生きてきただけで十分な価値があります。『大人や周りに合わせられない自分に価値がない』とか『何かを頑張らないと認められない』と考えず、どうかありのままでいて下さい」

オンラインの居場所も

鎌田さんが所属するNPO「若者メンタルサポート協会」では、ボランティアのスタッフおよそ40人が、24時間365日態勢で10代の人たちからSNSで寄せられる相談に応じています。

週3日、夜に2時間、「オンライン居場所」という取り組みも行っています。オンライン上で専門のスタッフが常駐し、子どもたちが互いに顔を見て会話をできる場です。

もちろん、顔や声をOFFにしていても大丈夫。
コロナ禍でなかなか友達に会えないという皆さん。
日頃の出来事やちょっとしたグチでも話してみませんか。

少しでも悩んだり、気持ちを誰かに伝えたいと思ったら

▽若者メンタルサポート協会(鎌田さんが相談員を務めている団体です)
 https://www.wakamono-support.jp/
▽厚生労働省の特設サイト(SNSや電話で相談できる相談先がまとめてあります)
 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
▽相談先を検索できるサイト(厚生労働省 各地の相談機関を検索できます)
 http://shienjoho.go.jp/
▽子供のSOSの相談窓口(文部科学省が設置する24時間対応の電話相談です)
 0120-0-78310
▽特定非営利活動法人 あなたのいばしょ(24時間365日、無料・匿名で利用できるチャット相談窓口です)
 https://talkme.jp/
▽NHKのサイト(“生きづらさ”を感じる多くの人のメッセージが載っています)
 http://www6.nhk.or.jp/heart-net/mukiau/
社会部記者
宮崎良太
平成24年入局
山形局を経て社会部
現在、厚生労働省担当として自殺問題などを取材