コロナ感染の要介護高齢者 自宅で支援ないまま悪化のケースも

新型コロナウイルスの感染が急拡大するなか、介護が必要な高齢者が感染しても自宅で療養を続けざるを得ず、周囲からの支援がないまま状態が悪化するケースも出ています。

千葉県に住む80代の女性は、認知症があり、同居する50代の息子が介護をしていましたが、今月13日に息子の感染がわかり、その翌日、自身も感染が確認されました。

息子が自宅療養をしながら、介護も続けていましたが、容体が悪化して入院。

比較的軽症だった女性は、自宅に1人取り残されてしまったといいます。

保健所などから連絡を受けたケアマネージャーが介護ヘルパーを探しましたが、感染した人のもとを訪問してくれる事業所は見つかりませんでした。

息子の入院の翌日、ようやく見つかったのが、近くの市にある医療的なケアなどを行う訪問看護ステーションで、看護師が訪問した際には、女性は意識がもうろうとした状態で倒れていたといいます。

数日前から食事や水分を十分、取れていなかった上、エアコンを自らつけることができず、脱水により状態が急激に悪化したものとみられています。

救急搬送を要請しましたが、3時間以上、探しても受け入れ先が見つからず、看護師が朝晩2回訪問して点滴などの医療的な対応に加え、食事や排せつなどの介助を続けました。

女性の体調は徐々に回復し、自宅療養期間が終わったため、26日になって介護施設のショートステイを利用できることになりました。

訪問した看護師は「コロナの症状が軽くても高齢者は、介護が受けられないことによる二次的な被害で状態が急激に悪化してしまう。あと少し訪問が遅れていたら命が危険な状態に陥っていたと思う」と話していました。

女性の孫で県外に住む男性は「離れて暮らす孫2人で駆けつけたが、孫のうち1人も感染してしまい家族で対応することには限界があった。保健所に入院を何度も掛け合ったが受け入れてもらえなかった。介護が必要な高齢者が1人で自宅療養をするのは難しいので、何らかの仕組みを整えてほしい」と話していました。

対応した訪問看護ステーションは

女性への訪問を引き受けたのは千葉県八千代市にある訪問看護ステーションです。

訪問看護は、本来、医療的なケアなどが目的で介護が必要な人への対応は訪問介護のヘルパーが担うのが一般的ですが、今回は、感染した女性への訪問を引き受けるヘルパーが見つからなかったことから、対応にあたりました。

所長の山藤響子さんがみずから防護服を着て訪問し、到着した時には、女性は布団の上に意識がもうろうとした状態で倒れていたといいます。

室内はエアコンがついておらず、口の中が乾いていて、脱水の影響と考えられるということです。

すぐ近くには弁当が傷んだ状態のままで置かれていたほか、腰に床ずれもできていて、食事や排せつの手助けといった介護が受けられないことで、状態が悪化したとみられています。

訪問中に女性がけいれんのような症状を起こし始めたことから、命にかかわると判断。

救急搬送を要請しましたが、血液中の酸素飽和度が比較的高く、入院の対象にならないとして、3時間かけても入院先が見つからず、自宅で点滴を行いました。

翌日以降、4日間にわたり山藤さんが毎日2回訪問し、看護だけでなく食事の世話などの介護も行ったということです。

女性は、徐々に回復し、自宅療養期間が終わったため、26日になって息子が退院するまでの間、介護施設のショートステイを利用できることになりました。

山藤さんによりますと、介護や看護の現場では人手不足が深刻となっているうえ、利用者から「ヘルパーや看護師を通じて感染が広がってしまうのではないか」と不安を訴える声が上がることなどから、感染者への訪問を行う事業所は少ないといいます。

今回も山藤さん以外のスタッフは対応せず、対応が終わったあとに、山藤さんは検査で陰性が確認されていますが、それでもほかの利用者からのキャンセルもあったということです。

大和田訪問看護ステーションの山藤響子所長は「現状では感染者への訪問に対応できる事業所は少ないが、感染拡大により、今回のように介護が受けられないことで深刻な状態に陥る高齢者が増えてくると思う。近隣の事業所と連携し、地域で支える仕組みを早急に築く必要があると感じました」と話していました。

高齢者の感染状況は

感染の急拡大に伴い一時期、減少した高齢者の感染も増加しています。

厚生労働省がまとめた「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」の速報値によりますと、今月24日までの1週間に感染が確認された60歳以上の人の数は前の週から1902人増え、1万678人に上りました。

およそ1か月前の先月27日までの1週間の2399人と比べて4.5倍、先月6日までの1週間と比べて7.2倍に上っています。

60歳以上の感染者数はワクチン接種が進んだことなどを背景にことし6月から減少傾向が続き、先月6日までの1週間では1478人まで減りましたが、その後増加に転じ接種開始前とほぼ同じ水準に達しています。

【60歳以上の感染者数】
▽8/18~8/24…1万678人
▽8/11~8/17…8776人
▽8/4~8/10…6119人
▽7/28~8/3…4624人
▽7/21~7/27…2399人
▽7/14~7/20…1874人
▽7/7~7/13…1639人
▽6/30~7/6…1478人
▽6/23~6/29…1605人
▽6/16~6/22…2035人
▽6/9~6/15…2932人
▽6/2~6/8…4168人

専門家「ひとりにさせない仕組み整備を」

介護の問題に詳しい淑徳大学の結城康博教授は「高齢者の感染はワクチン接種が進んだことで一時期減少していたが、さまざまな事情でまだ接種できていない高齢者も一定数いて、感染が再び増加している。感染すると重症化しやすい高齢者は原則入院とされてきたが、感染が急拡大する中、介護が必要な高齢者であっても入院ができなくなるケースは増えているとみられる。行政は、実態を早急に把握する必要がある」と指摘しました。

その上で「高齢者が1人で自宅療養すると、コロナだけでなく『介護難民』となることによって二次的な健康被害が出てしまう。入院が最も望ましいが、病床のひっ迫により難しい場合は、宿泊療養で見守りを行うなどひとりにさせない仕組みを整えることが急務だ」と話していました。