コロナ禍 暴言や暴力など 子どもへの虐待に悩む母親の相談増

新型コロナウイルスの感染拡大の影響が長期化する中、子どもへの虐待に悩む親からの相談が相次いでいます。

静岡県藤枝市でカウンセリングルームを運営している心理カウンセラーの松林三樹夫さんは、10年余りの間に虐待やDVの加害者およそ270人の相談に応じてきました。

松林さんによりますと、去年新たに相談に訪れた人は前の年から6割増えました。

とくに女性の人数は前の年から3倍に増えています。

そのほとんどが暴言や暴力など子どもへの虐待に悩む母親からの相談だということです。

カウンセリングでは、抱えてきた苦しさを吐き出したあと、ストレスを感じて怒りを感じた場合に心の中で「ストップ」と叫んでその場を離れることなど気持ちを落ち着かせる方法を学びます。

松林さんは、「コロナ禍による閉塞(へいそく)的な状況が積み重なっていくと臨界点を超えてあふれてしまい、それが一つには虐待という形で出てしまうのだと思う。ストレスを子どもに向かわせないために、母親が思いを吐き出し、それを受け止める場が本当に必要だと感じている」と話していました。

孤立で追い込まれた母親

松林さんのもとでカウンセリングを受けている30代の女性は3歳の子どもがいます。

しかし去年の冬、夫が子どもを連れて家を出たということで、今は、離れて暮らしています。

女性は感染拡大の前は子どもを連れて自治体が運営する「子育て支援センター」を毎日のように訪れ子どもを遊具などで遊ばせたり子育ての悩みなどをスタッフに聞いてもらったりしていました。

しかし、去年春の緊急事態宣言で子育て支援センターは休館になり、相談ができなくなりました。

その後センターの利用は再開されましたが、利用できる時間が制限されたことでしだいに足が遠のき、自宅にこもって過ごすようになりました。
朝から晩まで子どもと向き合い遊び方を考え続けることが苦痛で面倒だと感じるようになったといいます。

当時2歳になったばかりでイヤイヤ期が始まり、おもちゃを投げて部屋中に散らかすなどの繰り返しで、女性は怒りを抑えることができなくなっていったということです。

夫に悩みを打ち明けてもわかってもらえず周囲にも相談できる人はいなかったということです。
女性は「子どもをふつうに叱るのではなく大きな声で怒鳴ったり、寝室に連れて行って布団や毛布などに投げつけて部屋に閉じ込めたことも何度もあります」と話していました。

女性はカウンセリングを受け精神的な安定を取り戻しつつあるということです。

女性は「子どもには悪いことをしたと思っています。まだ一緒に住める自信はないですが、『そばにはいられないけど、好きだよ』ということは伝えたいです」と話していました。

家庭訪問で支えるNPO

家庭の孤立を防ごうと、感染が広がる中でも対策を徹底し家庭を訪問するなどして母親を支える取り組みが広がっています。

埼玉県にあるNPO法人「川越子育てネットワーク」は、子育ての経験がある女性がボランティアで家庭を訪問し、母親の話し相手になったり育児や家事の手助けをしたりする「ホームスタート」と呼ばれる活動に取り組んでいます。

NPOによりますと5年前にこの取り組みを始めてから、申し込みは増え続け平成30年度の利用は71件にのぼっていました。

しかし感染が広がった▼昨年度は29件、▼今年度も8月現在で11件と大幅に減少しています。

感染への不安から訪問を控える家庭も多くある中で、オンラインで互いに顔をあわせながら話を聞く取り組みにも力を入れているということです。
本田倫江代表理事は、「私たちが出会えていないお母さんで、大変な思いをしている方がいるのではないかと心配していて、感染対策を徹底しながら歩みを止めてはいけないという思いで取り組んでいます。子育ての状況が深刻化すると声をあげにくくなってしまうと思うので、『ちょっと大変だな』と思った時点で、気軽に利用してほしいです」と話していました。

※全国各地で「ホームスタート」に取り組む団体情報は、https://www.homestartjapan.org/

NPOの支援を受けた母親

NPOから支援を受けた30代の母親は5歳と4歳、それに1歳の3人の子どもを育てています。

感染拡大が続く中、子どもたちを実家に預けることができず、周囲にも頼ることができなかったため子育てのプレッシャーに悩んでいたといいます。

「ホームスタート」の取り組みでは子育て経験のあるボランティアの女性から支援を受けることができます。

母親は先月23日に支援を受け昼食を落ち着いて作ることができるよう女性に子どもたちの遊び相手になってもらっていました。

また何気ない会話をしながら抱え込んできた悩みを女性に打ち明けていました。
30代の母親は「誰にも頼れないと思った時点でそれがすごくのしかかってきて苦しくなっていました。いろいろ話を聞いてもらえるとすっきりして安心します。完璧じゃなくてもいいんだと気づけたことで少し余裕が出て、子どもたちにも優しく接することができるようになった気がします」と話していました。