「美容=女性=ピンク」からの脱却

「美容=女性=ピンク」からの脱却
「美容グッズは女性のもの」「女性はだいたいピンク色が好き」ライフスタイルの多様性への意識が高まる中、こうした固定概念はもはや過去のものになりつつあります。

衣料品売り場は男女でフロアが別々。商品の色使いもターゲット層を絞って使い分ける。これまで当たり前に行われてきた販売戦略を見直す企業も出始めています。

(大阪放送局記者 谷川浩太朗 経済部記者 保井美聡)

「きれいなおねえさん」から「忙しい人」へ

「きれいなおねえさんは、好きですか。」

1992年に松下電工(現・パナソニック)が「美容家電」として打ち出した広告のキャッチコピーです。ご記憶の方も多いのではないでしょうか。

この広告は、パナソニックの「美容家電」が世の中に広まる大きなきっかけとなりました。
現在、パナソニックで「美容家電」のマーケティングを担当する神本暁マネージャーはこう振り返ります。
神本マネージャー
「『きれいなおねえさん』シリーズは、当時のコンセプトで言うと、男性目線から見た女性の美しさでした。今見ると、だいぶ時代錯誤のようですが、当時は、それが『美容家電』のひとつのコンセプトとして成立していた時代だったということだと思います」
2010年には、キャッチコピーを「忙しいひとを、美しいひとへ。」に変更。
女性の社会進出で、働く女性が自分を磨く時間が少なくなったと判断し、自宅でも短時間で髪の毛や肌の手入れをしたいという需要を取り込んできました。

高まる男性需要 販売戦略の転換

商品のコンセプトを徐々に変えながら、「美容家電」の分野を開拓してきたパナソニック。現在はドライヤーや脱毛器など、150以上の商品を展開しています。
中でも、髪に潤いを与える効果を売りにしたドライヤーの「ナノケアシリーズ」は、他社と比べて高価格であるにもかかわらず、累計の販売台数は1300万台を超えるヒット商品になりました。

今や、パナソニックの家電の代名詞になるほどに成長した「美容家電」。
しかし今回、パナソニックはこれまでの販売戦略を大きく転換することにしました。
看板商品の「ナノケアシリーズ」の購入者を分析したところ、実に3割を男性客が占めていたことが分かったためです。
神本マネージャー
「正直、男性需要はもっと少ないのかと思っていました。ドライヤーだけでなく、肌をケアする商品でも2割が男性で、『美容家電』に対する男性のニーズはこれまでより強くなっていると感じています」

ピンクから白に

「美容家電」のドライヤーは、女性をターゲットにしてきたため、会社は、これまでの実績から、女性が手に取りやすいようにと、ピンクや赤といった色を打ち出してきました。
実際、私(谷川)が家電量販店に足を運んで見ると、明るいピンク色の商品が目立つ位置に置かれるだけでなく、売り場全体もピンクや赤といった色でデザインされていました。
しかし、美容に対する男性の意識の高まりを踏まえて、会社では、「美容家電」のターゲットを性別にとらわれずに広げることにしました。
「美容家電=女性」、だからピンク色で訴求しよう。そうした、これまでのコンセプトを捨てる決断をしたのです。
明るいピンク色だったブランドのロゴマークは、「何色にも染まっていない」という思いから、白色に。
売り場での展示も、前面に打ち出してきたピンク系統の商品に代えて、紺色や白色といった商品を目立つ場所に置くようにしました。

“100人いれば100通り”

この思い切った転換にも、担当者は自信をのぞかせます。

去年秋に発売した紺色のドライヤーは、女性客からも引き合いが強く、一時は生産が追いつかなくなるほどの人気を集めたのです。
長年、女性をターゲットにしてきたキャッチコピーも、「100人いれば、100通りの髪、100通りの肌。」などへと、性別や年代を問わないものに、抜本的な見直しを図ったといいます。

こうした性別を問わない販売戦略は、LGBTQと呼ばれる性的マイノリティーの人たちにも寄り添うものになっています。
神本マネージャー
「これまではあくまで女性にフィーチャー(特徴付け)した考え方で、ピンクが一番ニーズが高いだろうという経験、実績で展開してきました。ただ、女性だからピンクということではなくて、ピンク以外にも、ネイビー(紺色)や白といった色が好きな方もいる。逆に男性でもピンクが好きな方もいる。色の好みは、性別によらず、個性・嗜好性(しこうせい)の問題で、時代の変化とともに、それぞれの好みや個性を意識して、一人ひとりに合った商品を届けていきたいと考えています」
パナソニックは、「美容家電」のほかの商品でも、今後もこうした販売戦略を拡大していく考えです。

“ジェンダーレス”の商品 アパレルでも

男女を問わない商品の開発は、アパレル業界でも広がっています。

生活雑貨や衣料品を販売する無印良品では、おととしから男女兼用の衣料品だけを集めたブランドの展開を始めました。

性別や体型などの違いを超えた多様性を尊重すべきとの理念のもと、あらゆる人が着心地の良い服をデザインしようと考えたのです。
背の高さや体つきが違う男女が性別関係なく着られる服をどのように作るのか。

このブランドでは、まず体型にとらわれず着用できるよう、肩幅や袖の長さなどにゆとりを持たせ、店頭販売では、男女別に5つに分かれるサイズを3つに絞り込みました。
また、シンプルなデザインを心がけ、色も黒や白、茶色などほかの衣類に合わせやすいものを採用したということです。

会社によると、自宅のクローゼットが狭いものの、服の着回しを楽しみたいという若い世代のカップルなどからも支持されているとのことで、売り上げは販売当初から約3割伸びたといいます。

在庫削減の効果も期待

男女を問わない商品展開は、アパレルの長年の課題であった、過剰な在庫の削減につながると期待されています。
会社では、サイズを3つに絞り込んだことで、男女別の商品より売れ残りが少なくなる見込みだと話しています。

今後、男女兼用の商品比率を現在の1割程度からさらに高めていく計画で、ことしの秋冬に向けては、セーターやフリースなど新たな衣料品を投入することで、およそ3割程度になる見通しだということです。

無印良品を展開する良品計画の山内良介さんは、こう話します。
山内さん
「消費者に受け入れられるのか、不安もありましたが、性別を問わず多くの人に受け入れられています。着る人や性別、年齢にとらわれない服づくりをさらに追求していきたい」

多様性への配慮 広がるか

性別にとらわれない多様性に配慮した取り組みは、アパレル業界ではスペインのZARAやスウェーデンのH&Mなど海外勢が先行しています。

社会的な関心も高まる中で、日本のメーカーでもこのほかに、オンワードホールディングスが新しいブランドを立ち上げたほか、三陽商会やワールドも商品展開を強化しています。

今後、こうした服を街中で見かける機会も増えそうだと感じました。
多様性が求められる時代。性別や年齢などにとらわれない消費の在り方が広がる中で、企業がそうしたニーズにどこまで柔軟に応えられるかが問われることになりそうです。
大阪放送局記者
谷川 浩太朗
2013年入局
沖縄局を経て、地元・大阪で経済取材を担当
経済部記者
保井 美聡
2014年入局
仙台局、長崎局を経て、流通業界などを担当