「抗体カクテル」外来診療でも投与へ 期待と課題

新型コロナウイルスの軽症患者などに使用できる「抗体カクテル療法」の治療薬について、薬を販売する「中外製薬」は26日、説明会を開き、政府が新たに容認した外来診療での投与に対応するためにも、必要な供給量を確保する考えを示しました。

「抗体カクテル療法」は、2種類の抗体を混ぜ合わせて点滴で投与し、新型コロナウイルスの働きを抑えるもので、先月、日本で承認され、軽症から中等症の患者を対象に医療機関や宿泊療養施設での投与が始まっています。

この治療薬を国内で販売している中外製薬が26日、報道機関などを対象にした説明会を電話会議形式で開きました。

この中で奥田修社長は、「デルタ株がまん延し、治療薬の需要が世界的に高まっているが、日本政府からの要請に応じて、必要な供給量を確保したい」と述べ、政府が新たに容認した外来診療での投与に対応するためにも必要な量を確保する考えを示しました。

説明会には、新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで、東邦大学の舘田一博教授も出席し、「軽症から、中等症、重症に向けての薬の選択肢が増えれば、大きな前進になるだろう」と述べました。

抗体カクテル療法 “軽症者の重症化を防ぐ”

「抗体カクテル療法」は、ことし7月に承認されました。

「カシリビマブ」と「イムデビマブ」の2種類の抗体を混ぜ合わせて投与することで、新型コロナウイルスの働きを抑える効果があり、軽症の人の重症化を防ぐことを目的に、初めて軽症患者に使用できる治療薬として承認されました。

発症から8日目以降に投与を開始した場合の有効性を裏付けるデータがないことから7日以内の投与が必要ですが、海外で行われた臨床試験では、入院や死亡のリスクをおよそ70%減らす効果が確認されています。

アメリカのFDA=食品医薬品局が、去年11月に症状が悪化するリスクの高い患者に一定の効果がみられるとして緊急の使用許可を出し、その前の去年10月にアメリカのトランプ前大統領が新型コロナウイルスに感染して入院した際にも使われました。

対象を徐々に拡大 “十分に観察できる体制”が条件

厚生労働省は十分な観察が必要だとして、当初、入院患者に限って使用を認めていましたが、感染の急拡大で、入院できない患者が増えたことから、今月13日、十分に観察できる体制が整っていることを条件に、▽宿泊療養施設や、▽臨時の医療施設として設置された「入院待機ステーション」などで投与することを認めました。

さらに菅総理大臣は、25日の記者会見で外来診療でも投与を容認すると述べました。
(菅総理大臣)
「中和抗体薬は、すでに1400の医療機関で1万人に投与され『重症化を防ぐ極めて高い効果が出ている』という声が現場から寄せられている。これまで対象は入院患者のみとされてきたが、入院せずとも使うことが出来るよう、外来で使うことも可能とする。必要な数量はしっかりと確保している。今後とも50代以上の人や基礎疾患がある人を対象として集中的に使用し、重症化を防いでいく」

中外製薬 「適用対象の拡大」 申請する方向で国と協議

また、中外製薬の奥田社長は26日の記者会見で、濃厚接触者に対する予防的な投与など、適用対象の拡大についても今後、申請する方向で国と協議していることを明らかにしました。

コロナ治療薬 国内では4つが承認

日本国内では、これまでに新型コロナの治療薬として4つの薬が承認されています。

1. レムデシビル
新型コロナウイルスの治療薬として、最も早く2020年5月に特例承認されました。
もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発が進められた薬で、点滴で投与されます。
当初、対象となる患者は、人工呼吸器や人工心肺装置=ECMOをつけている重症患者などに限定されていましたが、2021年1月からは肺炎になった中等症の患者にも投与が認められています。

2. デキサメタゾン
2020年7月に厚生労働省が治療薬として推奨しました。
もともとは、重度の肺炎やリウマチなどの治療に使われてきた炎症やアレルギーを抑える作用のあるステロイド剤「デキサメタゾン」で、イギリスで行われた臨床試験で、重症者の死亡を減らす効果が確認されました。
国内では、抗ウイルス薬のレムデシビルとデキサメタゾンを併用する治療が広く行われていて、2020年春の感染の第1波と比べて、その後の感染拡大で致死率が大きく下がった要因の1つになったと考えられています。

3. バリシチニブ
関節リウマチなどの薬で炎症を抑える効果がある薬で、2021年4月に承認されました。
この薬は錠剤で、酸素投与が必要な中等症以上の入院患者に対して、レムデシビルと併用して服用することが条件となっています。
国際的な臨床試験で「バリシチニブ」と「レムデシビル」を併用すると、「レムデシビル」を単独で投与する場合に比べて患者が平均で1日早く回復したということです。

4. 抗体カクテル療法
2021年7月に承認されました。
「カシリビマブ」と「イムデビマブ」2種類の抗体を混ぜ合わせて、点滴で投与することで、新型コロナウイルスの働きを抑える効果があり、初めて軽症患者に使用できる治療薬として承認されました。

課題は体制の確保

【重症化する前に投与を】
軽症者の重症化を防ぐことが目的の治療で、さらに発症から8日目以降に投与を開始した場合の有効性を裏付けるデータがないことから7日以内の投与が必要です。しかし、感染の拡大にともなって、現在、入院患者の多くが中等症か重症となっているなど、すでに投与の時期を過ぎているケースがあると指摘されています。このため、より症状が軽い人に投与できるよう対象を徐々に拡大してきました。
【投与には副作用に備えた体制が必要】
海外で行われた治験では、投与を受けた4206人のうちの10人に発熱や呼吸困難、酸素飽和度低下、悪寒、不整脈などの症状が見られたということです。

また、アナフィラキシーと呼ばれる重いアレルギー反応も報告されています。いずれも容体は回復したということですが、製薬会社は投与が終わってから少なくとも1時間は状態を観察するよう求めていて、厚生労働省は24時間は健康観察を十分にできる体制を確保するよう求めています。

また専門家は、日本人特有の副作用が出ないかどうかは慎重に見極めるべきだと指摘しています。

【体制の確保は】
“24時間の十分な健康観察”のためには夜間も含めた体制の確保が必要になります。重症患者数が過去最多を更新するなど医療体制がひっ迫する中、いかに体制を確保するかが課題となります。