パラリンピック車いすフェンシング サーブル 日本勢は予選敗退

東京パラリンピックの車いすフェンシング男女のサーブル個人が行われ、日本の加納慎太郎選手と恩田竜二選手、それに阿部知里選手が出場しましたが、いずれも予選リーグで敗退しました。

東京パラリンピックは25日から競技が始まり、車いすフェンシングでは男子と女子のサーブル個人が行われています。

車いすフェンシングは、選手が「ピスト」と呼ばれる器具に固定された車いすに座って互いに向き合い、フェンシングとは違って上半身の動きだけで相手を突くなどしてポイントを競います。

選手は男女ともに障害の程度によってカテゴリーAとBの2つに分けられ、それぞれ上半身を突く「エペ」、胴体を突く「フルーレ」、上半身への突きに加えて斬りも有効になる「サーブル」の3種目の個人戦が行われます。

男子サーブル個人には、障害の軽いクラス「カテゴリーA」に加納選手、障害の重いクラス「カテゴリーB」に恩田選手が出場し、女子サーブル個人には「カテゴリーB」に阿部選手が出場しました。

日本選手は総当たりの予選リーグで海外選手のスピードや体格を生かした攻撃に苦しんで勝ち星を伸ばすことができず、加納選手が1勝3敗、恩田選手が0勝5敗、そして阿部選手が1勝4敗となりました。

この結果、3人の日本選手は、いずれも予選リーグで敗退しました。

加納「待ちに待った舞台 次は勝ちにいきたい」

男子サーブル個人カテゴリーAの予選リーグで敗退した加納慎太郎選手は「海外選手と2年ぶりに対戦して想定していたより圧倒的にスピード感があった。いちばんやられてはいけない負け方をしてしまったと思う。待ちに待った舞台なので少しでも長くいられるように頑張りたいし、しっかりと調整して次の種目では勝ちにいきたい」と話しました。

また会場で、学校連携観戦チケットによる子どもたちの観戦が行われたことについては「子どもたちに勝っている姿を見せたかったので、そこがいちばん、悔やまれる」と話していました。

加納選手は28日に行われる男子フルーレ個人に出場する予定です。

恩田「コロナ影響で試合勘戻らず」

男子サーブル個人のカテゴリーBで予選敗退となった恩田竜二選手は「すごく悔しい。体はすごい動いて調子はよかったが新型コロナウイルスの影響でおよそ1年半ぶりの実戦だったため、試合勘が戻らなかった。その差が出てしまった」と苦い表情で振り返りました。

また会場で学校連携観戦チケットによる子どもたちの観戦が行われたことについて「無観客で観客がいないのかと思ったが、小学生などが来てくれてモチベーションになった。子どもたちが拍手をしてくれたりして会場もよい雰囲気となり、感謝している」と話していました。

恩田選手は28日に行われる男子フルーレ個人に出場する予定です。

阿部「力を全部出しきれず」

女子サーブル個人のカテゴリーBで予選敗退となった阿部知里選手は「もうちょっと勝ちたかった。できる準備はしてきたが力を全部出し切れなかった」と悔しそうな表情で振り返りました。

そのうえで「ボランティアなど、思っている以上にたくさんの方々がサポートをしてくれていて感謝したい。精神的面ではほかの大会よりも落ち着いていて緊張はしなかった。次のフルーレでは本当に勝ちたい」と気持ちを切り替えていました。

阿部選手は27日に行われる女子エペ団体に出場する予定です。

感謝の思いも胸に

パラリンピックに初めて出場した阿部知里選手は地元の高松市内の病院で看護師として働いていて、香川県内ではただ1人の車いすフェンシングの選手です。

阿部選手は子どものころ脊髄の病気が発覚しました。

手術のために入院していた高校2年生の時、楽しく話していた患者が翌日に急に亡くなった経験から「命の大切さ」を実感し、それまで夢見ていた通訳の仕事から看護師を目指すようになりました。

阿部選手は、看護師として働いていた10年ほど前から病気の影響で歩行が困難になり、車いすが必要な生活となりました。

現在、勤めている病院は新型コロナウイルスに感染した患者も受け入れていて、平日、看護師として働いていて仕事のない休日を練習にあてています。

阿部選手は、香川県内でただ1人の車いすフェンシングの選手で練習をするには県外に出る必要がありましたが医療従事者のため、新型コロナが国内で感染拡大して以降は県外に出られず、フェンシングの練習は去年の夏ごろ県内で再開しました。

こうした中、県内の高校のフェンシング部の部員たちが大事な大会を控えながらも練習の環境を整え、練習相手を買って出てくれました。

大会前の先月には「何よりも命が最優先でスポーツは二の次。練習は後回しというか、練習をするという気持ちにさえなれなかった。感染のことを考えるとパラリンピックはやらないほうがいい」とも話していました。

感染の急拡大で新型コロナの病棟で働く同僚たちはほとんど帰宅できず、みずからの感染リスクに対しても覚悟を決めて日々の業務に取り組んでいるといいます。

阿部選手は「同僚に感謝と敬意しかない。とにかく感染を抑えて安全無事な大会を」と望んでいます。

25日の初戦に向けては「支えてくれたみんなのために」という思いに切り替えました。

予選リーグで5人の選手と対戦しブラジルの選手を相手にパラリンピック初勝利を挙げることができました。

試合後「地元で看護師をしていて、どのような思いで試合に臨んでいますか」という質問に対しては「出場が決まってからは大会に出ることに集中している」とパラアスリートとしての一面を見せました。

その一方で、パラリンピックの舞台について「ボランティアやスタッフなど、思ってた以上にたくさんの方々が大会を支えてくれている。感謝したい」とも話していました。

阿部選手は初めての大舞台に会場の人たちだけでなく、今も病棟で働く同僚や、支えてくれた高校生への感謝の思いも胸に挑んでいます。