ビジネス特集

日本の金融が直面する「3つの課題」 金融庁 中島長官に聞く

人口減少、コロナ禍、そして長引く超低金利。各地の地場産業や中小企業のみならず、それを支える地域の金融機関にとっても厳しい環境が続いている。
地方銀行の再編・統合も相次ぐ中、新たに金融行政を取り仕切る事務方トップ・金融庁長官に就任したのが中島淳一新長官。日本の金融が直面する「3つの課題」にいかに取り組むのか?(経済部記者 白石明大)

課題1 コロナ対応の資金繰り支援

「緊急事態宣言の範囲が広がり、時期も延びる。金融機関と金融庁にとっても、新型コロナへの対応がやはりこの1年で一番大きな課題だ
オリンピックで日本選手のメダルラッシュが続く一方で、感染が急拡大していた8月5日。中島長官は、就任後初めての単独インタビューで、この1年で取り組むべき最大のテーマについてこう切り出した。
インタビューに応じる金融庁の中島長官(左)
中島長官は「コロナの影響が大きい企業もあるということも考えると、資金繰り支援が引き続き重要になってくる。金融庁から金融機関に対して、新規融資・条件変更について最大限柔軟な対応を行うよう要請してきているが、引き続き事業者の資金繰りに支障が生じないように万全を期して欲しい」と述べ、『新型コロナ対応での資金繰り支援』を最大の課題に挙げた。

異色の“理系”出身

中島長官は神奈川県出身の58歳。
大学では、コンピュータで図形処理を行うプログラミングの研究をしていた金融庁としては異色の“理系”長官だ。
就任前の1年間は政策や金融機関への検査機能を担う総合政策局長として、電子決済サービスを通じた預貯金の不正引き出し事件への対応や、金融機関に対する金融庁検査と日銀考査を一体的に運用するモニタリング体制の構築などに取り組んだ。金融のデジタル化が急速に進む中、こうした分野に精通する中島長官に金融行政のかじ取りが委ねられたのだ。

課題2 経営基盤強化のため「地銀再編」も

中島長官が、コロナ対策で重視しているのが“地方銀行などの地域金融機関”だ。それだけに、地銀などに対しては注文もある。
中島長官
「コロナで厳しい状況にある事業者に対しては、政府系金融機関などもあるが、地域金融機関が支援の中核を担ってほしい。ただ、そのような中核機能を担うにあたっては、当然のことながら、金融機関自身の経営基盤がしっかりしていることが重要だ」
地銀などの経営基盤の強化に向けて、金融庁が選択肢の1つとして位置づけているのが、合併・統合による「地銀再編」だ
このため、以下のような施策を取り揃えた。
● 同じ地域内にある地銀の合併・統合について、独占禁止法の適用を除外する特例法の施行

● 地域ビジネスを認める銀行の業務規制の緩和

● 日銀とも連携する形で合併・統合にかかる費用の一部を補助する「資金交付制度」など
地銀みずからが再編を決断しやすい環境を整え、いわばお膳立てをしているというわけだ。
実際、ことし5月には「青森銀行」と「みちのく銀行」という同じ青森県内の地銀どうしが経営統合で基本合意したほか、7月にも東北地方で「フィデアホールディングス」(傘下に山形・荘内銀行と秋田・北都銀行)と「東北銀行」(岩手)が県域をまたいだ経営統合を進めることで基本合意した。
中島長官
「コロナへの対応がしっかりできる経営基盤があるのか。それぞれの金融機関が、こうした施策を活用しながら、時間軸をもって必要な取り組みを着実に進めて欲しい。ただ、経営基盤強化の道筋をそれぞれの地銀が描けているかというと、そこは完全に描き切れているというつもりもないので、金融庁としても各金融機関と丁寧に対話を続けていきたい

将来を見据えた“勝負どころ”

金融庁が地銀などの再編を含めた経営基盤強化に重点を置くのは、バブル崩壊後に膨らんだ銀行の不良債権処理が遅れて、地域金融機関の破綻が相次いだという過去の苦い経験があるからだ。地銀の財務健全性について、中島長官は現時点では総じて不良債権比率は低い水準で推移し問題はないとしている。
その一方で、菅総理大臣が去年9月に「将来的には地銀の数が多すぎる」と発言し、話題になった。全国に100の地銀があり、業界関係者の間では「次の再編はどこか。どれだけの数の再編が進むのか」と関心も高まっている。
これについて、中島長官は「数は全然イメージはない。個々の金融機関の経営判断が大事だ」と強調した。しかし、“人口減少”や“超低金利”といった環境に加え、いわゆる「ポストコロナ」、感染拡大収束後の経済活性化や、その先の将来を見据えれば、いまがまさに“勝負どころ”と捉えているのは間違いないだろう。

課題3 みずほ 大規模システム障害への対応

このインタビューの2週間後、みずほ銀行でことし5回目となるシステム障害が発生したが、これも金融庁が取り組むべき課題だ。

みずほ銀行では、ことし2月から3月にかけての2週間足らずの間に4回のシステム障害が起き、金融庁は原因究明や再発防止に向けて検査に入った。それから半年近くになるが、いまも検査が続き異例の長さとなっている。5回目のトラブルに先立つ8月5日の時点で、中島長官は次のように述べていた。
中島長官
「原因をしっかりと究明して、その結果に基づいて金融機関に対して業務改善を促していく。万一、トラブルがあったとしても顧客・利用者の影響を最小限にするにはどうしたらいいのか、あるいは復旧を速やかにするにはどうしたらいいのか、といったことも含めてリスク管理態勢のあり方をきちんと経営問題として取り組んでいってもらいたい」
みずほは、グループ発足後、2002年と2011年にも大規模なシステム障害が起き、その際にも金融庁は行政処分を出している。
大規模なトラブルがたび重なる事態に、金融庁の幹部からは「真の原因を見極けなければ同じ事の繰り返しになる」と指摘する声も出ていたが、ことし5回目のシステム障害はその危惧がまさに現実になった形だ。
「みずほ」首脳による謝罪会見(8月20日)
金融庁は、みずほ側に追加で報告徴求命令を出し、8月末までに報告を求めた上で、一連のトラブルもあわせて行政処分を出すことを検討している。
『新型コロナ対応での資金繰り支援』、『再編を含めた地域金融機関の経営基盤強化』、そして『みずほのシステム障害の原因究明と再発防止』という3つの課題。
中島長官の手腕が問われる1年となる。
経済部記者
白石 明大
平成27年入局
松江局を経て経済部
鉄鋼業界担当など経て
去年9月から金融庁や
地方銀行を取材

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