スマホで撮影された殺人事件 一部始終がSNSに

スマホで撮影された殺人事件 一部始終がSNSに
殴る蹴るの暴行を繰り返し受けた男性。

川に突き落とされ死亡しました。

事件の一部始終は、スマホで撮影されていました。

その動画はSNS上に投稿され、拡散されています。

動画は1本だけでなく何本も。

ネット上では、様々な意見が上がっています。

大阪の繁華街、道頓堀。

当時、現場周辺では、何が起きていたのでしょうか。

(大阪拠点放送局 記者 影山遙平 鈴椋子 千田慎太郎)

実際に起きた殺人事件の一部始終が

川沿いの柵にしがみつく男性。

殴る蹴るの暴行を一方的に受けていました。

頭を蹴られ、最後は川に突き落とされます。

男性はそのまま沈んでいきました。

SNSで拡散されているこの動画。

実際に起きた殺人事件の映像です。

大阪 道頓堀 多くの人が行き交う場所で

事件が起きたのは8月2日・月曜日の午後8時すぎ。

現場は、大阪・ミナミの道頓堀。

誰もが知っているあの看板の真下にある遊歩道です。

当日も多くの人が行き交っていました。
遊歩道で酒を飲んでいた外国人グループ内で、トラブルがあったとみられています。

殺害されたのはベトナム国籍のチン・トゥ・アインさん(21)。

現場から逃走したドミニカ共和国国籍の26歳の容疑者が3日後に殺人の疑いで逮捕されました。

警察によりますと、2人はほかの男性らと一緒に遊歩道で酒を飲んでいました。

知り合ったばかりの関係で、グループ内でトラブルになったとみられています。

少なくとも4人がスマホを向けていた

暴行はおよそ10分間続いたとみられています。

その間、何人もの人がスマホを取り出し、その様子を撮影していました。

当時、現場の周辺はどのような状況だったのか。

私たちは、川の対岸にある防犯カメラの映像を入手しました。
事件現場は、画面の右上の方向、川を挟んで10メートルほどの場所になります。

午後8時15分ごろ、2人がスマホを対岸に向け始めました。

暴行が始まったとみられます。

その後、別の人もスマホをかざします。

この防犯カメラに写っている範囲だけで、4人がスマホを対岸に向けていました。
警察への110通報があったのは、一連の暴行が終わったあとの午後8時22分。

「外国人の男性が溺れている」というものでした。

この間に撮影された動画は事件直後からSNSで拡散しました。

頭を繰り返し殴られたり蹴られたりする被害者の姿が写っています。

動画には、被害者が川に沈んでいく様子まで含まれています。

「ベトナム人死亡」という字幕が加えられていたものもありました。

現場には数十本の花束 被害者を悼むメッセージ

事件から3日後、容疑者は逮捕されました。

その日の夜。

再び現場に行ってみると、数十本の花束が供えられていました。
現場に立ち続けていると、花を手にした人たちが次々と訪れてきました。

1時間におよそ20人。

そのほとんどが被害者と面識はない人たち。

ニュースを見て訪れたというベトナム人の人たちでした。
花を手向けたベトナム人男性
「どうして誰も助けずに、110番もせず動画を撮っていたのか。なぜか分からない。ショック。事件のときも夜8時ぐらい、この時間。このぐらいの人数いたはずなのに」
花束とともに置かれたメッセージカード。

そこにはベトナム語で“安らかにお眠り下さい”と記されていました。

“一部始終を撮影した動画”に様々な意見

事件の動画をめぐっては、SNS上でも様々な意見が出ています。

撮影よりも警察に通報すべきだという声。
「動画撮ってるヒマあるなら通報しろよ」
「頼むから撮ってないで叫んだりなんだりしてその人を助けようとしてください」
「そんなに動画撮りたいんか?救えた命やったと思う」
一方で、事件事故をめぐっては、動画が犯人逮捕の決め手になるケースもあります。
「どうか警察へ情報提供を」
動画をめぐる投稿の中には、そう呼びかけるものもありました。

現場周辺でも話を聞きました。
「ケンカなんかこの辺ではしょっちゅう起きている。巻き込まれたくないから撮影も通報もしない」
「警察官もたくさんいるし『何とかなるやろ』と思って何もしない」
緊急事態宣言の初日に酒を飲んでいたグループのトラブル。

関わりたくないという気持ちも理解できます。

しかし、現場に供えられた花を見たとき、私たちは息をのみました。

「ここで1人の若者が命を奪われたんだ」と。

専門家「若い世代は“無意識”に撮影・投稿」

激しい暴行を受ける被害者と、それを遠巻きに撮影した映像。

私たちは何とも言えない違和感を覚えました。

こうした動画が撮影され、投稿されたことをどう考えればいいのか。

SNSをめぐる問題に詳しい国際大学の山口真一准教授は、撮影や投稿の背景にあるのは「無意識」だと指摘します。
国際大学 山口真一准教授
「若い世代の人たちにとっては、動画や写真を撮影してすぐ投稿するのが日常のルーティーンになっています。投稿するハードルが低く、ものすごく気軽に無意識にSNSで発信しています。事件を目の当たりにしたとき、警察に通報するのに比べて、自分のアカウントで発信する方が圧倒的にハードルは低いと思います」
多くの人にとって110番に通報することは滅多にあることではありません。

それに比べるとスマホの撮影やSNSへの投稿は日常的な行為です。

事件の動画を投稿する心理についてはこう分析しています。
国際大学 山口真一准教授
「人間は衝撃的な場面と出会って、興奮や恐怖を感じたときに、自分だけで抱えるよりも『今こんなことあるよ』と思わず言いたくなる気持ちがあります。さらに、共有することで、少しでも気持ちを落ち着かせようという心理が働いていることも考えられます。ただ、撮影して投稿する前に、一呼吸置いて考えて欲しい。世界に向けて発信すべき内容なのか、意識的に立ち止まって欲しいです」

どう受け止めますか

事件からおよそ1週間後。

改めて現場を訪ねると、手向けられた花はさらに増えていました。

誰もがスマホで撮影した日常を投稿する時代に、殺人事件までもが多くの人によって投稿されたという、今回実際にあった事実。

この動画はいまもSNS上に残っています。

みなさんは、この事実をどう受け止めますか。

もしその場に居合わせたら、どうしますか。
大阪拠点放送局 記者
影山遙平
平成26年入局
さいたま局・福井局を経て、大阪府警担当
大阪拠点放送局 記者
鈴椋子
令和2年入局
大阪府警担当
大阪拠点放送局 記者
千田慎太郎
令和3年入局
大阪府警担当