ビジネス特集

ハワイにホテルはもう要らない? コロナで変わる観光地の姿

日本を含む世界中の人たちを魅了してきた観光地ハワイ。新型コロナウイルスの感染状況の改善でアメリカ本土からの観光客でごった返し、地域経済は以前の活気を取り戻している。ところが、住民の6割以上は「新たなホテルの建設は認めないべきだ」と主張。新規建設を凍結する条例を議会で可決する島まで現れた。ハワイの経済を支えてきた観光に対する「抵抗」とも言える動きは、なぜいまになって始まったのか。その背景を探った。(ロサンゼルス支局長 及川順)

観光客が殺到したこの夏のハワイ

私が取材でハワイを訪れたのは7月中旬。

ロサンゼルスからの飛行機は満席で、ホノルルの空港に着陸したときには拍手喝采の盛り上がりだった。

アメリカの人たちもパンデミックで旅行できない日々が1年以上続いた。それだけにリゾートに到着した喜びはひとしおなのだろう。
ホノルルの中心部に出てみると、歩道は観光客であふれ、レストランは予約をしなければ昼食にも夕食にもありつけないほどだった。
日本食も人気で、うどん屋の前には長い列ができていた。

ワイキキビーチも混雑していて、家族連れは場所を確保するのに一苦労しているようだった。
1年前の静かなビーチの風景が嘘のようだった。

アメリカ本土から観光客が殺到していて、私自身もホテルを確保するのが大変だった。

ハワイを訪れる人の数は感染拡大が深刻だった1年前のおよそ14倍に達した。

老舗ホテルの日本人の広報担当者は、こう話していた。
スレイトン明子さん(ホテルの広報担当)
スレイトン明子さん
「現在お泊まりのお客様は、ほとんどがアメリカ本土からです。アメリカが夏休みに入って稼働率が90%まで伸びています。以前はアメリカ人のお客様もリピーターの方が多かったように思いますが、今は初めてハワイにいらっしゃった方が多いです」
ハワイの観光業は息を吹き返し、地域経済にプラスの効果をもたらした。

去年一時20%を超えた失業率は、ことし6月の時点で8%を切る水準まで改善した。

それなのに、新しいホテルは要らない?

ところが、地域の住民は観光業の回復ですべてが解決したとは考えていないようだ。

パンデミックを経験した住民の変化がうかがえる調査結果がことし6月にまとまった。
ハワイ州観光局がことし4月から6月まで約1800人を対象に行った意識調査だ。

この中で注目されたのは、「ホテルやコンドミニアムなど宿泊施設の新規建設は認めないべきか」という質問に対して、ハワイ州全体の64%が「賛成」と回答したことだ。

特に、アメリカ人観光客に人気があるマウイ島などでは73%、また、カウアイ島では70%という高い数字が出た。

新規建設凍結の条例も

ハワイの人たちはなぜ、観光にこれ以上頼ることに懐疑的になったのか。

理由を探るため、新規建設を認めないとする割合が最も高かったマウイ郡の中心・マウイ島に飛んだ。
マウイ島
オアフ島のホノルルからは飛行機で40分。
かつて王宮が置かれたこともあり、町なかには古き良き情緒が漂う。

PGA=全米プロゴルフ協会のツアーの初戦が毎年行われるゴルフ場や、スノーケリングスポットなどもあり、豊かな自然を生かした観光スポットで知られている。
宿泊施設の新規建設を凍結する条例案
マウイの郡議会では私が訪ねる直前のことし7月初め、宿泊施設の新規建設を凍結する条例が可決されていた。

条例の目的を確認すると、炭素の排出量の増加を食い止め、気候変動の影響を緩和し、地球温暖化を抑制すると書かれていた。
オロワルビーチでの水質調査
この背景の1つにあるとみられるのが、島の西側のコーブビーチやオロワルビーチなどで行われた水質の調査だ。

観光客が激減したパンデミックのあと、水質が改善したという結果が出ていた。
コーブビーチ
マウイ島では、この1年余りの間にこうしたビーチをはじめとする島内のさまざまな場所で、環境の改善が見られていた。

これをきっかけに、住民たちの間で、改めて豊かな自然を大切にすべきという意識が高まったのだという。

住民の一人はこのように話していた。
「観光客がハワイに来るのは、美しい自然があるからです。ただ、あまりにたくさん来ると、自然は破壊されてしまいます」
条例には郡の行政トップが反対しているためすぐに施行されるわけではないが、もし施行となったら、マウイ島では大手チェーンなどが計画している新しいホテルの建設が凍結される可能性も出ている。
ケリー・キング議員
条例を提案したケリー・キング議員に話を聞いた。

日系3世のキング議員は、ハワイにとって観光業が不可欠であることは認めている。

しかし、それに頼りすぎると自然環境への負荷が重くなるうえ、地域経済の安定性という面でも危険だと考えている。
ケリー・キング議員
「マウイ島では住民3人に対して観光客1人が適正と計画で定めています。しかし、現在は住民2人に対して観光客1人でさらに増加しています。すでにオーバーツーリズムなのです」
では、どうやって島の経済を支えていこうと考えているのか。

キング議員が主張するのが、地域経済のダイバーシティ=多様性を確保することだ。

マウイ島ではすでに、経済の多様化に向けて、ひまわりを使ったバイオマス燃料の生産のほか、豊かな自然環境の中でリモートワークをしたいという人たちの受け皿づくりも始まっている。

例えばIT関係の仕事であれば、アメリカ本土の都市部に住む必要もない。

そして、いろいろな人材の移住が進めば、地域の多様性が生まれ、それが強じんな社会作りにつながるという。

キング議員はさらに今後可能性のある分野として、農業、映画、医療などをあげている。
ケリー・キング議員
「新しい産業をいくつか成長させ、それらが地域経済で一定の役割を果たすことになれば、観光だけに頼っている現状を乗り越えられます」

持続可能社会を目指す動きはハワイ全体に

住民の意識調査を行ったハワイの観光政策の司令塔、ハワイ州観光局もかじを切り始めた。

これからは観光に過度に依存するのではなく、持続可能な社会を目指して方向転換をする必要があると考えている。

幹部はこう語る。
カラニ・カアナーアナーさん
カラニ・カアナーアナーさん
「観光客がこなかった1年間は『パンデミックの小休止』となり、産業界やハワイ州にとっては精査を行うための機会になりました。その結果、私たちは再生力のある地域経済へと向かうことになったのです」
ことしのハワイの夏は去年とは打って変わり、観光客でごった返している。

そんな「ハワイブーム」に浮かれて、観光への投資を加速させるのではなく、むしろ、住民が納得できる地域作りという軸足を地面から離すことがないのが、今のハワイだ。
住民の側に立った政策が、地域社会や自然環境を守る。
そして、そのことが結果的に観光客にとってより魅力的なハワイを作る。

パンデミックを契機に、住民、地域のリーダー、そして観光客の3者の間で新たな好循環がうまれそうな予感がする。
ロサンゼルス支局長
及川順
1994年入局
政治部、アメリカ総局(ニューヨーク)などを経て2019年から現職

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