科学・文化

効くのか?効かないのか? イベルメクチン コロナ治療に効果は…

寄生虫が原因で失明などが引き起こされる感染症の特効薬「イベルメクチン」。新型コロナウイルスの患者にも有効な可能性があるとする情報が東京都医師会の会長や一部の医師などから出されています。
しかし各国の保健当局やWHO=世界保健機関、メーカーなどは、これまでのところ臨床試験で有効性は明確に示されていないとしています。「イベルメクチン」をめぐる最新の情報をまとめました。

イベルメクチンとは?

イベルメクチンは、ノーベル医学・生理学賞を受賞した北里大学の大村智特別栄誉教授の研究をもとに開発された飲み薬で、寄生虫によって失明やリンパ管の腫れが引き起こされる病気の特効薬として、アフリカ諸国を中心に世界中で使われています。

日本国内では皮膚に激しいかゆみが出る「疥癬(かいせん)」などの治療薬として承認されていて、細胞を使った実験で去年、新型コロナウイルスの増殖を抑える効果があるとする結果が出されたことから、患者に対する有効性や安全性について各国で研究が進められています。

日本 コロナ治療薬で承認されず 臨床試験で有効性など調査

イベルメクチンは、南米の一部の国などで新型コロナに対する治療薬として認めているところもありますが、日本国内では新型コロナの治療薬としては承認されておらず、北里大学の学校法人「北里研究所」が去年9月から、北里大学病院などで血液中の酸素の値が95%以上の軽症から中等症の一部の患者を対象に医師主導の臨床試験を行って有効性や安全性を調べています。

当初の計画ではことし3月末までに240人を対象にした臨床試験を終えるとしていましたが、北里研究所によりますと、相次ぐ感染拡大で各病院では症状が重い患者の治療を優先せざるをえない状況が続き、ことし6月の時点で参加した患者は半数程度にとどまっているということです。

海外 有効性は十分証明されず研究続く

また、海外でもさまざまな研究結果が報告されてきましたが有効性は十分証明されておらず、研究が続いています。

米・NIH“コロナに有効か結論出せない”

アメリカのNIH=国立衛生研究所はことし2月、イベルメクチンはウイルス性の感染症の治療薬としては承認されておらず、新型コロナの治療について報告された研究のほとんどは対象の患者の数が少なかったり、患者の重症度が明確ではなかったりするなど情報が不完全で、新型コロナに有効かどうか結論が出せないとしています。

米・製薬大手メルク「治療効果 十分な科学的根拠ない」

また、イベルメクチンを製造するアメリカの製薬大手「メルク」も2月「新型コロナウイルスへの治療効果について十分な科学的根拠はない」とする声明を出しています。

WHO 科学的根拠があるか「極めて不確実だ」

さらにWHOは3月、合わせて2407人が参加した16の臨床試験の結果を分析した結果、新型コロナ患者で死亡率の低下や回復を早める科学的根拠があるかどうかは「極めて不確実だ」と指摘していて、イベルメクチンの投与は臨床試験に限るよう推奨しています。

厚労省「有効性や安全性が確立していないことに留意」

そして、国内でも厚生労働省がことし7月末に改訂した医療機関向けの「診療の手引き」では「軽症患者における全死亡や入院期間、ウイルス消失時間を改善させなかったと報告されている」として、新型コロナの治療として「有効性や安全性が確立していないことに留意する」とした薬剤の中に位置づけています。

一方、イベルメクチンについて製薬会社が添付している文書によりますと、副作用として肝機能障害などが報告されているほか、高齢者や妊娠中の女性への投与の安全性は確立していないとしています。

米・FDA 用量多い動物用のイベルメクチン服用「本気でやめて」

アメリカのFDA=食品医薬品局は3月、ウェブサイトで用量の多い動物用のイベルメクチンについて「自己判断で服用して入院した患者がいる」としたうえで「大量に摂取しても大丈夫と聞いたかもしれないが、間違いで非常に危険だ。吐き気や下痢、けいれんなど深刻な被害を引き起こす可能性があるだけでなく、死に至ることもある」と注意を呼びかけたほか、今月にもツイッターで「あなたは馬じゃない、牛でもない、本気で皆さんやめてください」と個人での服用をやめるよう呼びかけています。

コロナ治療薬 国内では4つが承認

日本国内では、これまでに新型コロナの治療薬として4つの薬が承認されています。

1. レムデシビル

このうち、新型コロナウイルスの治療薬として最も早く去年5月に特例承認されたのが抗ウイルス薬の「レムデシビル」です。もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発が進められた薬で、点滴で投与されます。

当初、対象となる患者は
▽人工呼吸器や
▽人工心肺装置=ECMOをつけている重症患者などに限定されていましたが
ことし1月からは肺炎になった中等症の患者にも投与が認められています。

2. デキサメタゾン

続いて、去年7月に厚生労働省が治療薬として推奨したのが、もともとは重度の肺炎やリウマチなどの治療に使われてきた炎症やアレルギーを抑える作用のあるステロイド剤「デキサメタゾン」です。

この薬は、イギリスで行われた臨床試験で重症者の死亡を減らす効果が確認されました。

国内では抗ウイルス薬のレムデシビルとデキサメタゾンを併用する治療が広く行われていて、去年春の感染の第1波と比べて、その後の感染拡大で致死率が大きく下がった要因の1つになったと考えられています。

3. バリシチニブ

ことし4月には、関節リウマチなどの薬で炎症を抑える効果がある薬「バリシチニブ」が治療薬として承認されました。

この薬は錠剤で、酸素投与が必要な中等症以上の入院患者に対してレムデシビルと併用して服用することが条件となっています。

国際的な臨床試験でバリシチニブとレムデシビルを併用するとレムデシビルを単独で投与する場合に比べて患者が平均で1日早く回復したということです。

4. 抗体カクテル療法

そして、ことし7月に承認されたのが「抗体カクテル療法」です。

「カシリビマブ」と「イムデビマブ」2種類の抗体を混ぜ合わせて点滴で投与することで新型コロナウイルスの働きを抑える効果があり、初めて軽症患者に使用できる治療薬として承認されました。

発症してから早期に投与する必要がありますが、海外で行われた臨床試験では入院や死亡のリスクをおよそ70%減らす効果が確認されています。
アメリカのFDA=食品医薬品局が去年11月に症状が悪化するリスクの高い患者に一定の効果がみられるとして緊急の使用許可を出し、その前の去年10月にアメリカのトランプ前大統領が新型コロナウイルスに感染して入院した際にも使われました。

厚生労働省は医師による観察が必要だとして当初、入院患者に限って使用を認めていましたが、感染の急拡大で入院できない患者が増えたことから今月13日、十分に観察できる体制が整っていることを条件に
▽宿泊療養施設や
▽臨時の医療施設として設置された「入院待機ステーション」などで
投与することを認めました。

この薬について、新型コロナウイルスの治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は「投与後に医師による観察が必要なので自宅療養中の患者に投与するのは難しい。一度に大勢の患者が受けられるよう、休止している図書館や体育館などの施設も活用して、この非常事態を乗り切っていくことが必要だ」と話しています。

臨床試験や臨床研究中の薬

このほか、日本国内では
▽関節リウマチの薬「アクテムラ」や
▽新型インフルエンザの治療薬「アビガン」
▽ぜんそくの症状を抑える「オルベスコ」
▽急性膵炎や血栓ができる病気の治療薬「フサン」
それに
▽寄生虫が原因の感染症の薬「イベルメクチン」など
他の病気の治療に使われている薬などで新型コロナに対する効果を確かめる臨床試験や臨床研究が行われています。

専門家 イベルメクチン「闇雲に使われるのは避けるべき」

森島客員教授は「イベルメクチンも期待される治療薬の1つだが、広く使われるためには承認されたほかの治療薬と同様に効果を科学的に実証し、その結果は誰もが納得する主要な医学雑誌で発表する必要がある。イベルメクチンに関する論文ではデータが不正に操作された疑いが指摘されているものはあるが、感染力が強いデルタ株に効くか言及した論文はほぼないなど、はっきりしたことが分からない。医療体制が危機的な状況となる中、医療者と患者の双方が薬を求める気持ちはよく分かるが、もし副作用が出た時に誰が責任をとるのか、患者をどう守るのか、きちんと保証されずに使われるのは問題で闇雲に使われるのは避けるべきだ」と指摘しています。

通販サイトなどで販売 “個人の判断で服用 やめるべき”

「イベルメクチン」について、通販サイトなどでは「新型コロナウイルスへの治療効果が期待されている」などとして販売され、個人的に購入するという人も出てきていますが、臨床試験に詳しい専門家は現段階では有効性に関する科学的根拠は十分ではなく、個人の判断での服用はやめるべきだとしています。

国際的ウェブサイト「科学的根拠 現時点で見つからず」

各国の専門家が論文を検証して科学的な根拠があるか調べている国際的なウェブサイト「コクラン」は先月末、新型コロナに対するイベルメクチンの有効性について各国から出されている論文を調べたうえで「治療や予防のために使用することを支持する科学的な根拠は現時点では見つからなかった」とする結果を示しました。

専門家 “治療効果にレベルの高いエビデンスない”

薬や治療法の臨床試験に詳しい日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之教授は、治療法が有効だとする科学的な根拠=「エビデンス」には信頼度が高いものから低いものまであり、現在のところ、イベルメクチンの新型コロナに対する治療効果にはレベルの高いエビデンスはないと指摘します。

国際的に最高レベルのエビデンスと位置づけられるのは「ランダム化比較試験」と呼ばれる臨床試験で、薬を投与する人とプラセボと呼ばれる偽の薬を投与する人に分け、誰に薬が投与されるか患者も医師も分からない状態で客観的に比較した結果です。
勝俣教授によりますと、エビデンスのレベルは主に5段階に分けられ
▽特にレベルが高い「レベル1」に位置づけられるのが「臨床試験に参加する患者が多いランダム化比較試験で証明された治療法」
続いて
▽「レベル2」が「患者数の少ないランダム化比較試験で証明された治療法」とされています。

そして
▽「レベル3」が「比較対照のない臨床試験で出された結果」
▽「レベル4」が「2例以上の観察研究や事例の報告」で
▽「患者の体験談や医師の治療経験、動物実験などの基礎研究」は最も低い「レベル5」に位置づけられます。

「今の段階で有効性 明確に示されていない」

勝俣教授は、薬や治療法は医師が患者に投与して有効だと感じても臨床試験で有効性が証明されないケースも多いとしています。

そのうえで、新型コロナに対するイベルメクチンの有効性について「ランダム化比較試験で検証されているデータも出てきているが、患者数が少ないものが多く今の段階では有効性は明確に示されていない。診療に当たる医師が経験から有効性について言及しているケースもあるが『投与したあとに症状がよくなった』という患者の経過を見ているだけだ。軽症患者の多くは自然に回復するので、薬に効果があったかどうかは診療現場で確かめることはできない。医師個人の経験に基づく話はどんな名医や権威のある医師であっても、科学的根拠の中では最も信頼度の低い『レベル5』の情報だと見なされる」と指摘しました。

そして「今後、有効性が示されることもあるかもしれないが、現段階では示されておらず個人の判断で服用するのはやめたほうがよい。コロナに限らず、不安な状態になると誤った情報や不確かな情報に惑わされやすくなる。 公的な機関から出される情報などをもとに、レベルの高い根拠に裏打ちされているか、しっかり見る必要がある」と話しています。

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