揺れる“石油の都” ~広がる分断とその針路~

揺れる“石油の都” ~広がる分断とその針路~
「気候変動対策は、もはや“宗教”と化している」。テキサス州最大の石油・ガスの業界団体が主催したフォーラムで、野党・共和党の上院議員は、今の“脱炭素=脱化石燃料”の潮流を強い言葉で批判した。“揺れる石油の都”テキサス州では、気候変動対策をめぐる分断が広がっていた。
(ワシントン支局記者 吉武洋輔)

“脱化石燃料”への声

7月15日、テキサス州アービングのエクソンモービルの本社前に30人ほどの若者たちが集まり、会社への抗議運動を行っていた。
運動を率いるネイサン・メイさんは、スピーカーを使ってまくしたてた。
「洪水、ハリケーン、暴風雨、山火事。こうした災害で家を失った人々のことを考えてみてください。これらはすべて、エクソンのような大企業が利益を追求したことで起こったことです。彼らの時代を終わらせよう!」
仲間たちからは賛同の声が上がった。
メイさんが所属する環境保護団体「サンライズムーブメント」は、2017年に発足した20代の若者たちを中心とした全米組織だ。
環境対策に取り組むことを約束する民主党の左派議員を支援。
バイデン政権の環境政策にも影響力を持ち始めていると言われる。

メイさんは、大企業と野党・共和党とのつながりを批判したうえで、次の選挙でも民主党を勝利させると語った。
メイさん
「今後数年間でほぼすべてのエネルギーを“脱化石燃料”にできるテクノロジーがすでに存在しています。問題なのは、これを実現するための政治的な意志の強さだけです。私たちは去年の大統領選挙にも関与していましたし、来年の中間選挙にもさらに関与していきます」

石油業界と共和党の“蜜月”

一方の石油・ガス業界。逆風に見舞われる関係者の間では、野党・共和党への期待が一段と高まっている。
6月4日、テキサス州最大の石油・ガスの業界団体が行ったフォーラム。そこに招かれたのが、地元選出の連邦上院議員、ジョン・コーニン氏だった。
コーニン上院議員は共和党の重鎮で、いまも党に強い影響力を持つトランプ前大統領と業界とのつなぎ役も務める人物だ。関係者たちは、コーニン上院議員を囲み、握手を求めた。

業界団体が特に意識するのが来年秋の中間選挙だ。
民主党が優勢となっている連邦議会で共和党が議席を奪い返せば、バイデン政権の気候変動対策を食い止められると考えている。
「戦い抜いてこの難局を乗り越える」「エネルギー問題にきぜんとした姿勢で取り組む共和党を応援する」
関係者たちの期待は大きかった。
コーニン上院議員は対談式の演説で、「ワシントンでは気候変動をめぐる、ある種の宗教的な執着が広がっている。バイデン大統領は前政権の政策をひっくり返すことに専念しているだけだ」と、強い言葉でけん制した。

演説のあと会見したコーニン上院議員に、石油・ガスがなぜそこまで重要なのかと尋ねたところ、ロシアや中国など、ほかの国が化石燃料をどのように活用していくかという視点も忘れてはいけないと語った。
コーニン上院議員
「日本もエネルギーを海外から輸入していますよね。アメリカと敵対するロシアは、エネルギーの輸出を止める手段も悪用するため、友好国との関係が重要です。風力や太陽光を使えれば化石燃料は放棄していいと信じる人は世間知らずです。エネルギーの多様化、国家の安全保障の重要性についても学ばなければいけません」

住民の意識は

石油の都・テキサス州は、共和党の地盤だ。
去年の大統領選挙でもトランプ前大統領が勝利し、州知事も共和党所属。しかし、環境というキーワードをめぐっては、住民の間に新たな意識も生まれているようだ。

バイデン大統領が就任したあとに行われた住民705人への世論調査では、州が発電に使う化石燃料を将来的にゼロにすることへの賛否を問う質問に対して、賛成が56%、反対が36%、わからないが8%という回答結果が出た。
気候変動対策を支持する団体の調査ということを踏まえても、世界的な潮流が住民の考え方に一定の影響を及ぼしていることが見てとれる。

“両輪”への動きも

テキサス州での取材の最後に、州立のコミュニティーカレッジ(日本の短期大学に相当)の風力発電の技術実習を見学させてもらった。
若い学生たちが、高さ100メートルの風車の先端にあるタービンまでのぼり、メンテナンスの技術を学んでいた。
男子学生のひとりは、「再生可能エネルギーは世界をクリーンに保ちます」と目を輝かせた。
石油のイメージが強いテキサス州だが、実は風力の発電量がここ10年で3倍に拡大。すでに、環境先進地域のカリフォルニア州を上回り、全米1位となっている。

州政府は、20年以上前から、石油・ガスだけに依存していては衰退してしまう可能性があるとして、風力発電を強化してきた。そうした“両輪戦略”が一定の成果をあげていることも、事実だ。

州の石油・ガス業界も、発電などで発生するCO2を回収して地中や海底に貯蔵する環境技術の開発も進めている。採算面などの課題は大きいが、エクソンモービルなど、資本力のある大企業がこれらの技術にどこまで投資していくかは注目されそうだ。

問われるエネルギー政策

私は2011年の東日本大震災のあと、日本でエネルギー政策の取材を担当した。発電コスト、環境負荷、事故のリスクなど、どのエネルギーにもメリットとデメリットが存在し、結局のところ、国民の要望や選択を踏まえた“最適なエネルギーミックス”をどう構成するかが、国家の重大な役割だと感じた。
経済大国のアメリカでは、国内で使われる電力のおよそ6割が化石燃料で、販売される車の97%にガソリンエンジンが使われている。

環境負荷のない自然エネルギーですべてをまかなうことは究極の理想だが、国民生活に照らした最適なエネルギーミックスをバイデン政権がどのように描いていくのか。その行方は、揺れる“石油の都”の将来にも大きく影響することになる。
ワシントン支局記者
吉武 洋輔
2004年入局
名古屋局・経済部を経て現所属