WEB特集

自宅療養者7万人超 往診医師のタイムライン「危うさはある」

1日の感染発表が2万人を超え、全国で7万人以上が自宅療養。

「これまでと次元が違う、経験したことのない感染拡大」と言われるいま、私たちが直面している事態とはどんなものなのか。

自宅療養者を往診する医師の1日に密着しました。

(社会部記者 金倫衣)
東京・板橋区で在宅医療を行う「板橋区役所前診療所」の鈴木陽一副院長。

自宅療養者や医療現場が直面している状況を知ってほしいと密着取材に応じてくれました。

AM9:30 医師の1日は自宅療養者への電話から始まる

8月某日。

鈴木医師がまず始めたのは電話でした。

前日までに往診した自宅療養者の体調を確認します。
実際の映像
鈴木医師
「きのう伺った医者ですけれども、きょう具合どうですか?指の酸素はどうだったかな?上がってきた、良かったね」
保健所や東京都のフォローアップセンターの業務がひっ迫しているため、それに近い役割を担う必要があるといいます。

保健所から新たな往診の要請も入っていました。
鈴木医師
「指の酸素の数値を測る機器、おたくにあります?届いてないの?」

AM10:00 訪問診療に出発

診療かばんや防護服、消毒液などを積み込み、診療所を出発。

定期訪問を行っている認知症の90代女性を診療したあと、新型コロナの自宅療養者の往診に向かいます。
玄関前で防護服を着ます。

感染対策のため、新型コロナの患者の部屋に入るのは医師1人と決めています。

医療用のマスクにフェイスシールド、手袋、1人ですべて準備するのに5分余り。

気温は33度。

鈴木医師の額には汗がにじんでいました。
診療のたびに、かばんや靴の裏まで消毒します。

保健所への連絡や薬の処方なども含めると、1件当たり通常の訪問診療の倍以上の時間がかかるということです。

診察の結果、患者は軽症でしたが、血液中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターが届いておらず、不安を感じていました。

AM11:45 自宅療養者の往診要請すでに5件

定期診療を行っている呼吸不全の慢性疾患を患う70代の男性を訪問。

この時点ですでに保健所から新型コロナの自宅療養者の往診の要請が5件、寄せられていました。

鈴木医師1人では診きれないとして、同じ診療所の別の医師に、5人のうち2人の往診を担当してもらうことに。

PM0:40 二人目の自宅療養者を往診

出発前に電話で様子を尋ねていた自宅療養者を往診。

再び玄関先で、新しい防護服を着てから入室します。

患者は40代男性。

せきが激しく、食事がとれないと訴えていました。
実際の診察の様子
医師: せきと食べられない?
患者: 2、3日前は普通に食べられたんですけど、熱とだるさで食うのも...。早く薬飲みたい。でも食べられない。

医師: 苦しい?
患者: (話そうとするとせきが)出そう。

(聴診器で心音聞く)
医師: 気管支症状はあるけど低酸素といわれるところまで行っていない。
患者: 肺炎、今なっているのか?

医師: レントゲンとってるわけじゃないからなんとも言えないけど、もしあったとしても、ごくごく限られた少ない範囲だろうと思う。中等症のI。
診察の結果、自宅で療養を続けても問題ない状態だと判断しました。

鈴木医師はステロイドの内服薬を処方することにしました。

PM1:05 入院できないケースも

続いても新型コロナの自宅療養者です。

家族6人全員が感染。

このうち60代の男性の症状が深刻だという連絡でした。

糖尿病などの持病がある患者です。
実際の診察の様子
医師: 静かにしていると、苦しさは大丈夫?
患者: そうですね。

医師: 酸素は91か、ちょっと低いな。

医師: 1回階段上がって下りてきてもらって横になってもらっていいですか?なるべく早足で。

(階段上り下りで負荷かけて確かめる)
医師: 苦しい?
患者: ちょっと苦しい。

医師:
あ~あんまり値、良くない。ちょっと負荷かけると86まで落ちちゃう。回復が悪いね。
右側の背中に雑音があるんですよ。おそらく右側の肺に肺炎があると思います。安静でも92だからね。中等症のIIですね。酸素をもう吸わなきゃいけない。
もちろん入院が望ましい。
肺炎を起こしている可能性が高いことがわかり、鈴木医師はその場で保健所に電話しました。
実際の電話のやりとり
医師: 糖尿病ありの高リスク群で中等症のIIでフェーズ2なので、入院が望ましい。

医師: 右側に肺炎があることは間違いないと思う。

医師: (きょう中の入院は)難しいと思う?ああ本当。
保健所の返答は「きょう中に入院先を見つけるのは厳しい」というもの。

鈴木医師は自宅で酸素を吸入する酸素濃縮器を手配して、しのぐことにしました。

PM2:00 入院できない患者のために酸素濃縮器を手配

いったん診療所に戻った鈴木医師は、すぐに酸素濃縮器を扱う業者に電話します。

しかし、この業者では、150台用意していた機器が数台しか残っていない状況で、届けることができても夜になると言われました。

鈴木医師「まずいね。こんな状況なんだね。まずいね...」

別の会社に依頼してなんとか日中に確保することができましたが、自宅療養者が急増している現実を改めて突きつける出来事でした。

男性は翌日、入院することができました。

PM2:20 八か月の赤ちゃんも さらに2件の往診依頼

再び訪問診療に向かう鈴木医師。

移動中にもひっきりなしに電話が入ります。
この日、6件目の訪問先に到着したときには、さらに2件、新型コロナの自宅療養者の往診要請が追加で入っていました。

「夕方に定期診療が入っているんだけど、それまでに全部、回りきれるだろうか」

そうつぶやいて鈴木医師は防護服を身につけます。

家族3人が感染し、このうち8か月の赤ちゃんの状態を診てほしいという依頼でした。
実際の映像
医師: ちっちゃいね。こんにちは。びっくりしたね。
母: 38度8分ぐらいで。

(パルスオキシメーターを苦労しながらつける)

医師: 指どうかな、難しいかな。ごめんね嫌だね。難しいね。大人と手が違うからな。

医師: だめか

医師: もしもししようね。音、大丈夫だね、よかったね。
赤ちゃんは幸い、呼吸も安定し、その後症状は回復しました。

PM2:50 自宅療養で不安募る女性

自宅療養者の往診は続きます。

一人暮らしの30代の女性。

発症して4日目ですが回復せず、自分で救急車を呼んだものの搬送してもらえなかったといいます。
実際の映像
医師: 今一番つらいのはなに?
患者: 熱と

医師: きょうは最高で何度?
患者: 最高で9度3分。ここ(胸)から先に息が入らない感じで苦しい。

(女性しんどそうに立ち上がる)

医師: がんばってね。しんどいね。これ(パルスオキシメーター)貸してあげるから毎日3回測ってください。こうやって指を入れればいいだけだから安静では必ず95超えていることが大事。

(せき込む女性)
患者の不安が大きかったものの、酸素飽和度は安定していたことなどから状態は深刻ではないことや、症状はあと数日は続くことを説明しました。

そのうえで、鈴木医師が持っていたパルスオキシメーターを貸し出し、薬を処方しました。

PM3:30 若い人に増える自宅療養

続いての往診先も30代の女性でした。
診療の結果、軽症でしたが、パルスオキシメーターが届いておらず、急にせきが激しくなるなどしたため、不安が募っていました。
鈴木医師
「いま、自分がどれくらい重いのか心配になったということのようです。新型コロナはかぜよりも熱やせきが長く続くので、不安は強くなると思います。そのなかで保健所に連絡がとりづらくなっているとか、入院しづらくなっているという情報が増えているので、なおさら不安になるのは理解できますよね」

PM5:05 「自宅療養でこぼれてしまう人がいるのでは」

最後に、定期診療のALSの患者の自宅を訪問し、鈴木医師は診療所に戻りました。

鈴木医師が往診した新型コロナの自宅療養者は、この日、6人。

この後も書類作成などが続くという鈴木医師に、合間に話を聞きました。
鈴木陽一 医師
鈴木医師
「7月の途中から感染者が急速に増えてきて、自宅療養者が増えてくるというのはもちろん予想はしていたことだけれども、実際いざその渦中に入ってみると、ちょっと厳しいなと感じています」

「当初、自分のなかでは、一般の診察をしながら兼務していこうと思っていましたが、きょうもそうだったけど、一般の診察をある程度制限しないと自宅療養者を診るということはできないだろうなと強く思っていますね」
新型コロナの患者を在宅で診察することにも、難しさを感じていると言います。
鈴木医師
「肺の画像診断なしで診察するので、難しいです。また、入院していたら毎日定期的に脈拍や呼吸などの数値を確認しますが、家では必ずしもそうではないので、具合が悪くなったときに誰が気付くか、危うさはやっぱりあると思いますね」

「在宅医療を20年ぐらいやってますけど、新型コロナ特有の肺の異常を聴診だけでは見分けがつきづらかったり、あるいは急に状態が変わっていくという疾患としての特徴を考えると、自宅療養ではこぼれてしまう人がいるんじゃないかという心配は常にあります」

密着後記

鈴木医師はこの日、昼食をとる時間もなく、唯一休憩時間と言えたのはトイレに行く数分でした。

毎回、防護服の着脱を繰り返すため、離れた場所からも大量の汗をかいているのが分かりました。

また、感染拡大以降、新型コロナ以外の患者からの訪問診療の希望も増えているといいます。

「入院すると感染対策で面会できなくなったり、みとりがままならなくなる」という理由で自宅で過ごしたいという末期がんの患者や、新型コロナの専用病床を確保するために手術や入院が延期された人たちです。

この感染拡大は、医療にかかろうとする多くの人に影響を及ぼしているのです。

そして、今回の密着取材で実感したのは、自宅療養の厳しさです。

症状の程度も年齢もさまざまですが、共通していたのは“もしも急変したら”という恐怖と、すぐに医療につながれない不安。

本人や家族が追い詰められている現実がありました。
社会部記者
金倫衣

平成24年入局
初任地の山口県では事件や行政のほか救急医療など幅広いテーマを取材
平成29年社会部に異動し警視庁を担当したのち、現在は医療・介護の分野を担当

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