「東京の感染拡大 制御不能な状況」東京都のモニタリング会議

東京都のモニタリング会議で、専門家は「かつてないほどの速度で感染拡大が進み、制御不能な状況で、災害レベルで感染が猛威を振るう非常事態だ」と指摘したうえで「医療提供体制が深刻な機能不全に陥っている」として、極めて強い危機感を示しました。

会議の中で、専門家は、都内の感染状況と医療提供体制をいずれも4段階のうち最も高い警戒レベルで維持しました。

新規陽性者の7日間平均は、11日時点でおよそ3934人と2週間で倍増していると説明し「かつてないほどの速度で感染拡大が進み、新規陽性者が急増しており、制御不能な状況だ」と指摘しました。

「災害時と同様 自分の身は自分で守る行動が必要な段階」

そのうえで「災害レベルで感染が猛威をふるう非常事態だ。もはや、災害時と同様に、自分の身は自分で守る感染予防のための行動が必要な段階だ」と述べました。

また、11日時点で、入院患者は過去最多の3667人となり「都の入院調整本部では、翌日以降の調整への繰り越しや自宅での待機を余儀なくされる事例が多数生じている」と指摘しました。

専門家は「特に重症患者の入院調整が困難になっている。自宅療養中に容体が悪化した患者の受け入れも難しくなっていて、自宅などでの体調の悪化を早期に把握し、速やかに受診できる体制をさらに強化し、自宅療養中の重症化を予防する必要がある」としています。

“危機感を現実のものとして共有する必要”

また、専門家は、11日時点で重症の患者が197人、人工呼吸器などによる治療がまもなく必要になる可能性が高い患者が461人と大幅に増加しているとして「ICUなどの病床の不足が危惧される」と述べました。

そして「通常医療も含めて医療提供体制が深刻な機能不全に陥っている。さらなる重症患者の増加は医療提供体制の危機を招き、救命できる可能性がある多くの命を失うことになる」と述べ、極めて強い危機感を示したうえで、危機感を現実のものとして共有する必要があると強調しました。

人工呼吸器で治療の可能性の人 過去最多に

都内の入院患者のうち、人工呼吸器などによる治療がまもなく必要になる可能性が高い状態の人は、11日時点で過去最多の461人に上り、1週間で1.4倍に増加しています。

都の専門家は毎週行われるモニタリング会議で、医療機関で集中的な管理が行われている「重症患者に準じる患者」の人数を公表しています。

このうち、人工呼吸器またはECMOによる治療がまもなく必要になる可能性が高い状態の患者は、11日時点で過去最多の461人となりました。

318人だった1週間前の今月4日から一気に140人以上増えて1.4倍に増加しました。

過去最多を更新するのは2週連続です。

461人のうち、およそ半数の236人は鼻から高濃度の酸素を大量に送り込む「ネーザルハイフロー」という装置を使った治療が行われているということです。

小池知事「人流 緊急事態宣言開始直前の5割に」

モニタリング会議のあと、東京都の小池知事は「まもなくお盆が始まるが、この期間中はステイホームを徹底し、旅行や帰省の中止延期をお願いしたい。人と人との接触をいかに減らしていくかが感染防止につながるので、人流を緊急事態宣言の開始直前の5割に削減することを徹底してほしい」と述べました。

また「多くの人が利用する商業施設には、入場整理の徹底や客に短時間の利用を呼びかけていただくよう、お願いしている」と述べました。

救急患者受け入れ先探し「東京ルール」の運用 過去最多

都は、救急患者の受け入れ先を探す際に、消防の救急隊が5つ以上の病院に断られたり、20分以上経過しても決まらなかったりして困難をともなう場合、地域の中核病院などが搬送先を探す「東京ルール」という仕組みを運用しています。

この仕組みの適用件数が、新型コロナウイルスの感染の急拡大に伴って増加していて、7日間平均は11日時点で133.7件となり、過去最多となりました。

1週間前の8月4日の98.1件の1.36倍で、7月以降、増加傾向が続いています。

専門家は「極めて高い水準で、救急医療の深刻な機能不全を反映している。救命救急センターなどでの救急の受け入れ体制は、より厳しさが増し、搬送先の選定が困難となっている。また、救急車が患者を搬送するために現場到着から病院到着までの活動時間ものびている」と述べ、救急医療が厳しい事態に陥っていることに強い危機感を示しました。

入院調整 8割が調整つかず翌日以降に繰り越し

感染の急速な拡大に伴って、都内の保健所から都の入院調整本部に調整が依頼された件数が急増していて、7日間平均は11日の時点で608件に上りました。8月4日時点の450件の1.35倍で、過去最多です。

調整がすぐにできないケースも相次いでいて、都によりますと、11日に依頼があった737人のうち、8割近くにあたる570人は調整がつかず、翌日以降に繰り越しになったということです。

専門家は「翌日以降の調整に繰り越したり、自宅での待機を余儀なくされたりするケースが多数生じていて、調整が難航している」と指摘しています。

「抗体カクテル療法」 宿泊療養施設でも

「抗体カクテル療法」と呼ばれる、新型コロナウイルスの治療法について、都は、医療機関に加えて、宿泊療養施設でも薬の投与を進めるための準備を進めています。

「抗体カクテル療法」は、2つの薬を同時に点滴投与することで、抗体が作用してウイルスの働きを抑える治療法で、海外の治験では入院や死亡のリスクを70%減らすことが確認されています。

この治療法について、小池知事は「入院重点医療機関およそ120か所で実施できるよう、薬剤を常備する体制がとれた。まず、都立公社の病院で専用の病床を20床程度確保し、今後、順次拡充していく」と述べました。

そのうえで「宿泊療養施設の一部を臨時の医療施設として、抗体カクテルの療法に対応できるよう体制を整備しているところだ。ワクチンと抗体カクテルという2つの武器を有効に活用していくことがポイントになる」と述べ、医療機関に加えて宿泊療養施設でも、薬の投与を進めるための準備を進めていることを明らかにしました。

また、小池知事は「重症者を抑えることにつながれば、医療の負担軽減になる。今の状況が少しでも改善すればと考えている。政府とも緊密に連携をとりながら進めている」と述べました。

専門家「有事で緊急事態 自分の身を守って」

国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長は「有事そのもので緊急事態だ。これは、もう現実に起こっていることなので社会として共有する必要があると思っている。非常事態なので、自分の身は自分で守っていただくしかない。感染を防ぐための方法を、いま一度確認していただき、とにかく自分と周りの人の身を守るということをぜひお願いしたい」と強く呼びかけました。

専門家「自宅療養中に亡くなる患者さんも まさに災害」

東京都医師会の猪口正孝副会長は「重症患者が非常に増えていて、救急医療は本当にひっ迫している。残念ながら自宅で療養中に亡くなる患者さんもいた。自宅療養の患者さんを診るためにあらゆる手を尽くしているが、やはり入院しているのとは違い、なかなか手が届かない。まさに災害という状況にある」と述べました。

そのうえで「感染者数を下げないことには、この状態は乗りきれない。協力をお願いしたい」と述べ、感染防止対策の徹底を強く呼びかけました。

都内の感染状況と医療提供体制 専門家の分析結果

12日のモニタリング会議で示された都内の感染状況と医療提供体制についての分析結果です。

感染状況

新たな感染の確認は、11日時点で7日間平均が3933.9人となり、前回、今月4日時点の3443.3人よりおよそ490人増加しました。

一方、増加比は前の週のおよそ114%で、およそ178%だった前回よりも64ポイント減少しましたが、7週連続して100%を超えていて、専門家は「依然として高い水準で増加し続けている」と指摘しました。

そのうえで「今回の増加比の114%が継続すると、2週間後の来月25日の7日間平均の予測値は今の1.3倍のおよそ5113人となる。現状の感染状況が継続するだけでも医療提供体制の維持が困難となる」と述べ、強い危機感を示しました。

このほか、インドで確認された「L452R」の変異があるウイルスに感染した陽性者の割合が80%を超え、81.7%になったことが報告されました。

専門家は「流行の主体が、感染力が強いこのウイルスに置き換わった」と述べました。

今月9日までの1週間に感染が確認された人の年代別の割合は、
▽20代が32.9%と最も多く、7月以降、6週連続で30%を超えました。
次いで、
▽30代が21.3%、
▽40代が15.8%、
▽50代が11.3%、
▽10代が8.6%、
▽10歳未満が4.5%、
▽60代が3.2%、
▽70代が1.3%、
▽80代が0.9%、
▽90代以上が0.2%でした。

6月中旬以降、50代以下で全体の90%以上を占めていて、専門家は「若年層を含めたあらゆる世代が感染リスクがあるという意識をより一層強く持つよう啓発する必要がある」と指摘しています。

一方、比較的抑えられていた65歳以上の高齢者の感染者数は今週は956人で、596人だった前の週の1.6倍に増え、新規陽性者全体の増加比よりも上回っています。

1か月前と比べるとおよそ4.5倍となり、専門家は「高齢者層は重症化リスクが高く入院期間が長期化することもある。厳重な注意が必要である」としています。

感染経路が分かっている人では、
▽同居する人からの感染が61.4%と最も多く、
次いで、
▽職場が16.3%、
▽保育園や学校、それに高齢者施設や病院といった施設での感染が5.5%、
▽会食は3.9%でした。

特に、施設での感染では10歳未満が先週の82人から189人と大きく増加し、専門家は「保育園や学童クラブなどでの感染防止対策の徹底が必要だ」としています。

また「多くの人が集まる新宿の複数の大規模商業施設で数十人規模のクラスターが発生していて、第4波までとは明らかに異なる速度や範囲での感染が爆発的に拡大している。こうした感染拡大を抑えるためには、人と人との接触の機会を減らす対策を抜本的に見直す必要がある。また、会食による感染は20代を中心に若い世代で割合が高い。夏休み期間中でも、帰省や、ふだん会っていない人との会食は、特に避ける必要がある」と指摘しています。

「感染の広がりを反映する指標」とされる、感染経路が分からない人の7日間平均は11日時点で2484.6人で、前の週からおよそ244人増え、2か月以上連続して増加しています。

一方、増加比は、11日時点で110.9%と前回から68.9ポイント低くなりましたが、依然として100%を上回る水準で推移しています。

専門家は「引き続き感染拡大に厳重な警戒が必要だ。さらなる拡大を防ぐためには人流を徹底的に減少させる必要がある」と警戒を呼びかけました。

感染経路が分からない人の割合はおよそ63%で前の週の横ばいでした。

感染経路が分からない人の割合は20代から50代で60%を超え、特に、行動が活発な20代と30代では70%を超えています。

医療提供体制

検査の陽性率の7日間平均は11日時点で22.5%となり、前の週の今月4日時点の20.7%から上昇しました。

専門家は「新規陽性者の急激な増加に検査体制が追いついていない可能性があり、PCR検査体制の強化が必要だ。検査を受けていない潜在的な陽性者が増加している可能性がある」として、症状がある場合は早期に検査を受けるよう強く呼びかけました。

入院患者は、11日時点で3667人でした。今月4日の時点より268人増加し、過去最多を更新しました。

専門家は「コロナ患者を受け入れている医療機関の多くが通常の救急患者の受け入れを行う病院であり、緊急を要するけがや病気の患者の救急搬送、受け入れにも大きな支障が生じている。現状の感染状況が継続するだけでも医療提供体制は維持できなくなる」と述べ、極めて強い危機感を示しました。

そのうえで「医療機関は限りある病床の転用や、医療従事者の配置転換などでおよそ1年半にわたり新型コロナの患者の治療に追われるとともに、ワクチン接種にも多くの人材を充てていて、疲弊している。そのような状況にあっても医療機関は現状を『災害』ととらえ、それぞれが懸命に立ち向かっている」と述べました。

入院患者を年代別にみると、60代以下が全体のおよそ87%と継続して上昇傾向にあり、年代別では、50代が最も多く全体のおよそ23%、次いで40代がおよそ22%となっています。
30代以下でもおよそ33%を占めていて、専門家は「若年、中年層を中心とした入院患者が急増している。遅れて、この年齢層の重症患者も急速に増加している」と指摘しました。

また、都の基準で集計した11日時点の重症患者は今月4日時点の115人から82人増えて過去最多の197人です。
男女別では、男性156人、女性41人です。
年代別では、
▽50代が最も多く67人、
次いで、
▽40代が52人、
▽60代が36人、
▽70代が18人、
▽30代が14人、
▽20代が5人、
▽80代が4人、
▽10代が1人でした。

専門家は「40代以上が重症患者全体の90%を占めている。それらの世代に対して、ワクチン接種は重症化の予防効果が期待されていることを啓発する必要がある」と指摘しています。

そのうえで「今週は10代と20代、30代でも新たな重症例が発生している。肥満や喫煙歴がある人は若年であっても重症化リスクが高い」と指摘しました。

このほか、人工呼吸器かECMOの治療がまもなく必要になる可能性が高い状態の人は11日時点で461人で、今月4日時点より143人増えました。

11日時点で陽性となった人の療養状況を今月4日時点と比べると、
▽自宅で療養している人は4613人増え、1.3倍の1万9396人、
▽都が確保したホテルなどで療養している人は48人減って、1765人でした。

また、医療機関に入院するか、ホテルや自宅で療養するか調整中の人は1153人増えて1万861人となりました。

入院患者を含めた「療養が必要な人」全体の数は3万5689人で、今月4日時点の1.2倍に増加しました。

専門家は「自宅療養者と調整中の療養者が急増していて、自宅で死亡する人も複数発生している」と述べ、新規陽性者数を減らすことが極めて重要だと指摘しました。

一方、今月9日までの1週間で新型コロナウイルスに感染した21人が亡くなりました。このうち10人は70代以上でした。