ポストコロナの課題 どう立ち向かう?~100社調査から見る(2)

ポストコロナの課題 どう立ち向かう?~100社調査から見る(2)
「脱炭素」「半導体不足」「人権リスク」
日本企業には、コロナが収束したあとにも、たくさんの課題が待ち受けています。
NHKが行った国内の主な企業100社へのアンケートから、ポストコロナを見据えて模索を始める企業の姿が見えてきました。(経済部記者 池川陽介)
[主要企業100社アンケート]
・実施時期 2021年7月21日~8月4日
・実施方法 WEBアンケート
・対象 国内企業100社(全社から回答を得た)

脱炭素 企業の取り組みは?

まずは「脱炭素」です。
政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする
「脱炭素社会」の実現を目指しています。
Q 脱炭素に向けた具体的な目標や事業計画を策定していますか。
全体の8割の企業が「策定している」と回答。
世界的に脱炭素の動きが広がる中で、積極的に対応しようとする国内の企業の姿勢がうかがえます。

また、2030年に向けて温室効果ガスを2013年度に比べて46%削減する政府の目標についても聞きました。
結果は「達成できる」が9社、「厳しいが達成できる」が51社で、達成できるという回答が6割を占めました。

脱炭素の課題は

目標達成に向けて必要だと思うことは何でしょうか。複数回答で尋ねました。
「再生可能エネルギーの調達」が68社、「脱炭素の技術革新」が53社、「自社施設での省エネ推進」が46社でした。
目標達成のために政府がすべきこととしては「脱炭素の技術革新の支援」が74社、「環境配慮の商品・サービスの購入を促す経済対策」が31社、「省エネの推進」が26社、「カーボンプライシングの推進」が23社でした。
2030年まで、あと9年しかありません。まずは再生可能エネルギーの活用や省エネなど自前でできるところから着実に進める。そして中長期的には、政府の支援を受けながら脱炭素に向けた技術開発を進める必要がある、ということでしょうか。

このアンケート結果。
気候変動をめぐる経済情勢に詳しい専門家は、次のように指摘します。
田上さん
「各企業にとって非常に厳しい目標だが、なんとか達成しようという強い意志が表れている。鉄鋼や化学などは簡単に原料やエネルギーを変えることが難しく、運輸業界もすぐに電気自動車に切り替えることはできない。このため2030年までに限定せずに2050年に向けて技術革新を着々と進めていくことが重要になる」
では、技術革新の課題はどこにあるのですか?
田上さん
「エネルギーとして水素を使ったり、地中に二酸化炭素を埋めたりする技術開発が特に大事になるが、アメリカや中国、ヨーロッパでは大量の資金を脱炭素の技術開発に投入し、開発した技術が市場で利益を生み出すところまで支援を行っているところが多い。しかし、日本では先が見えない状況の中で、脱炭素の技術開発に腰を据えて取り組める企業が少ないのが現状だ。日本でも競争力のある技術を開発し、育てていくことが必要だと思う」

資金調達にも変化が

地球温暖化対策など環境の分野に資金の使いみちを限って資金調達する「グリーンボンド」と呼ばれる債券。
この社債を「すでに発行している」が23社、「今後発行を予定している」が1社、「発行を検討している」が24社に上りました。

「グリーンボンド」は欧米や中国などで発行の動きが拡大しています。
国内でも環境への取り組みを強化する動きが広がっているといえそうです。

世界的な半導体不足 影響は…

次は「半導体不足」です。
スマートフォンや自動車、家電など幅広い製品に使われ「産業のコメ」とも呼ばれる半導体。コロナ禍で広がったテレワーク用のパソコンやゲーム機、それにアメリカなどで販売が急回復した自動車向けの需要が増え、世界的に供給が需要に追いつかない状況となっています。
Q 世界的な半導体不足による事業への影響はありますか。
「影響がある」が20社、「やや影響がある」が37社で、全体の半数以上の企業が事業に影響が出ていると回答しました。
「影響がある」「やや影響がある」と回答した企業に具体的な影響を尋ねました。
「半導体を使った部品の調達困難」が45.6%、「半導体の調達価格の上昇」が26.3%、「減産」が22.8%でした。

幅広い業種に影響広がる

半導体不足の影響で自動車業界では部品を十分調達できず、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなどの各メーカーが相次いで減産や工場の稼働を一時停止する事態になりました。

影響は身近な家電にも広がり、家電量販店でも洗濯機や電話機の一部の製品が品薄になっているところがあります。

このほか情報通信では、楽天モバイルが通信規格が4Gの通信エリアについて、基地局に使われる半導体が足りないことを理由に通信エリアの拡大が当初示していた目標より遅れるという見通しを明らかにしています。

影響はさらに幅広い業種にも。
「自動車の生産が減ったことで輸送量が減少した」(運輸

「半導体を使った製品の調達が難しくなっている」(情報通信・金融・メーカー
企業の間には世界的な半導体不足が長期化することへの懸念も広がっているようです。

国の政策に影響も

この半導体不足、いつまで続くのでしょうか。

半導体の動向に詳しい英調査会社「オムディア」の南川明シニアディレクターは、次のように見ています。
南川さん
「半導体メーカーは今、巨額の設備投資を行っているので、自動車向けの半導体の不足は徐々に改善に向かうと予想される。ただ、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの政策には世界中で投資が行われようとしており、風力発電や太陽光発電、車のEV化で我々の想像を超える半導体需要が生まれ、来年の後半になっても不足が続く可能性がある。そうなれば、カーボンニュートラルや5Gの普及といった国の政策の進捗にも影響が出る可能性がある」

人権問題“リスクある” 半数超

最後は「人権問題のリスク」です。

サプライチェーン上の人権問題をめぐっては、アメリカ政府が、新疆ウイグル自治区で強制労働によってつくられた疑いがある太陽光パネルの材料や綿製品などの幅広い製品を輸入禁止の対象にしていて、企業の活動に影響が出始めています。
Q 事業展開をする上で、人権問題のリスクはありますか。
「リスクがある」と回答した企業は58社で全体の半数を超え、多くの企業が人権問題を経営上の課題と捉えていることがわかりました。

「リスクがある」と回答した企業の声です。
「サプライチェーンにおける間接取引先など、情報管理が困難な取引先で人権侵害の問題が発生するリスクがある」(メーカー

「強制労働で製造された原材料を使った商品が店頭に並んでしまう」(小売
中には、海外だけではなく、国内のビジネスでの人権リスクを指摘する声も。
「外国人実習生など外国人労働者に対する人権リスクが懸念される」(インフラ・建設
サプライチェーン上に潜む新たな課題。
アンケートでは、2次、3次の間接取引先を含む自社の調査体制について尋ねました。
「整備している」が34社、「整備済みでさらに強化」が24社、「整備していないが、今後整備を予定している」が20社となり、8割近くが人権問題について自社で調査する必要性を認識していました。

ポストコロナ見据え 模索する企業

急速に進む少子高齢化や人口減少、人手不足。コロナ前から日本企業の眼前には“宿題”が山積みになっていました。そこに突然降ってきたコロナ禍。脱炭素や半導体不足、人権リスクなど、世界的な課題にも直面しています。

しかし、立ち止まってはいられません。いつか訪れるポストコロナの時代、世界経済の回復が進む中で、日本企業は存在感を示すことができるのか。
模索は続いています。
経済部記者
池川 陽介
平成14年入局
仙台局、山形局
などを経て
現所属