ビジネス特集

100社調査から見る日本経済の現在地 (1) ~景気回復はいつ?

東京オリンピックが終わりました。

「ウイルスに打ち勝った証し」となり、日本経済の回復は力強さを増していくはずでした。

しかし今、変異ウイルスによる感染が急拡大し、その状況は日々深刻さを増すばかりです。

日本経済がコロナ前の水準に戻るのはいつになるのか。

NHKは国内の主な企業100社にアンケートを行い、その現在地を探りました。

(経済部記者 池川陽介)
[主要企業100社アンケート]
・実施時期 2021年7月21日~8月4日
・実施方法 WEBアンケート
・対象 国内企業100社(全社から回答を得た)

景気回復は“来年以降”が7割超

Q 日本経済がコロナ前の水準に回復するのはいつだと予想しますか?
最も多かった回答は「2022年前半」の30社。

次いで「2022年後半」が24社でした。

このほか「2023年」が16社、「2024年」が3社で、全体の7割以上の企業が本格的な景気回復は「来年以降」になると考えていることが分かります。

政府は、ワクチン接種を進める中で経済回復が本格化し、ことし中にGDPがコロナ前の水準に戻るという見通しを示しています。

しかし、変異ウイルスによる感染の急拡大やワクチン接種の遅れを理由に、企業は経済の回復に厳しい見方を示していることがうかがえます。

景気回復 個人消費がカギ

Q 日本経済の回復に向けて必要なことや課題は何なのでしょうか?
最も多かったのが「個人消費の回復」で82社。

次いで「政府の大規模な経済対策」が26社、「設備投資の増加」が23社、「脱炭素への対応」が19社などとなりました。

企業から寄せられた声です。
「現役世代へのワクチン接種が進展し、人の流れが正常化することが必要」
2022年前半・商社

「経済活動制限を緩和することにより個人消費を回復させることが肝要」
2022年前半・メーカー

「少子高齢化などで労働力の低下が懸念される中、国を挙げたDX化の進展で生産性を高めることが必要」
2022年後半・金融
ワクチンの普及により、人の流れをコロナ前に戻すことが必要だとする声が多かった一方で、コロナ前から指摘されている日本経済の課題解決の必要性を訴える声もありました。

コロナで業績“二極化”鮮明に

一方、現状の国内の景気に対する認識について尋ねました。
最も多かったのは「横ばい」で54社。
拡大」が1社、「緩やかに拡大」が39社、「緩やかに後退」が3社でした。

「横ばい」と答えた企業にその理由を尋ねました。
「横ばい」の理由(複数回答)
緊急事態宣言などに伴う経済活動の制限 85.2%
個人消費の伸び悩み 83.3%
ワクチン接種の遅れ 48.1%
一方、こちらは「拡大」「緩やかに拡大」と答えた企業の理由です。
「拡大」「緩やかに拡大」の理由(複数回答)
アメリカ経済の回復  72.5%
ワクチン接種の広がり 55%
中国経済の回復    50%
なぜ「横ばい」と「緩やかに拡大」で大きく意見が分かれたのか。

コロナ禍の影響が長期化する中、アメリカや中国の経済回復による需要の増加などで追い風を受けた業種と、外出の自粛などの影響を受けた業種とのニ極化が鮮明になっているのです。

トヨタ自動車が発表したことし4月から6月までのグループ全体の決算は、最終的な利益が前の年の同じ時期のおよそ5.6倍にあたる8978億円となり、過去最高となりました。

ワクチン接種が進むなど経済が堅調に持ち直しているアメリカや中国では車の需要が高まっていて、感染拡大前の水準を上回り回復が鮮明になっています。

また、ソニーグループもいわゆる「巣ごもり需要」で音楽配信の売り上げなどが好調。

本業のもうけを示す営業利益は前の年の同じ時期より26%余り増加して2800億円となり、こちらもこの時期としては過去最高となりました。
一方、航空大手のANAホールディングスと日本航空のことし4月から6月までのグループ全体の決算は、いずれも最終的な損益が500億円を超える赤字。

デパート大手の三越伊勢丹ホールディングスも緊急事態宣言を受けた売り場の休業などの影響で最終的な損益が86億円の赤字になるなど厳しい状況になっています。

たび重なる緊急事態宣言による外出自粛などで人の移動が大幅に減り、輸送や小売では業績の落ち込みに歯止めがかかっていません。

変異ウイルスで景気回復 後ずれも

今後の景気はどうなるのか。

マクロ経済に詳しい専門家は、景気回復が本格化するのは、来年の初めごろになると予想しています。
みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 山本康雄さん
「欧米先進国に比べてワクチン接種が遅れたことが企業の景況感に大きく影響し、当初の企業の想定より景気回復が遅れているのは間違いないと思う。ただ、ワクチンが普及して感染が収束すれば消費活動が活発になり、ことし10月から11月ごろには景気回復が始まり、回復本格化は来年1月から3月ごろになる可能性が高い」
さらには、こんな指摘も。
「変異ウイルスの感染拡大で経済活動の制限の解除に時間がかかれば、回復時期がさらに後ずれするおそれがある。飲食や旅行などの業界は金融支援によってすでに負債が膨らんでいる状況にあり、経済活動の回復が遅れれば倒産や廃業のリスクが高まってくると思う」

企業の期待 裏切られた形に

私たちは同様のアンケートをことし3月にも行いました。

その際に半年後、つまり9月ごろの国内景気はどうなっているか尋ねると「拡大する」「緩やかに拡大する」という回答が8割超えていました。

しかし感染力の強い変異ウイルス「デルタ株」の広がりなどによって、企業の期待はいわば裏切られた形になっています。

次回は「半導体不足」や「脱炭素」「人権問題」など、世界的に広がる課題について、日本企業の認識を尋ねます。
(回答企業・五十音順)
IHI、旭化成、アサヒグループホールディングス、味の素、イオン、いすゞ自動車、出光興産、伊藤忠商事、インターネットイニシアティブ、AGC、ANAホールディングス、SGホールディングス、ENEOSホールディングス、王子ホールディングス、花王、鹿島建設、川崎重工業、キヤノン、京セラ、キリンホールディングス、KDDI、コマツ、サイバーエージェント、JFEホールディングス、JTB、J.フロント リテイリング、資生堂、清水建設、シャープ、商船三井、すかいらーくホールディングス、スズキ、SUBARU、住友化学、住友金属鉱山、住友商事、西武ホールディングス、Zホールディングス、セブン&アイ・ホールディングス、ゼンショーホールディングス、ソニーグループ、大和証券グループ本社、武田薬品工業、中部電力、ツルハホールディングス、ディー・エヌ・エー、デンソー、東海旅客鉄道、東京海上ホールディングス、東京ガス、東京電力ホールディングス、東芝、東レ、凸版印刷、トヨタ自動車、日産自動車、日本製紙、日本製鉄、日本電気、日本電信電話、日本航空、日本生命保険、日本電産、日本ユニシス、任天堂、野村ホールディングス、博報堂、パナソニック、東日本旅客鉄道、日立建機、日立製作所、ビックカメラ、ファーストリテイリング、ファミリーマート、富士通、富士フイルムホールディングス、ブリヂストン、マツダ、マレリ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産、三井不動産、三越伊勢丹ホールディングス、三菱ケミカルホールディングス、三菱自動車工業、三菱重工業、三菱商事、三菱電機、三菱UFJフィナンシャル・グループ、村田製作所、明治、メルカリ、モスフードサービス、ヤマトホールディングス、ヤマハ発動機、ユニ・チャーム、楽天グループ、リクルートホールディングス、ローソン
経済部記者
池川 陽介
平成14年入局
仙台局、山形局などを経て現所属

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