収容のスリランカ人女性死亡 “体制不十分” 局長ら4人処分

名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人の女性が死亡した問題で、出入国在留管理庁は、女性が医療機関での診察を求めても現場の職員が必要ないと判断するなど、適切な治療を行う体制が不十分だったとする最終報告を公表し、局長ら幹部4人を訓告などの処分にしました。

名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人の女性、ウィシュマ・サンダマリさんが(33)体調不良を訴えて、ことし3月に亡くなったことを受け、出入国在留管理庁は、対応に問題がなかったか調査を行い、10日最終報告を公表しました。

それによりますと、ウィシュマさんは、体調が悪化した1月以降、医療機関での診察や点滴を求めましたが、局長に報告せず、現場の職員だけで必要ないと判断するなど、内規に違反した運用を行っていたと指摘しています。

また、施設内にある診療室の医師や看護師は非常勤のため、死亡した当日は不在で、ウィシュマさんの容体が悪化しても職員だけで対応するなど、医療体制が整っていなかったとしています。

そして、一時的に施設の外で滞在することを求める申請を速やかに認めなかったことについて、体調の悪化を踏まえ、早く検討することが望ましかったとしています。

今後は、体調不良を訴えた人には、積極的に認めるよう求めています。

また、適切な治療を行う体制が不十分だったなどとして、名古屋出入国在留管理局の局長と当時の次長の2人が訓告、ほかの幹部2人が厳重注意の処分となりました。

出入国在留管理庁の佐々木長官は「医療体制や体調不良者に対する組織的な対応体制が整備されていなかったことなどが明らかになり、私の責任を痛感しており、お詫びを申し上げる。人の命を預かる行政機関としての緊張感や、心のこめ方が不十分であったと認識している」と述べました。

そのうえで、近く、遺族に対して謝罪し、最終報告の内容を説明するとともに、施設内でのウィシュマさんの様子などを写した映像を開示する考えを明らかにしました。
名古屋出入国在留管理局は「当局としましては、亡くなった方に心からのお悔やみとおわびを申し上げるとともに、指摘いただいた点を真摯に受け止めて、二度と本件と同様の事態を発生させることがないよう、再発防止に全力を挙げてまいりたい」というコメントを発表しました。

遺族「何人亡くなったら 改善されるのか」

名古屋出入国在留管理局で収容中に亡くなったウィシュマ・サンダマリさん(33)の2人の妹、ワヨミさんとポールニマさんは、10日、最終報告が公表されたことを受けて記者会見を開き、ワヨミさんは「最終報告では医療体制に問題があったとしていますが、これが初めての事件ではありません。何人亡くなったら医療体制は改善されるのですか。姉は入管の中で亡くなっています。誰が責任を取るのですか」と訴えました。

また、管理局の内部で現場からの報告が上がっていなかったとされたことについては、「お姉さんの状態を上司や局長は何も知らなかったといいますがそれは責任逃れにしか聞こえません。現場にいる人しか知らないというのはおかしいです」と憤りをあらわにしました。

そして、収容中のウィシュマさんの様子がうつった映像の開示について、ポールニマさんは「2時間分に編集されたものを見ることになりましたが、残っている2週間分全部のビデオを見せてほしいです」と強く求めていました。

一方、遺族代理人の指宿昭一弁護士は、最終報告の内容について、「名古屋入管は被収容者の生命健康を守れる体制がなく、誰がいつ亡くなってもおかしくない状況があったんだと思う。報告書では、職員の意識の問題として末端の現場の職員に原因を押しつけようとしていますがそういう問題ではないと思う。職員の意識改革の前に、入管の制度自体の改革が必要だと思います」と話していました。

指宿弁護士によりますと、出入国在留管理庁からは12日、映像を遺族に開示すると説明を受けたということです。

収容の現状と課題

ウィシュマさんは、去年8月からことし3月まで、半年余りの間、名古屋出入国在留管理局に収容されていました。

入管施設では、近年、収容が長期化するケースが相次いでいて、背景には、在留資格の期限が切れて、不法滞在となる外国人が増加していることがあります。

ウィシュマさんもその1人でした。

ことし1月の時点で、日本に不法に滞在している外国人は8万2868人と、この5年間で2万人以上増えています。

こうした現状の中、施設に収容された外国人が、国外退去の処分を受けたものの帰国を拒否することで、収容が長期化しているのです。

このため、出入国在留管理庁は、逃亡のおそれが低いなど一定の条件を満たす外国人については、国外退去するまでの間、施設には収容せず、親族などのもとで生活することを認める出入国管理法などの改正案の成立を目指しました。

改正案は、ことしの通常国会で審議されましたが、ウィシュマさんが死亡した真相の究明などをめぐって、与野党が対立し、改正案の成立は見送られたため、収容の長期化という課題は今後も残り続けることになります。

一方、新型コロナウイルスの影響で新たな課題が生じています。

出入国在留管理庁は、感染拡大の防止の観点から「密」を避けるため、施設から一時的に釈放する「仮放免」の措置を積極的に活用しています。

去年末の時点で、国外退去の処分を受けたものの帰国を拒否している外国人は、およそ3100人にのぼっていますが、これまでに、2800人を超える人が「仮放免」を認められました。

この結果、施設に収容されている人は250人程度にまで減っていて、収容の長期化は一時的に抑えられていますが、「仮放免」となった人のうち、400人以上が行方をくらまして所在不明になるという新たな課題が生まれています。

こうした背景には出入国管理法などで定めた国外退去や収容の手続きが、70年余りにわたって大きな改正がなされていないことがあります。

外国人が国外退去を拒否することや、収容が長期化することは想定されておらず、現場の運用だけでは、不法に滞在する外国人に対応しきれないという現状があります。

支援者などが指摘する問題点

ウィシュマさんが亡くなったことをめぐっては、これまで支援者や入管制度の専門家などから問題点や疑問点が指摘されてきました。

そのひとつはウィシュマさんに提供された医療が適切だったのかどうかです。

ウィシュマさんの死因については特定にいたっていませんが、支援者や専門家からはそもそも長期にわたって明らかな体調の悪化がみられたのに、なぜもっとさまざまな角度から検査を行い、治療や入院などの措置につなげられなかったのか疑問視する声があがっています。

ウィシュマさんは、ことし1月以降、吐き気や食欲不振などの体調不良を訴え、施設内の診療室のほか、外部の病院でも医師の診察を受けました。

亡くなるおよそ1か月前のことし2月5日に外部の消化器内科で診察や胃カメラの検査を受けた結果、ほぼ異常なしと診断され、胃潰瘍などを治療する薬の服用の継続を指示されました。

支援する弁護士らによりますと、このときの診察について担当の医師は遺族らとの面会の中で「管理局側からは消化管のみの検査を依頼された」などと説明したということで、ウィシュマさんの体調がその後悪化していったにもかかわらず、およそ1か月の間、外部の病院で追加の検査が行われたり、入院の措置がとられたりすることはありませんでした。

弁護士らは体調悪化の原因そのものを突き止める検査や適切な治療が行われていないとしてその対応を批判しています。

ウィシュマさんがその後、外部の病院を受診したのは亡くなる2日前の3月4日で、精神科での診察と頭部のCT検査を受けましたが、精神科の医師はその後の遺族らとの面会の中で「管理局側からウィシュマさんが病気を装っている可能性について伝えられた」と明かしたということです。

弁護士らは、亡くなる2日前の時点でも管理局側がウィシュマさんが病気かどうかを疑っていた可能性があるとしていて、追加の検査や入院措置など適切な医療が提供されていれば亡くなることはなかったのではないかと指摘しています。

次に、ウィシュマさんの処遇についても疑問視する声があります。

ウィシュマさんは一時的に施設から出される「仮放免」について、亡くなる10日余り前のことし2月22日に「体調が悪い」といった理由で2度目の申請を行っていました。

管理局では仮放免の方針を検討していたということですが、支援する弁護士らは「速やかに仮放免していれば外部の病院で治療を受けさせることもでき、亡くなることはなかったのではないか」として判断や手続きの遅さを指摘しています。

また、弁護士らはウィシュマさんが職員に繰り返し体調不良を訴えていたのに、なかなか外部の病院での検査や治療につながらず、支援団体が入院などを求めて複数回にわたって申し入れをしたのに実現しなかったとしています。

こうした対応について専門家などからは「管理局内部での意思決定がどのようにされているのか不透明だ」などと指摘されていました。

さらに調査の透明性についても、十分ではないという指摘があります。

施設内でのウィシュマさんの様子を映した映像について、出入国在留管理庁は保安上の問題などを理由に遺族に対しても開示してきませんでした。

遺族らは「亡くなるまでの施設内での様子を記録した映像は原因究明のためには欠かせないものだ」として開示を強く求めていて、出入国在留管理庁の佐々木長官は近く、遺族に対して謝罪し、最終報告の内容を説明するとともに、施設内でのウィシュマさんの様子などを写した映像を開示する考えを明らかにしました。

国会審議にも影響

ウィシュマさんの死亡は、国会の審議にも大きな影響を与えました。

今回の最終報告に先立ち、出入国在留管理庁は、ことし4月、ウィシュマさんが亡くなるまでの体調の変化などをまとめた中間報告を公表しています。

それによりますと、おととし1月から不法滞在だったウィシュマさんは、去年8月に施設に収容され、ことし1月中旬以降、体調不良を訴えました。

このため、施設内や外部の病院で、合わせて4人の医師の診察を受け、逆流性食道炎や精神的な病気の疑いがあると診断され、薬を処方されていましたが、3月6日に死亡しました。

ウィシュマさんは当初、帰国を希望していましたがその後「日本人の支援者と日本で暮らしたい」として、ことし1月に、施設から一時的に釈放される仮放免を求めましたが、認められず2月下旬に「体調が悪い」などと訴えて、再び申請を行っているところでした。

一方、ことしの通常国会には、不法滞在で国外退去の処分を受けた外国人の収容の在り方などを見直す出入国管理法などの改正案が提出され、中間報告の公表後に、本格的な審議が始まりました。

立憲民主党や共産党などの野党側は、同じような事態を繰り返さないためにも、ウィシュマさんが死亡した真相究明が先決であり、改正案の採決には応じられないとしてきました。

中でも、問題視したのが、体調が悪化していたにもかかわらず、「仮放免」が認められなかったことです。

野党側は、死亡の2日前に診察を行った医師の紹介状に、仮放免を勧める記述があったにもかかわらず行わなかったことや、その記述が、中間報告に盛り込まれていなかったことなどを指摘し「調査の客観性や公平性に疑義がある」と批判しました。

そして、具体的で客観的な証拠として、施設内のウィシュマさんの様子などを写した監視カメラの映像を開示するよう求めました。

一方、与党側は「法案の審議とウィシュマさんの死亡は別の話だ」として、通常国会での成立を目指したことから、改正案の採決をめぐって与野党の対立が続きました。

そして、打開策を見いだすための修正協議が行われ、収容の判断にあたっては透明性を確保するための措置を講じることや、収容期間の上限を設けることなど、改正案の修正内容について大筋で合意しましたが、野党側は、制度を運用する出入国在留管理庁が、信頼の置ける組織なのか明らかにする必要があるとして、改めて、監視カメラの映像を開示するよう求めました。

しかし、出入国在留管理庁が、故人の尊厳を守ることや、収容施設の保安上の理由から、開示に応じなかったことから、協議は決裂し、政府・与党は改正案の成立を見送りました。

ウィシュマさん妹「配慮していれば亡くなることなかった」

ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなったことについて、真相解明を求めて来日している2人の妹、ワヨミさんとポールニマさんは最終報告の公表を前にNHKの単独インタビューに応じ「入管がもっと配慮していれば姉が亡くなることはなかった」と訴えました。

ウィシュマさんの2人の妹はことし5月に来日し、上川法務大臣と面会するなどして姉の死の真相解明を求めてきました。

ワヨミさんとポールニマさんは最終報告の公表を前にNHKの単独インタビューに応じました。

母親とウィシュマさんと4人で暮らしてきた妹たちにとって、ウィシュマさんは優しく、父親代わりのしっかりものの姉でした。

その姉が日本の入管の施設内で亡くなったと聞いたとき、信じられなかったといいます。

ワヨミさんは「とても優しい姉でした。お母さんのように私たちの面倒も見てくれました。姉が亡くなったと聞いても信じられなかったです。人違いだと思いました。実際に遺体を見ても、違う人だと思うくらい信じられなかった。何の病気もなかったのに、入管で亡くなったのはありえない」と振り返りました。

姉の死の真相解明を求めてきた2人は「報告書は亡くなった時にすぐに出すべきなのに、出さないのは入管のミスがあったからではないでしょうか」と話し、日本の入管に対する不信感をあらわにしました。

そして「入管がもっと配慮していれば、姉が亡くなることはなかったと思います。わたしの姉はこの国を愛してやってきました。このような死に至ったのは信じがたいし本当に悲しい気持ちです。最終報告が信用できる正確なものであることを望んでいます」と訴え、姉がなぜ亡くなったのか助けることはできなかったのか、真相を明らかにするよう求めていました。

同時期に収容の男性「収容された人たち怖いと思う」

ウィシュマさんと同じ時期に名古屋出入国在留管理局に収容されていたナイジェリア国籍の男性は「ウィシュマさんが亡くなったのは本当に残念です。こういうことが起きてしまったのに入管が責任を持たず、どうして亡くなったのかということを教えてくれないので、施設にいまも残っている人たちやその後、収容された人たちも怖いと思います」と話しました。

男性は自身も収容中に体調が悪化し、ことし6月に仮放免されましたが、収容中の医療環境について「中の人間(入管の職員)たちは(収容されている人たちが)具合が悪くても『ちょっと待ってください』と言って、いつ診てくれるのか決まらないんです。『ナースが来たら呼びます』と言ったまま、1日、2日、3日たっても診てくれない。どういうことかと思いました」と振り返りました。

そのうえで「僕も彼女と同じ状況になっていたかもしれない。入管には人の預かり方をもうちょっと考えてほしいです。預かってるのは人間です。預かってるのは命です。みんな考えてほしい。自分の家族だったら、もし自分の息子や娘が他の国でこういうことになって亡くなったらどんな気持ちかを考えてみてください」と訴えました。

識者「収容のあり方 問い直すべき」

元入管の職員で「未来入管フォーラム」の木下洋一代表は、「ウィシュマさんが死ぬべき人でなかったのは明らかだ。ウィシュマさんが初めての死亡事例ではなく、これまでも入管で収容中に命を落としたケースは残念ながらあったわけで、こうなるまでになんとかできなかったのか。収容のあり方そのものをもう1回問い直さなければならない事件だと思う」と話しました。

そして最終報告について、制度的な検証が足りないと指摘したうえで、「医療的知識がない入管の職員や幹部が命に関わる最終的な判断をくださなければならないということには限界がある。医療体制の強化はもちろん必要だがそこにも限界はあり、システムを見直さないと今回のように人の命を奪ってしまう可能性がある。これまでのように全員を必ず入管に収容するという制度自体が、機能不全に陥ってしまっていると強く感じる。第三者による客観的な収容制度の検証が不可欠だ」と話しています。

上川法相「尊い命が失われた 心からおわび」

上川法務大臣は、記者会見で「体調を崩していく中で、ご本人が抱いていた孤独、不安、無念さは察するに余りあるもので、心からお悔やみを申し上げるとともに、尊い命が失われたことに対し、心からおわびを申し上げる」と述べました。

そのうえで「収容施設として大切な命を預かっているという基本中の基本を常に見つめ直していれば、一層寄り添った対応もあり得たのではないか。二度と繰り返さない、繰り返させないという決意のもと、改革を実行し責任を果たしていく」と述べました。

立民 福山幹事長「国際的な信用に関わる問題」

立憲民主党の福山幹事長は、記者会見で「最終報告書が出るまで、なぜこんなに時間がかかったのか。国際的な日本の信用に関わる問題だ。国会へのスリランカ人の女性の様子を写した映像を開示と、一連の政府側の対応について速やかな審議を求めたい。日本の入管行政を根本的に考え直さなければいけない」と述べました。