「復興五輪」はどこへの声と喜多方ラーメン店主が考えたこと

「『復興五輪』とは名ばかり」
「選手に罪はない。しかし、これだけは言っておきたい。なにが『復興五輪だ』」

SNS上では、東京オリンピックに掲げられた「復興五輪」の理念に違和感を感じるという人の声も相次いでいます。東京にいた被災地の人は、17日間にわたった東京オリンピックをどんな思いで見つめたのでしょうか。

喜多方ラーメンの老舗 店主の目には…

東京オリンピックの閉会式が行われ、大会が幕を下ろした今月8日の午後。

東京 日本橋にある福島県の物産館「日本橋ふくしま館 MIDETTE(みでって)」を訪ねました。
ここで毎月出店しているのは喜多方ラーメンの老舗「まるや」の店主、矢田目憲一さん(66)です。

全国からファンが訪れ、スープが無くなり次第、営業を終了します。

8日も客が多く訪れ、午後早くに店を閉めていました。

根強い風評被害

矢田目さんが東京の物産館で出店を始めたのは、東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故の影響で根強い風評被害に悩まされてきたからです。

福島県喜多方市の店は、客足が一時、8割近く減り、あれから10年たった今でも半分ほどしか戻ってきていないといいます。

喜多方の味を広く伝えるとともに、被災地の現状を知ってほしいという思いで、毎月、東京まで足をのばし、1人で店を切り盛りしています。

『復興五輪』に期待持っても…

そんな矢田目さんの目に、東京オリンピックはどう映ったのでしょうか。

尋ねると、次のように答えました。

「五輪と復興は、別に考えたほうがいい。この10年で目に見える復興の成果なんて、ほとんど無いと思っています。だから、『復興五輪』ということばに大きな期待を持ってもしかたがない」

「でも」と話を続け、複雑な気持ちを明かしてくれました。

「期待してもしかたがないと思っていても、マイナスイメージの福島県を少しでも変える“きっかけ”は、どんな小さなものでもほしかったです」

変える小さな“きっかけ”

矢田目さんがその“きっかけ”を感じた出来事がありました。

それは、福島の桃がSNS上で一時、話題になったことです。

ソフトボールのアメリカ代表の監督が、福島で食べた桃を「デリシャスだった」などと話したとしてネット上で話題になりました。

そのあとの週末、物産館の前には30人ほどの行列ができ、桃の売り上げは例年に比べて4割ほど増えているといいます。

(矢田目憲一さん)
「福島の桃が話題になったように、世界の人たちがテレビやネットなどを通じて東京オリンピックを観戦するなかで、福島の『今』を知ってもらえるきっかけになったと思います。福島の人の中には、今でも原発事故で被災した状況を見に来てほしいと考えている人もいるでしょう。一方で、震災から10年たって少しずつ生活が戻って復興が進みつつある現状を知ってほしいという人もいると思います。また、風評被害が続く福島の食べ物が安全・安心だと知ってほしいという人もいます。震災の経験や復興への思いを世界の人たちにもっと知ってもらいたい。東京オリンピックがそのきっかけになったのなら、私は開催してよかったと思います」

「復興はまだまだ先」

「日本橋ふくしま館 MIDETTE」によりますと、オリンピック期間中、物産館を訪れる人は例年に比べて2割ほど増加し、メダリストのビクトリーブーケに使われている福島県産のトルコギキョウの花なども人気を集めているということです。

(日本橋ふくしま館の担当者)
「桃をはじめ、福島の食べ物は食べてもらえばおいしいとわかってもらえるんです。オリンピックがそのきっかけになったのを身をもって体験して驚きましたし、うれしかったです。多くの人に福島を知ってもらうことは復興と同じで、1歩1歩着実に進めていくことが大切だと思っています」

矢田目さんは福島に帰るのを前に、慌ただしく店の片づけをしながら最後にこう話をしてくれました。

(矢田目憲一さん)
「復興はまだまだ、先の話なんです。東京オリンピックを復興のきっかけにしたい、させたいと考えている私たちのことを記憶にとどめておいてほしい」