東京五輪 アーティスティックスイミング 日本メダルなしの背景

東京オリンピック、アーティスティックスイミングで2種目とも4位の日本は、2大会連続のメダルに届きませんでした。40年近くにわたり、教え子にメダルをもたらし続けてきた名将、井村雅代監督にとって10大会目にして初めてメダルなしに終わった今大会。その背景には「世界の潮流」と「コロナ禍」がありました。

世界の潮流は“大型化”

井村監督率いる日本が銅メダルを獲得したリオデジャネイロ大会から2年後の2018年。競技名がシンクロナイズドスイミングから「芸術性」を意味するアーティスティックスイミングに変わりました。

日本の関係者が競技名の変更が意味するものを手探りする中、おととしの世界選手権で新たな潮流がくっきりと表れました。

水面から浮かび上がるような足技の高さ。プールを所狭しと泳ぎ、水しぶきを上げる力強さ。これまで日本が得意としてきた技術や同調性よりも、長身選手が力強さを前面に出した演技が得点を伸ばしたのです。
その代表格で1メートル80センチほどの選手をそろえたウクライナは、オリンピックで行われる種目でことごとく日本を抑えて3位に入り、ロシア、中国に次ぐ「3番手」の評価を築きました。

新たな潮流に対応しようと、日本も技術は荒削りでも長身選手を重視して選考し、あとから時間をかけて強化する方針をとってきました。

それでも、今大会の日本の平均身長はおよそ1メートル68センチと前回大会より1センチ高くなっただけで、ウクライナとは7センチ近い差がありました。オリンピック本番でも足技の高さや速さ、演技の力強さでウクライナがうわてでした。

大会中、井村監督は「これからメダルをとる上で、大型化やパワーは避けられない必須の条件。こちらもやってきたけど日本人の体型ではなかなか難しい」と悩みを深めていました。

コロナ禍で不発の対策

日本がメダルを逃したもう1つの理由が「コロナ禍」です。
実は井村監督は、海外勢の大型化に追いつけないことも想定し、体型のハンディを補う作戦を用意していました。

「空手」をテーマにしたチームのテクニカルルーティンでは、審査員に力強さを印象づけるため実際に選手に空手の形を習わせました。小さな体でも動きのキレを身につけた演技を数多くの国際大会で披露し、世界選手権4位という審査員の評価を覆す計画でした。
採点競技のアーティスティックスイミングは水中の演技でミスが目立ちにくく、過去の実績が審査員の採点に影響すると指摘されているため、オリンピックまでに実績を積むことが不可欠だったのです。
しかし、コロナ禍の影響で世界選手権以降、日本が参加した国際大会はことし4月の1度きりで、その数はいくつか大会が開かれたヨーロッパに比べて少ないものでした。
井村監督が「びっくりするくらい上手になった」という演技を、世界の審査員に十分に披露することができず、大会前に評価を覆すには至りませんでした。

さらに「祭り」がテーマのチームのフリールーティンでは、地元開催を意識して祭りのかけ声やお囃子を楽曲に取り入れ、会場の大声援で高得点をアピールする作戦でしたが、これも無観客で不発に終わりました。

井村監督
「いい演技をすれば評価してもらえると思っていたが、こんなに影響を受けるとは思わなかった。私にとってコロナは厳しかった」

日本の再興は…

かつてない逆風の中にいる日本。

教え子の演技を見届け、メダルを逃したことを悟った井村監督は取材エリアで、「これで最後のオリンピックにしようと思っています。日本の中で強化しても評価されない。海外に武者修行に出て顔を売ることが必要だと次のコーチに伝えたい」と述べ日本の再興を後進に託すことを明らかにしました。
以前、井村監督は東京オリンピックでメダルをとることの意味をこう語っていました。

「私がもし負けたなら、あとに続くコーチは『井村先生でもダメだったから自分には無理だ』と思ってしまう。だから勝つことが必要」

「シンクロ」の時代から第一線に立ち続けた70歳の名将のことばは、今、日本に重くのしかかっています。