オリンピック なぜ彼は試合中もマスクを外さなかったのか

新型コロナウイルスのニュースと切っても切り離すことができなかった東京オリンピックで、マスク姿の1人のバレーボール選手が話題になりました。
男子ブラジル代表のルーカス・サートカンプ選手。
感染防止のためとはいえ、試合前だけでなく試合中でも決してマスクを外すことがなかった彼にその理由を尋ねました。

その姿に気付いたのは、7月26日。日本の試合の取材を終えて、プレスルームで原稿を書きながら横目で次の試合をチェックしていた時のことでした。

「マスクをしている!?」

ブラジルの選手の1人が黒いマスクをしたままプレーしていたのです。よく見ると、激しく動いてもずれないようにプラスチックのベルトで固定しています。

今回のオリンピックでは新型コロナウイルスの感染対策として、選手や関係者に対して、原則としてマスクを着用することが求められていましたが、マスクをしたままプレーする選手は見たことがありませんでした。
マスク姿でプレーしていたのは、ブラジル代表のサートカンプ選手。35歳のベテランで、母国開催となった前回リオデジャネイロ大会の金メダルメンバーの1人でした。

「なぜマスクをつけたままプレーするのか?」直接、尋ねました。すると身長2メートル超えるサートカンプ選手は優しくこう答えました。

「すべては家族のため、家族を守るためだよ」

サートカンプ選手は妻のベアトリスさんと5歳の長男、テオくん、それに、ことし6月に生まれた長女のマヤちゃんと家族4人で暮らしています。

「家族は家に帰ったら自分が必要とする愛情を与えてくれるし、楽しい時も困難な時もいつも私をサポートしてくれる。テオはバレーボールの練習についてくるし、マヤはとても人なつっこいんだ」

そう語る様子は本当に幸せそうでした。
その家族との暮らしに新型コロナウイルスの影が忍び寄ってきたのはことし1月でした。サートカンプ選手が感染したのです。

幸い症状は微熱と頭痛だけでしたが、当時、ベアトリスさんのおなかにはマヤちゃんがいたうえ、長男のテオくんは肺に病気を抱えているため、家族を守るには感染対策が欠かせないと強く自覚するようになったといいます。

そして、サートカンプ選手はマスクをするようになりました。

食事やシャワーを浴びるとき、それに寝るとき以外は常にマスク。試合中も外すのは、水分補給や顔の汗をタオルで拭くときだけという徹底ぶりです。

家族やチームメートのため

相手のスパイクをブロックしようと何度もジャンプするなど激しい動きを繰り返すプレーに影響しないか聞いても「サッカーと違って、長い距離を走らないし、マスクをつけることは大きな問題ではないよ」と涼しい顔でした。

決して誰かの手本になりたくてマスクをしている訳ではない、家族やチームメートのために自分ができることを考えた結果だと答えました。
8月7日、今大会のブラジル代表、最後の試合となる3位決定戦を取材するため会場を訪れました。試合はアルゼンチンとフルセットにもつれる接戦でした。
サートカンプ選手は自分に上がった19本のトスのうち14本を決める驚異的な決定率でチームを引っ張りましたが、惜しくも競り負けてメダルに手は届きませんでした。

試合後、声を掛けると「家族に報告できること、渡せるものは何もなくなってしまったけれど、ブラジルに帰ったら『いつも自分のことを大事にしてくれて、ありがとう』と伝えたいね」と笑顔を見せたサートカンプ選手。

マスクの下の表情は、家族と1日も早く安心して暮らしたいと願う父親の顔に戻っているように見えました。