東京 今月中に重症病床“満床”の試算も 医療体制は大丈夫か?

東京都内では5日、1日の発表としては初めて5000人を超える人が新型コロナウイルスに感染していることが確認されるなど、連日、過去最高を更新しています。
こうした中、都内の新型コロナウイルスの今後の感染状況について、京都大学の西浦博教授のグループがシミュレーションを行い、このまま感染拡大が続けば、今月中には都内の重症病床がいっぱいになるおそれがあるとする結果を公表しました。

今月12日には都の感染者1万人超の試算も

京都大学の西浦教授のグループは、感染拡大が続いた場合、東京都の1日の新規感染者数がどうなるかについて、前の週の同じ曜日と比べて何倍になっているかのデータを使って今月2日時点で試算を行いました。

▽その結果、増加のペースを最近のデータに合わせて「1.7倍」とした場合、今月12日には1日の感染者が1万人を超え、今月26日には3万人を超えるという計算となりました。
▽また、これより高いペースだった先週の「2.2倍」が続いた場合は今月17日に3万人に達するという計算になったほか、
▽逆にペースが落ちて「1.2倍」となった場合でも来月4日には1万人を超えるという結果になりました。

重症患者 今月中に都が確保の病床超える試算も

病床のひっ迫状況についても試算を行っています。

試算では1人が何人に感染させるかを示す実効再生産数を、感染力の強いデルタ株の影響を考慮していまより高い「1.7」と想定し、東京都の今後の重症者数の推移を計算しました。

その結果、実効再生産数の減少が10%にとどまると仮定した場合、重症患者の数は8月20日におよそ399人となり、都が確保している392床を超える計算となりました。
また、ことし4月からの緊急事態宣言と同等の効果として実効再生産数が30%減少となった場合でも重症患者の数は増え続け、8月中旬には都が確保している重症病床の50%に達し、9月6日には400人を超える結果となりました。

一方、実効再生産数を50%減少させることができた場合は、重症患者の数は150人を超えることはありませんでした。

西浦教授「一気に減らさないといけない状況」

西浦教授は「オリンピックが開催される中、行動の自粛を求めるのは矛盾があり、メッセージが届きにくく人流が十分に減っていない。人と人との接触を減らして、感染者数を一気に減らさないといけない状況だ」と話しています。

厳しい状況続く医療現場

これまで経験したことのない新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、東京都内の病院では、自宅での療養中に呼吸状態が悪化し、危険な状態となった患者が救急車で搬送されるケースが相次いでいて、医療の現場では厳しい状況が続いています。
東京 板橋区の日本大学医学部附属板橋病院では集中治療室=ICU6床に加え、高度な治療ができる「ハイケア病床」50床の合わせて56床を確保して新型コロナの患者の治療に当たっています。
病院によりますと、5日午前10時現在で、37人の患者が入院していて、このうち20人が自宅療養中に症状が悪化して救急車で搬送されてきたということです。
先週、搬送されてきた61歳の男性は、先月26日にPCR検査で陽性となり、自宅療養をしていましたが、5日後になって、保健所から血液中の酸素飽和度を測る「パルスオキシメーター」が届き測定したところ、入院が必要な状態と分かったということです。

このときには男性は呼吸が苦しく、自分で救急車を呼んで、この病院に救急搬送されました。

現在、男性は、鼻から高濃度の酸素を大量に投与する「ネーザルハイフロー」と呼ばれる治療を受けていて、人工呼吸器を着けていないため東京都の基準では重症とはなっていませんが、中等症の中では重い「中等症2」の状態だということです。
男性は「自宅療養中、血中の酸素の状態がどのくらいなのか、自分では想像がつかず、不安だった。自宅で一緒にいた妻も家庭内感染になってしまい本当に申し訳ない気持ちだ」と話していました。

「入院が必要なのに自宅待機の患者があふれている」

日本大学医学部附属板橋病院救命救急センターの桑名司医局長は、「本来、入院が必要なのに自宅待機となっている患者があふれていて、自宅で具合が悪くなって患者自ら救急要請するケースが増えている。医療機関も急な対応で受け入れの準備が間に合わないこともあり、救急車の中で10件近くの医療機関に断られた末に搬送されてきたケースもあったので、治療が遅れることが懸念される。また、救急車自体がひっ迫してしまうと新型コロナ以外の救急搬送にも影響が出るおそれがあり、命が助けられない事態になりかねない」と話していました。

ICU満床 新たな重症患者を受け入れられず 千葉 松戸

一方、5日の感染確認者が942人となり、前日に続いて過去最高を更新した千葉県。
北西部で重症患者を受け入れている松戸市の病院では、先月下旬以降、ICU=集中治療室が満床になっていて、新たな重症患者を受け入れられない状況が続いています。

松戸市にある松戸市立総合医療センターでは、ICUの6床で新型コロナウイルスの重症患者を受け入れています。

先月初めはICUは半分程度しか使われていませんでしたが、先月26日以降は6床すべてが満床となり、新たな患者の受け入れは難しくなっています。
ICUに入院している60代の男性は家族が感染したため自宅で待機していたところ突然意識を失って搬送されてきたということで懸命な治療が行われていました。

4日も医師や看護師たちが防護服を身につけて患者の人工呼吸器の状態を確認したり、背中側の肺の負担を減らすため、患者をうつぶせにする「腹臥位療法」を行うなど対応に追われていました。

こうした状況のため入院中の軽症や中等症の患者が重症化した場合には転院してもらわざるを得ない状況になっています。

実際に先月には3人の重症患者を車で2時間ほどかかる旭市や鴨川市などの病院に受け入れてもらったということです。

看護師長代理「先が見えず疲弊している」

松戸市立総合医療センター看護師長代理の浦井美奈子さんは「ICUから1人出ても、またすぐ入ってきて満床の状況が続いています。使命感をもって日夜頑張ってはいるが、先が見えず疲弊している」と話していました。

医師「入院すべき人が入れず ほかにお願いしている」

救急救命センター副部長八木雅幸医師(39)は「もう満床なので受け入れの要望も来なくなった。入院すべき人が入れず、ほかの地域になんとかお願いして受け入れてもらっている。若い人は重症化しないから患者が増えても大丈夫とは思わないでほしい」と話していました。

入院の優先度 厳密に判断する方針へ 千葉県

こうした厳しい状況に対処するため、千葉県では、先月19日からは、入院の優先度を厳密に判断する方針に切り替え、今月4日時点で自宅で療養している人は4100人に上っています。

松戸市立総合医療センターにも自宅療養中に容体が急変して救急搬送されるケースが目立ってきているということです。

入院が遅れギリギリの状態での搬送が増えるおそれ

自宅療養者のリスクについて救急救命センター副部長の八木雅幸医師は「重症化しても自覚症状がない人もいるので、医師の往診や血液中の酸素の状況を確認するなど、重症化に気づく手段がないと、入院が遅くなり、ギリギリの状態で搬送される患者が増えるおそれがある」と懸念しています。

さらに、「自宅療養の人を増やせば入院患者数は減らせるが、重症者用のベッドは埋まりつつあるので、いざ重症化したときに受け皿があるのか、不安です。少なくとも県北西部ではすでに入院できない状況になりつつある」と危機感を示しました。

政府の方針

医療提供体制へのひっ迫懸念が高まっていることから、政府は今月2日、必要な病床を確保するため、入院については重症患者や重症化リスクの高い人に重点化する一方、それ以外の人は自宅療養を基本とし、健康観察を強化するなどとする方針を示しました。

撤回の声に説明資料を見直す厚生労働省

しかし、与野党双方からは丁寧な説明を求める声や撤回を求める声が上がり、厚生労働省は5日、これまでの説明資料を見直しました。
今回の方針について、東京都をはじめ感染者が急増している地域でも、症状に応じて、必要な医療が受けられるようにする緊急的な対応だと強調しています。

そして、引き続き、病床や宿泊療養施設の確保に取り組むとした上で、入院については、重症患者のほか、中等症患者で酸素投与が必要な人や、投与が必要でなくても重症化リスクがある人に重点化するとし、最終的には医師が判断するとしています。
一方で、自宅や宿泊施設で療養する人の症状が悪化した場合に、速やかに入院できるよう、一定の病床を確保していくと説明していて、改めて理解を求めることにしています。

自宅療養中に症状急変 どうする?

自宅で療養していて症状が急に悪化した場合、どうしたらいいのか東京都に聞きました。
東京都の「自宅療養者フォローアップセンター」は看護師などが24時間体制で自宅で療養する人からの相談を電話で受けています。
電話番号は一般には非公開ですが、保健所からフォローの対象者になった人に伝えられます。

都は、日中、夜間にかかわらず症状が急変した場合や自宅での療養について不安や疑問がある場合には電話するよう呼びかけています。

ただ、電話が混み合うこともあり、都は、つながらない場合は、何度かかけ直してほしいとしています。

都によりますと、日中の午前10時から午後5時は電話を受ける看護師などが夜間よりも多いため、つながりやすいということです。

どうしてもつながらない場合、地域のかかりつけ医がいる人は自宅への往診やオンライン診療が可能かどうかまずは電話で相談してほしいとしています。

病院に行くための外出はしないでほしいと呼びかけています。
また、横になっていられず体を起こさないと息ができない場合や、唇が紫色になっている場合、それに体内に酸素をどの程度取り込めているかを示す「酸素飽和度」を「パルスオキシメーター」で測定して、90%以下になった場合などは、119番通報をしてほしいとしています。

自宅療養 東京都の対応は

感染の急拡大にともなって、自宅で療養する人がかつてないペースで急増する中、東京都はフォロ-アップ体制の強化に取り組んでいます。

このうち、急に症状が悪化して入院が必要になったもののすぐに入院できない緊急事態に備えて、在宅のまま酸素吸入を行う「酸素濃縮装置」500台を借りる協定を先月下旬に複数のメーカーと結びました。

すでにおよそ110台は往診を行う会社や地域の医師会に貸し出ていて、実際に使用されたケースもあるということです。
このほかに、体内に酸素をどの程度取り込めているかを示す「酸素飽和度」を測る「パルスオキシメーター」をおよそ4万個用意し、都から直接、送ったり、保健所を通じて貸し出したりしています。

都は自宅で療養する人がさらに増えた場合に「パルスオキシメーター」が不足しないよう追加で購入することも視野に今後の対応を検討しているということです。

都は「健康観察や医療相談も含めて自宅で療養する人をフォローし、症状の急変にも迅速に対応できるようさまざまな面で対応を強化していきたい」としています。

自宅療養中に注意すべきポイントは

感染症が専門の大阪大学医学部の忽那賢志教授は「東京では自宅療養者の数がこれまでで最も多かった第3波のころを超えてさらに急激に増えている状況だ。政府の方針転換には驚いたところもあるが、感染者が急増する中で重症患者への対応を優先するために現場ではすでにそのような対応になっているところもあり、実情にあわせた方針なのかなとも思う」と指摘しました。

そのうえで、自宅療養者への健康観察などの対応について「自宅療養中の人が急に重症化するケースもあるので、適切なタイミングで入院できる態勢をしっかり確保する必要がある。感染者が急増し、保健所だけでは人手が足りず厳しい状況だと思うので、例えば自治体の職員を加えて態勢を強化したり、地域の診療所の医師にオンラインで診療してもらったりと、カバーする態勢を取らないと重症化する人を適切なタイミングで見つけて入院してもらうことが難しくなるだろう」と危機感を示しました。

自宅療養中に注意すべきポイントについては「新型コロナは一般的に発症してから1週間後前後の時期に重症化することが多い。若い人でも急速に症状が進むケースもあり、息切れをしたり酸素の値が低くなったりといった症状が出ていないか注意が必要だ」と説明しました。