彼女の夢を阻む生理の貧困で

彼女の夢を阻む生理の貧困で
希望を抱いて、海を渡りました。

新しい土地では、学校にも通うことができ、将来の夢も持つことができました。

でも、いつも行く手を阻む大きな壁も感じています。

貧しいこと、女性であること、そして、生理が来ることです。

(ヨーロッパ総局記者 古山彰子)

気になるみんなの視線

「生理になると、先生の質問に答えるため、立ち上がって黒板に行くこともためらいます。みんなの視線がとても気になるから」
こう話すのは、パリ近郊の街に暮らすブシュラさん(18)です。

勉強することが大好きだと話す彼女は、生理の時期になるたび、経血が漏れるかもしれないと心配になり、授業に集中できなくなるといいます。

その理由について、彼女は、少しでもお金を節約しなければならないので、生理用品を十分に買うことができないと、打ち明けてくれました。

十分な生理用品を買うのをためらうのは、彼女の生まれ育った境遇が関係しています。

自由を求めてアルジェリアからフランスへ

ブシュラさんのふるさとは、北アフリカのアルジェリアです。

彼女が住んでいた地域では、18歳になると親の意向で結婚させられるケースが多く、ブシュラさんも学業を続けるという選択肢はなかったといいます。
ブシュラさん
「私が生まれた地域では、女性には教育は不要、結婚して家事をするのが女性の使命という考えが当たり前でした」
しかし成長するにつれて、彼女は、勉強を続けたい、見ず知らずの男性と結婚したくないという思いを強め、4人の姉弟と一緒に、2年前(2019年)、一足先にフランスに移り住んでいた母親の元へ向かうことを決意しました。

密航で危険だとは知っていましたが、現状から抜け出すためにほかに手段がありませんでした。

乗ったのはひどく古びた船。

無事到着した時には、パスポートはぬれてボロボロになっていました。

移住先フランスでの苦労

ブシュラさんたち家族は、移り住んだ当初、パリ近郊にある低所得者層向けの団地に暮らしていましたが、母親の仕事がなかなか見つからず、しばらくは貯金を少しずつ切り崩して、1日1日を乗り切ってきました。

しかし、手持ちの現金がなくなり、数か月間にわたって路上生活を送らざるをえないこともありました。

夜は雨風を避けるため、病院の受付ホールに入れてもらい、家族6人、身を寄せ合うようにして眠りについたといいます。

そして、去年1月になって、ようやく慈善団体の支援を受けられるようになり、その団体が提供する宿泊施設で暮らせるようになったブシュラさんたち家族。

食料、生活用品、洋服なども十分とは言えないものの、団体から支給を受けることができました。

不自由さはありながら、フランスでの新たな生活は、彼女にとって希望を感じられるものだといいます。
ブシュラさん
「フランスでの生活は、アルジェリアとは天と地ほどの差です。友だちからも洋服をもらうことができて、感謝しています。アルジェリアではできなかった、おしゃれも楽しめます」

始まった高校生活

去年3月からは、ブシュラさんは、高校に通えるようになりました。

それは、学業を続けたかった彼女が待ち望んでいたものでした。

新型コロナウイルスの感染拡大で高校は入学してすぐに休校になりましたが、ほどなくして、オンラインでの授業が再開されました。

パソコンを持っていなかった彼女は、学校からの支援を受けて、なんとか授業を受けることができるようになりました。

今、彼女が暮らす宿泊施設は、家族6人が1部屋で暮らし、部屋にあるのはベッドだけ。

机はないので、オンラインの授業を受けたり宿題をしたりする時は、施設に併設された食堂のテーブルを使っています。

ブシュラさんは、さまざまな制約がある中でも、再び学べることが何よりうれしいと話します。
ブシュラさん
「昔から勉強することが好きなんです。私がこれから自立して暮らしていくためにも、とにかく勉強することが必要です。どんな環境にあっても、努力すればなんとかなると信じています」

学校再開も、学びへの“壁”

去年9月からは対面での授業が再開され、直接学べること、友人たちと語り合えることが彼女の気持ちに明るさを与えてくれました。

しかし月に一度、彼女が決まって悩まなければならないのが生理です。

食費や日用品のほとんどを慈善団体の支援に頼る生活。

当然、彼女たちが自由に使えるお金はほとんどありません。

このため生理用品を買うことができず、慈善団体から毎月支給してもらう生理用品だけが頼りです。

支給されるナプキンは限られていて、ナプキンは姉と分け合わなければなりません。

経血の多い日は、衛生面を考えると、頻繁に取り替えたいと考えているブシュラさん。

でも、もし使い切ってしまったら次の日は学校に行けない。

そう考えると、なるべく使う枚数を抑えるほかないといいます。

生理用品が手に入らないことで起きたこと

ブシュラさんが外出していたある日のこと、思っていたよりも早く生理がきて、スーパーに駆け込みました。

でも、そこで買ったのはナプキンではなく、ティッシュペーパーでした。

ナプキンよりも安かったからです。

近くにトイレが見つからず、ブシュラさんは見知らぬマンションの陰で人目に付かないよう、ズボンを少し下げ、束にしたティッシュペーパーをショーツに押し込んだといいます。

また、期末テストの日の朝、生理用品を使い切ってしまっていて、学校に行くことを諦め、テストを受けることができなかったこともあります。

追試を受けることはできましたが、当たり前のことが当たり前のようにできないことに、悔しい気持ちになったといいます。
ブシュラさん
「パンは生活必需品ですが、生理用品は生活必需品ではないのでしょうか?男性に生まれていれば、生理なんてなければいいのに、もっと勉強に集中できるのに。そんな風に思いたくありませんが、どうしてもそんな考えが頭をよぎってしまいます」

「生理の貧困」はフランス国内で170万人

ブシュラさんのように、日常的に生理用品を買うことが困難な「生理の貧困」にあたる女性は、フランス国内で決して少なくありません。

その数、170万人に上り、新型コロナの感染拡大後さらに増えたという指摘もあります。

こうした中、フランス政府は国として「生理の貧困」対策に取り組む方針を掲げ、自治体レベルでも、去年9月からは一部の高校で生理用品の無料配布が始まりました。

そして、ブシュラさんが通う高校もその対象となりました。
生理用品の無料配布が始まり、学校にいる間は生理の心配をしなくて済み、勉強にも集中できるようになったブシュラさん。

一方で、自分自身で生理用品を買えない状況を変えていきたいと考えています。
ブシュラさん
「今の将来の夢は、歯科医師です。それを目指して勉強しています。早く自立したい、母を楽にしたいんです。生理用品をもらえるようになって安心感を持てるようになりましたが、本当は自分で買えるようになって、誰にも気兼ねすることなく過ごしたいです」

必要な人がいつでも手に入れられる環境を

世界的に見ても、早くから「生理の貧困」に取り組んでいるフランス。

それでも、生理用品の無料配布は、一部の学校や支援団体が運営する施設で暮らす女性たちなどに限られています。

フランスの下院議員で「生理の貧困」に関する報告書を去年2月に発表したラエティシア・ロメロディアス議員は、女性が女性として生きていくために、生理用品は必要不可欠なものだと強調します。
ロメロディアス議員
「『生理の貧困』は、すべての女性に関するテーマであるにも関わらず、これまで政府として具体的な対策を検討してきませんでした。

トイレットペーパーなど、衛生的でない手段で対応すると、感染症を起こしたり、死亡したりする場合もあるのです。生理用品が必要なのは『快適に過ごすため』ではなく、彼女たちの『尊厳のため』なんです」
そのうえでロメロディアス議員は、経済的な理由などで、生理用品を手に入れられない環境を、国として変えていく必要があるとしています。
「フランスでは2016年から生理用品の税率を軽減していますが、たとえ価格が安くなったとしても、必要な人全員が購入できるわけではありません。必要な人には無料で配布するべきです。

低所得者、そして中高生や大学生など、幅広い人たちが対象です。中学校や高校でも、試験的に生理用品の無料配布ボックスを設置しましたが、市役所や駅やバス停などにも設置することを検討しています。

購入する余裕がある人は自分で購入し、できない人は無料で入手できるようなシステムも検討しています。タブーを打破しなければなりません」

女性だけの問題ではない「生理の貧困」

フランスでは「生理の貧困」が、女性だけの問題ではなく、社会の問題としてとらえられ、国だけでなく市民の間でも議論が始まり、解決策を導き出そうとしています。

生理の日、女の子たちが学校に行くのが怖いと思わないで済むように。

生理用品を手に入れられず、女性が、自分の生理が来ることで苦しむことがなくなるように。

そのためには、どうすればいいのか、模索するフランスの現状をこれからも取材していきます。
ヨーロッパ総局記者
古山彰子
2011年(平成23年入局)
広島局、国際部を経て
現在はパリを拠点に
フランスの社会問題などを取材