新型コロナ“自宅療養” 方針めぐる動き 医療現場は?課題は?

新型コロナウイルスの医療提供体制をめぐり、政府は、入院は重症患者や重症化リスクの高い人に重点化する一方、それ以外の人は自宅療養を基本とし、健康観察を強化するなどとした方針を取りまとめました。

4日、衆議院厚生労働委員会の閉会中審査で政府の方針をめぐって議論が交わされました。また専門家による会見も開かれました。

方針をめぐる一日の議論や、医療現場の状況などについて、まとめました。

田村厚生労働相 “病床確保が必要” 理解求める

田村厚生労働大臣は、4日開かれた衆議院厚生労働委員会の閉会中審査で「中等症の患者にもいろんな人がいるが、呼吸管理されている人を入院させず、自宅に戻すということはありえない。医療現場も十分に認識しており、きのう医療関係者と菅総理大臣との会談でも、はっきりと申し上げた」と述べました。

そのうえで「フェーズが変わってきており、関西での4月、5月の急激な感染増加では、本来は病院に入らなければいけない人が『ベッドが無い』ということで対応できないという問題があった。一定程度、ベッドに余裕がないと、そういう人たちを急きょ、搬送できないので、重症化リスクの比較的、低い人に関しては、在宅で対応することを、先手先手で打ち出させていただいた」と述べました。

立民 “中等症患者の入院 原則堅持を”

立憲民主党は、田村厚生労働大臣に対し、重症患者などを除き、自宅療養を基本とする政府の方針について、無責任だとして、中等症患者も入院する原則を堅持するよう申し入れました。

申し入れを行ったのは、立憲民主党の長妻副代表らで、田村厚生労働大臣に対し、緊急の要請書を手渡しました。

要請書では、重症患者などを除き、自宅療養を基本にするとした政府の方針は、患者を放棄する無責任な対応だと指摘し、中等症患者も入院する原則を堅持するよう求めています。

そして、臨時の医療施設や宿泊療養施設の確保を急ぐとともに、やむをえず自宅療養する場合でも、持続的な酸素投与などを行える体制の整備を急ぐべきだとしています。

要請に対し、田村大臣は「宿泊療養のホテルの確保なども追いつかないほどの感染拡大で、フェーズが変わってきている」と述べ、理解を求めました。

長妻氏は、申し入れのあと記者団に対し「助かる命が助からなくなる危機が進行しつつあり、政府にはフルスピードで対応してもらいたい」と述べました。

尾身会長「医療、宿泊施設、自宅で総合的な対策を」

政府の分科会の尾身茂会長は、衆議院厚生労働委員会で、「自宅療養で軽症や無症状の人も重症化するリスクがあるので、すぐに医療に結び付けるようなシステムとして、医療機関、宿泊施設、自宅といった3点の総合的な対策が必要だ。『在宅にするか医療機関か』という議論は、問題をやや単純化している」と述べました。

日本医師会「医師が判断した患者は入院できるように」

重症患者などを除き、自宅療養を基本とするとした政府の方針をめぐり、日本医師会の中川会長は記者会見で、現場の医師が重症化リスクが高いと判断すれば、入院の対象とすべきだという考えを示しました。

この中で、日本医師会の中川会長は、政府の方針をめぐり「全国の医療現場からは『中等症の人が入院できないと、急変の兆しの発見が遅れ、重篤化するケースが増えるのではないか』など、懸念の声が多数寄せられている」と述べました。

そのうえで「往診やオンライン診療は通常の診療よりも時間がかかり、自宅療養への急激なシフトは医療現場に大きな負担をもたらす。現場の医師が重症化のリスクが高いと判断すれば適時適切に入院できるよう、政府にも対応しほしい」と述べました。

また、中川会長は「患者が増え続けると、十分な病床と医療従事者を確保できない。感染拡大を極力抑え込む対策が最優先でなされるよう強力に求めたい」と述べました。

東京都 政府の方針受け入院判断基準見直し検討

政府の方針を受けて、東京都は、「中等症以上」などとしている入院の判断基準をより厳しくすることなども視野に見直しを検討していて、専門家の意見も踏まえて具体的に決めていくことにしています。

現在の基準は、「発熱や呼吸苦などの症状が中等症以上」は入院させることになっています。

具体例として、▽38度以上の発熱や▽血液中の酸素飽和度が96%未満といった症状や所見があるケースは入院としています。

都は、この入院の基準について、血液中の酸素飽和度の目安を下げて、より厳しくする案なども視野に検討していて、都の専門家から意見も踏まえて具体的に決めていくことにしています。

医療の現場 療養搬送相次ぎ機器・治療薬不足の事態も

方針をめぐる議論がされる中、医療現場では療養者の搬送が相次ぎ医療体制がひっ迫するケースが起きています。
オリンピックの競技会場に程近い、江戸川区の東京臨海病院では、コロナ患者の専用病床を50床確保し、中等症患者を中心に受け入れていますが、3日時点で46人が入院し、ほぼ満床の状態になっています。

病院に運び込まれた際、すでに酸素の投与が必要な状態に悪化している患者や、自宅で療養中に血液中の酸素の数値が悪化した患者の搬送も相次いでいるということです。
1日に10人ほどの入院があった日には、ウイルスの増殖を抑えるための抗ウイルス薬「レムデシビル」の病院内の在庫が不足する事態にもなったということです。

「ネーザルハイフロー」と呼ばれる鼻から高濃度の酸素を大量に送り込む治療に必要な装置も、院内にある15台のほとんどが使用されて足りなくなり、新たに購入することになったということです。

現在、消化器内科と外科のフロアを閉鎖してコロナ患者の病床を確保していますが、さらに増床も検討していて、その際は、ほかの診療科のフロアも閉鎖せざるをえないということです。

一般診療に影響が出ることは避けたいとしながらも、今の感染拡大に対応するには増床も考えざるを得ず、厳しい状況だということです。

山口朋禎呼吸器内科部長は「搬送されてきたら肺炎がひどくて酸素の数値も悪化しているケースも多く、自宅療養の患者でも入院しなければいけない人は潜在的には多いと思います。必要な人には早く入院してもらって薬などを投与するのが患者のためにはいいと思いますが、薬や機械、人員も無制限にあるわけではなく、限界がある状況です」と話していました。

病床確保のため新たな入院や手術 制限する病院も

千葉県は新型コロナの感染が急拡大していることから、県内全域で病床確保の計画を最大のレベルに引き上げることになりました。

これを受けて、3日、千葉大学病院では、病院長をはじめ各診療科の医師や看護師などが参加した対策会議がオンラインで行われました。

この病院では、7月前半までは新型コロナの入院患者は10人前後でしたが、3日の時点で重症患者4人を含む25人に増えています。

会議の中で呼吸器内科の医師からは「いままでにないスピードで患者が急増し、2日も3人の患者は受け入れたが2人は断った。速やかに受け入れ態勢を整える必要がある」という声が上がり、病院長は「コロナ患者を最優先で対応しなければ後手後手になってしまうので、診療の制限をしなければならない」と応じていました。

そのうえで、病院としてすぐに対応できる専用病床を現在の31床から60床に増やすため、緊急性の高い場合を除いて新たな入院や手術の制限を行うことを決めました。

深刻さ増す「医療のひっ迫具合」

政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は、感染状況を示す4つのステージのうちどのステージにあるか判断するための指標を示しています。

このうち「医療のひっ迫具合」は「病床使用率」、「入院率」、「重症者用病床の使用率」の3つの項目があります。

内閣官房のまとめによりますと、緊急事態宣言が出されている1都1府4県すべての地域で最も深刻な「ステージ4」に相当する項目があります。

家庭内感染で小児患者増え危機感

さらに、子育て中など若い世代の感染が急拡大していることから、母子医療の専門病院では子どもの患者も増えています。

母子医療を専門にしている東京・港区の愛育病院は、新型コロナウイルスに感染した子どもや妊婦の入院も受け入れています。

7月は合わせて20人が入院し、前の月に比べて2倍に増えました。

愛育病院小児科の浦島崇医師は「第5波に入って『デルタ株』の感染力の強さを感じる。患者の体内のウイルス量が増えて周りに感染させやすくなり、家庭内感染の増加につながっているとみられその結果、患者数が今までにないペースで増えている。家庭では個室で隔離するといっても共用のスペースの使用は避けられず、ほかの家族への感染を防ぐのは難しい面がある」と話しています。

重症患者などを除いて自宅療養を基本とする政府の方針については「自宅療養者が増えると家庭内感染のリスクも上がるので子どもの患者もさらに増えるおそれがある。ただ、病床がひっ迫してきている状況なので、重症患者やリスクが高い患者が優先して入院できるような体制をつくるにはやむをえない対策だと思う」と話していました。

増え続ける療養者 すべての地域で最も深刻な「ステージ4」

政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は感染状況を示す4つのステージのうちどのステージにあるか判断するための指標のうち、療養者数は、人口10万人当たりステージ3が20人以上、ステージ4が30人以上が目安です。

緊急事態宣言が出されているすべての地域で最も深刻な「ステージ4」に相当しています。

兄も姉も次々に感染「一つ屋根の下 感染防ぐこと無理」

療養者が増えるなか、医師は家庭内で感染を防ぐことの難しさを指摘します。実際にどのようなケースがあるのでしょうか。

東京・港区の愛育病院に入院している11歳の小学生は姉と兄も感染が確認されていて、母親は「気をつけていたのに一瞬で広がってしまった。一つ屋根の下で感染を防ぐことは無理だと思う」と話しています。

先週、7月30日から入院している11歳の小学生の女の子は一時、40度近くまで体温が上がるなど4日間、熱が続きました。
病院が撮影した映像では医師の問診に対して「頭痛がつらく息苦しいときもある」と答えています。

女の子の母親によりますと、先週、家族のなかで次々に感染が広がったといいます。

7月27日に専門学校に通う20代の姉が熱を出し、病院で感染が確認されました。
一度、帰宅しましたが、けん怠感が強く症状が比較的重いとして保健所の調整で翌日、入院しました。

姉が入院した日に今度は会社員の10代の兄が発熱。
感染が確認され、さらにその2日後に女の子にも熱が出て強い頭痛を訴えたことから救急搬送されました。
兄は保健所が療養先を調整しましたが6日間かかり、3日、ホテルに入ったということです。

女の子の母親によりますと、姉の感染がわかったあと家族は家の中でもマスクをしてそれぞれの部屋で過ごすようにし用があるときは携帯電話で話すなど感染が広がらないように対策をとっていたということですが、トイレや洗面台などは共同で使わざるをえませんでした。

母親は「翌日、また翌日と子どもたちがどんどん感染し、あっという間でした。日頃から手洗いや消毒など気をつけていたのに一瞬で広がってしまったことが本当に悔しいし、感染力の強さを感じます。一つ屋根の下で療養しながら感染を防ぐことは無理だと思う」と話しています。

母親は検査の結果、陰性でしたが濃厚接触者とされたため外出できません。

シングルマザーでパートタイムの仕事をかけもちして働いていますが1週間以上休んでいるということで、「有給休暇を使ったり貯金を取り崩したりしてなんとかしのぐしかありません。仕事に穴を開けてしまっているのも心苦しいです。オリンピックを観戦するどころではなくなりました」と話していました。