「ますます感染広がらないか…」“自宅療養を基本”に経験者は

重症患者や重症化するリスクが高い人以外は自宅療養を基本とするとした政府の方針について、自宅療養を続けている人や、すでに家族内で感染が広がっている人たちからは不安の声が上がっています。

自宅療養で家族が次々と感染し…

先月、同居する家族全員が新型コロナウイルスに感染したという女性は、重症患者などを除き自宅療養とする方針について「家庭内感染を防ぐのは難しくますます感染が広がってしまうのではないか」と話しています。

東京都内で夫と息子2人と暮らす介護ヘルパーの60歳の女性は先月19日に30歳の会社員の長男の感染が判明し、その3日後に夫も体調が悪くなり、その後、感染が確認されました。

同じ頃、女性と29歳の次男もPCR検査で陽性となったということです。

最初に感染がわかった長男はホテル療養となりましたが、調整に時間がかかり感染確認後3日間、自宅で過ごしていたということで、女性はこの間に家庭内で感染が広がったと考えています。

女性は「長男は個室に隔離して接触しないようにしていましたが、トイレなどは共用のため感染を防ぐことは難しくあっという間に広がってしまいました。夫は基礎疾患があるので、長男が自宅療養している間は生きた心地がしませんでした」と話していました。

そのうえで、重症患者や重症化するリスクが高い人以外は自宅療養を基本とする方針について「医療がひっ迫していて、それしか方法がないのかもしれませんが、家庭内感染を防ぐのは難しくますます感染が拡大してしまうのではないでしょうか。介護ヘルパーの仕事を2週間以上休んでいるので収入もなく不安な状況で、利用者の方や代わりに仕事に入ってくれている同僚のことを考えると心苦しいです。もともと人手が足りない介護現場がさらに大変になると危機感を感じます」と話していました。

高校生の長女が感染 自宅療養続けるも不安が…

東京都内では自宅で療養を続ける人たちがすでに1万人を超えていて、健康観察をどう進めていくのか課題となっています。
東京都内に住む40代の女性は、高校生の長女が新型コロナウイルスに感染し自宅で療養を続けていますが、高熱が出た時にも都の相談窓口に電話がつながらず今も不安を感じながら過ごしています。

高校生の長女の感染が確認されたのは、4日前の先月30日。翌日、保健所から連絡があり、行動履歴などの調査のあと保健所からは「今後は都のフォローアップセンターに引き継ぎます」と説明を受けたということです。

都のフォローアップセンターは医療相談や健康観察にあたる窓口で、長女の熱が39度台にまで上がったため女性はセンターに電話をしましたが、問い合わせが相次いでいるのか、つながらなかったということです。

女性は「娘には薬や食事をとってもらい、とりあえず熱を冷やすとか、ふつうのことしかしてあげられなかった。重症者ではないのでホテルにも入れず病院にも入院できないので、自宅でみなきゃいけないというのはどうしていいのかと不安がありました。いま娘は症状が落ち着いていますが、重症化のリスクが高い人などしか入院できないと聞くと、不安で不安でしょうがないです。ここまで感染が広がるまでにもっと出来ることがあったのではないかと感じています」と話していました。

人手不足の介護現場からは…

一方、慢性的な人手不足に悩む介護現場からは、介護従事者の家庭内で感染が広がるなどして出勤できなくなるケースが増えるのではないかと不安の声があがっています。

千葉県八千代市の特別養護老人ホームでは先月29日、職員の同居家族が新型コロナウイルスに感染していることがわかり、職員は濃厚接触者と判断されました。

家族は宿泊療養を希望したものの空きがなかったため、10日間の自宅療養となったということです。

地元の保健所からは、風呂やトイレなど家庭内で接触を完全に絶つことは難しいとして、濃厚接触者の自宅待機は本人の療養が終わってからさらに14日間、必要だと説明されました。

職員は今月22日まで勤務できないことになりました。

この期間、施設では管理職が介護に当たったり、ほかの職員が休みを返上したりしてやりくりすることにしましたが、夜勤の回数は多い人で7回にのぼるということです。
勤務管理をする介護主任の石井幸子さんは「介護現場はもともと人手不足で一人でも欠けると大きな影響があります。感染対策として、同じフロアの職員の間で勤務をやりくりするようにしているので、職員の負担も増えています」と話していました。

この施設では、家庭内感染の影響で一定期間勤務できなくなったケースがこれまでに4件あるということです。
重症患者や重症化するリスクが高い人以外は自宅療養を基本とする政府の方針について、施設長の津川康二さんは「自宅で療養するということは、家庭内での感染リスクが高まったり濃厚接触者が自宅待機を続けたりすることになり、介護現場への負担がますます増えるのではないかと懸念しています」と話していました。

専門家「いち早く医療につなげられるかが課題」

厚生労働省の専門家会合のメンバーで国際医療福祉大学の和田耕治教授は「新型コロナウイルスに感染した人の中には呼吸の苦しさをあまり感じないまま肺炎が進行し、急激に症状が悪化する人が一定数いることが分かっている。自宅で容体が悪くなった人を把握し、いち早く医療につなげられるかが課題だ」と指摘しました。

そのうえで「入院していれば主治医など誰が管理の責任を持つかは明確だが、自宅療養の場合、明確に決まっていない場合がある。若い世代であればかかりつけ医もいないと考えられる。地域のクリニックでも健康状態のフォローアップを担ってもらうなど、医療体制を地域で組む必要もある」と述べ、自宅で療養する人を支える医療体制を整える必要性を強調しました。

さらに和田教授は現在の感染状況について「国内ではコロナが広がってからの1年半で今が最も感染するリスクが高い状態だ。自分のすぐそばまでウイルスが来ているという緊張感をもって感染対策を行ってほしい。特に医療がひっ迫している今、感染しても期待するような医療が受けられない可能性がある。自分や家族を守るためにも人と会う、接触する機会をとにかく減らしてもらわないといけない」と訴えました。

田村厚労相「東京の感染拡大対応で打ち出している」

今回の政府の方針について、田村厚生労働大臣は3日夕方、記者団に対し「東京の感染拡大にどう対応していくかということで打ち出している。基本的に感染が急拡大しているところが対象だ。全国で感染が急拡大していないところは、それぞれの感染状況に応じ対応してもらう」と述べました。

一方で、田村大臣は「若干フェーズが変わっており、すべての関係者に理解をとり、すべてが整ってから対応を変えるということでは、国民に安心感を持ってもらえない。先に動いていかないと対応できないような感染拡大局面に、首都圏があるという認識を持っている」と述べました。