ビジネス特集

“1人勝ち”中国経済に変調の兆し? 中小企業から悲鳴のわけは

「生産すればするほど赤字が膨らむ…」
中国の中小企業から悲鳴にも近い嘆きが聞かれます。

中国経済は、去年、新型コロナウイルスの打撃からいち早く立ち直りました。当局はいまも「安定的な回復が続いている」と強調していますが、先月には、景気を下支えする追加の金融緩和に踏み切り、市場関係者を驚かせました。
“1人勝ち”とさえ言われてきた中国経済に今、何か起きているのでしょうか。
(中国総局記者 伊賀亮人 / 広州支局記者 高島浩)

コロナで膨らんだ需要

大手建設機械メーカー「三一集団」
「去年は異常なくらい業績がよかった」
そう語るのは、内陸部の湖南省 長沙に拠点を置く大手建設機械メーカー、「三一集団」の向文波総裁です。
このメーカー、福島第一原発事故の際、放水に使われた特殊車両を提供したことでも知られます。
原発事故に関する「三一集団」の社内展示
去年の売り上げはおよそ2兆3000億円と、好調な中国経済を象徴するように、前年から30%以上増加しました。
ショベルカーの販売台数は9万台を超え、世界で首位になったと胸を張ります。
追い風となったのは政府の経済対策です。
去年の初め、新型コロナウイルスの感染拡大で経済に影響が広がると、中国政府は大規模な財政出動に踏み切りました。このうち地方政府がインフラ投資などにあてる債券の発行枠は3兆7500億人民元(63兆円余り)と、前年の1.7倍に膨らみました。

この結果、インフラ投資が活発になり、建設機械がかつてないほど売れたというのです。
「三一集団」 向文波総裁
向総裁は「感染拡大は結果として、われわれの業績にとってはプラスに働いた」と振り返ります。

ピークを越えたか

ただ、取材を進めると変化が起きていることがわかりました。
このメーカーは、国内に出荷したすべての機械68万台にセンサーを取り付けてリアルタイムで稼働状況を分析しています。
故障が起きた際の修理に活用したり、需要を予測して効率的な生産につなげたりするためです。
このデータをもとに分析した24時間の稼働率の平均は去年、過去最高の水準を記録しました。
そのピーク時と比べて稼働率は10ポイントほど低くなっています。

メーカーは、中国全体でのインフラ需要がピークを越えたとみています。
実際、ことしに入ってインフラ投資額の伸び率は小さくなりました。

背景には、コロナ禍の緊急対応から平時の政策に戻すことをねらいとした財政出動の縮小があり、中国政府が官主導の回復から民間主導の成長への移行を図っているとみられています。

浮かび上がった疑問

ところが先月9日、再び、官主導の経済対策が発表されました。
中央銀行である中国人民銀行が、中小・零細企業の資金繰りを支えるとして、追加の金融緩和策を発表したのです。
中国経済は底堅い回復が続いているという見方が大勢を占める市場では、驚きを持って受け止められました。

中国人民銀行が決めたのは、金融機関から強制的に預かる資金の比率を引き下げることによる日本円で17兆円規模の資金供給です。

サプライズは、決定のスピードとその対象でした。
人民銀行の発表の2日前に中国政府は、追加の金融緩和を検討する方針を示していましたが、時期は明らかにしませんでした。
このため市場には、実施はしばらく先で、しかも限定的な措置にとどまるという見方がありました。
ところがふたを開けてみると、すぐに実施され、幅広い金融機関が対象になりました。
「中国の景気は考えているほど良くないのではないかー」
市場関係者の間でそうした疑問さえ浮上しました。

「世界の工場」が直面する課題

なぜ今になって、中小企業の資金繰りを支える必要が出てきたのでしょうか。
「世界の工場」とも呼ばれてきた南部の広東省中山で、家電メーカーの「楽途電器」を取材しました。
北米向けの扇風機を受託生産する従業員100人余りの企業は、大きな課題に直面していました。世界各地での経済活動再開を受けた原材料価格の高騰です。
「楽途電器」 黎明陽会長
黎明陽会長は、「値上がりしていない原材料はない。包装に使う紙類まで高くなっている」と訴えました。
黎会長は原材料の価格の記録を続けています。
ことし6月の分を見せてもらうと、扇風機のファンを回すモーターに使われる銅線の価格は、去年の8月と比べて1トンあたり1万3000元余り(22万円余り)、率にして47%値上がりしていました。
また、鉄は32%、アルミは17%の値上がりとなっていました。

この結果、扇風機の製造コストは20%を超える上昇となったといいます。

受注は増えたのに赤字…

黎会長の頭を悩ませているのは、コストの増加を価格に転嫁できないことです。
というのも、去年8月に1年間の受託生産の契約を委託側と結び、すでに受注価格が決まっているためです。
黎会長
「生産すればするほど赤字が膨らむ状態だ。工場を休ませた方が利益になるなんて初めての経験だ」
いわゆる巣ごもり需要の高まりで、ことしの受注台数が180万台と前年の1.5倍になったにもかかわらず、2億円近い赤字になる見込みです。
来年の受託生産の契約に向けて取引先と協議していますが、受注価格を上げてしまえばライバルの他社に契約を取られるリスクもあり、難しい判断を迫られています。
黎会長
「原材料価格の高騰がいつまで続くかわからない状況で、来年も利益の確保は難しいかもしれない。人件費の削減などで対応しないと会社が倒産してしまう」

ことし後半には減速強まる?

こうした中で先月15日、中国では4月から6月のGDP=国内総生産が発表されました。前年同期と比べた伸び率は、プラス7.9%でした。
コロナ禍でマイナスだった反動もあって過去最高の水準だった前の3か月と比べると、伸び率が下回るのは想定の範囲内でした。

ただ、事前の市場予想の中心だった8%台より低かったことで、伸びが鈍化しているとの受け止めが広がりました。

大和総研の齋藤尚登主席研究員は、中国経済の先行きを次のように見ています。
大和総研 齋藤尚登主席研究員
齋藤主席研究員
「GDPの内容からも景気自体が悪いわけではないが、市場の予想を下回る微妙な水準だ。原材料価格の高騰などによる変調の兆しを当局が感じ取っていたからこそ、『転ばぬ先のつえ』として追加の金融緩和に踏み切ったのだろう。原材料価格の高騰だけでなく、世界的な巣ごもり消費の増加による輸出の『コロナ特需』が今後収まってくることや世界的な半導体不足の影響などで、ことし後半は景気が下振れするリスクが高まっていくだろう」
専門家の間では、中国政府がさらなる金融緩和や追加の財政出動などに踏み切らざるをえない可能性も指摘されています。
一方で、コロナ禍での大規模な経済対策による不動産バブルや債務の膨張といった副作用への懸念も強まっています。出口を探りつつ景気を冷え込ませないという難しいかじ取りが迫られる中国経済。世界経済が打撃を受ける中で中国事業で収益を伸ばした日本企業も多いだけに、“変調”への注意が必要になりそうです。
中国総局記者
伊賀 亮人
平成18年入局
仙台局 沖縄局
経済部などを経て
去年から現所属
広州支局記者
高島 浩
平成24年入局
新潟局 国際部
政治部を経て
去年から現所属

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