ビジネス特集

”巨大迷宮” 渋谷 もう迷わない

地下深くに乗り入れる鉄道のホーム。方向感覚を失う通路。そして、通勤ラッシュの人混み…。多くの人を迷わせ「迷宮」とも呼ばれる渋谷駅。誰もが歩きやすい駅を目指して、いま鉄道会社が行政などと対策に乗り出しています。目指した先は”空中”です。(経済部記者 真方健太朗)

渋谷再開発で登場した“空中回廊”

次々と高層ビルが建設され、大規模な再開発が続く東京 渋谷駅周辺。7月15日、ここに新たな施設がお目見えしました。
渋谷ヒカリエの3階と4階に接続する歩行者デッキです。宮益坂と並行する形で、200メートルにわたって整備されました。

2027年度には駅周辺に立つ高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」や「渋谷マークシティ」などにも接続し“空中回廊”のようになる計画です。
渋谷の西側=道玄坂上と東側=宮益坂上の間およそ800メートルをつなぐ、大きな橋ができるイメージです。

さらに、地下のホームと歩行者デッキの間の移動がしやすいよう、ヒカリエなどの高層ビルにエレベーターとエスカレーターで縦の動線も整備。
複雑な地下通路を通らなくても目的地にたどりつくことができ、利便性を高めることをねらっています。

なんでこんなに複雑に?

ここまで壮大な計画をなぜ進めるのか。その理由が、国内の駅でも例を見ない渋谷駅の複雑な構造です。
こちらが渋谷駅の構内図。実際に足を運ばなくても、その複雑さにめまいを覚えます。

最も高い地上3階にあるのが、東京メトロ銀座線のホーム。地下鉄なのに、高架のJR山手線より高い場所にあります。

一方、副都心線と東急東横線のホームがあるのは、そこからはるかに下った地下5階。

地上から地下まで何層にもホームが重なるその構図は、巨大な迷宮にも例えられています。

100年の歴史が築いた“巨大迷宮”

渋谷駅の研究を行う専門家は、この複雑な構造が、渋谷という地名に象徴される“谷”の地形と、駅の増改築を繰り返してきた100年の歴史によって築かれたと指摘します。

渋谷駅が今の場所に移ったのは、さかのぼること100年前の1920年。渋谷で一番低い“谷底”にあたる場所に位置し、周辺に広い平地がありませんでした。

最初は山手線と近くに路面電車の停留所があるだけでしたが、その後、別の路線が乗り入れると新たなホームは旧来の駅舎の上に増設されていきました。
1938年に乗り入れた銀座線は地下の浅いところを通っていることから、渋谷では谷の側面から空中に線路が飛び出す形となり、地下鉄なのに当時の国鉄よりも高い位置にホームが建設される異例の形となりました。

一方、1975年以降、経済成長や人口増加に対応して、地下鉄半蔵門線や東急田園都市線など新たな路線が次々と渋谷に乗り入れると、今度は地下にホームを建設せざるをえなくなりました。

その結果として、地下深くに入り組んだ構造に変わっていったのです。
昭和女子大学 田村圭介教授
田村教授
「複雑な構造は利用客の増加に伴って、その場しのぎとも言える形で増改築を繰り返してきた結果です。100年の歴史の積み重ねが今の渋谷駅の姿だと言えます」

ますます複雑になって…

地形と歴史が生んだ巨大迷宮。その複雑さにさらに注目が集まるきっかけとなったのが、2013年、東急東横線と地下鉄副都心線の直通運転の開始でした。

これに伴って、地上2階にあった東横線のホームが地下5階に移設された結果、これまで地下通路を通る必要がなかった東横線利用客が地下に流れ込みました。その数、1日延べ40万人。
「案内がわかりにくい」
「初めて来た人も迷わず乗り換えできるようにするべきだ」
この年、鉄道会社には利用客からこうした苦情が400件以上寄せられました。

地下通路から地上への出口はなんと20か所。そのうえ、外の景色も見えないため方向感覚を失いやすくなります。

まずは、この問題を解消しようとおととし、鉄道各社は行政などと、渋谷を4つのエリアに分けて出口に割り当てるアルファベットと番号を一新しました。
「A」 ハチ公前広場など駅の北西側

「B」 渋谷ヒカリエなど北東側

「C」 渋谷警察署など南東側

「D」 現在、再開発中の桜丘口など南西側
東急で渋谷の再開発を担当 黒瀬のぞみさん
自分が行きたい場所がどのエリアにあるのか確認したうえで、出口のアルファベットに注目すれば「目的地から遠い出口にきてしまった」といったミスは防げるというわけです。

実際に去年の鉄道会社へのクレームは2013年のおよそ10分の1に減ったということです。
黒瀬さん
「東横線が地下に移った時は、大学の同級生からも駅が分かりにくいと直接クレームを言われるほど不便な状況でした。目的地があるエリアのアルファベットを確認してから地下通路を歩くと迷いにくいと思います」

回遊性を高める

地下の案内板を整理したうえで抜本的な対策として作られる、今回の“空中回廊”。

高層ビルの建築など渋谷駅周辺の再開発とともに、歩行者デッキが完成するのは2027年度です。鉄道会社側は、歩行者デッキによって回遊性を高めることをねらっています。
これまでは、国道や線路によって街が分断され、渋谷駅で下車する人はハチ公前広場がある駅の北西側を訪れる人が中心でした。

しかし、空中の歩行者デッキが完成すれば、青山方面や代官山方面にもさらに人の流れが広がっていく可能性があるとみています。
東急 黒瀬さん
「歩行者デッキによって、東西南北で分断されていた街が一体化すると思います。今はスクランブル交差点が外国人観光客の注目を集めていますが、2027年度には空中のデッキを大勢の人が行き交う光景が渋谷の新たな名物になるかもしれません」

街が大きく変わる転換点に

昭和女子大学の田村教授は、今回の再開発が渋谷の街が100年ぶりに大きく変わる転換点になると予想しています。
田村教授
「人が歩く場所が『歩行者デッキ』と『地上』と『地下通路』の3つに分散することで渋谷のごみごみとしたイメージが変わる可能性があります。渋谷は街づくり自体が、急激な発展に対応するためつぎはぎのような応急処置で対応してきました。長期的な視点でのトータルコーディネートで街や駅が設計されるのは今回が初めてで、渋谷は今より洗練された街になるのではないでしょうか」
地下迷宮から空中回廊へ。

渋谷に生まれる新たな人の流れは、街をどう変えていくのか?

これからも注目していこうと思います。
経済部記者
真方健太朗
帯広局、高松局、広島局を経て現所属。
国土交通省で鉄道業界などを取材

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