デジタルアートが熱い! コレクターに聞いてみると…

デジタルアートが熱い! コレクターに聞いてみると…
「デジタルアート」の市場が、沸騰しています。作品の取引価格は高騰し、75億円もの高値で落札された作品もあります。かぎを握るのは「NFT」と呼ばれる技術。作品が正真正銘の本物、コピーではないことを示す、いわば”証明書”のようなものです。新たな技術がもたらした変革とは?(経済部記者 野上大輔)

国内有数のコレクターが語る

今回、国内有数のコレクターとして知られる男性に取材することができました。
顔を明かさないことを条件に取材を受けてくれたLevさん。都内に住む30代の男性で、以前は会社員として働いていましたが、現在は暗号資産や株式などを対象とした投資家として生計をたてているそうです。

2019年からNFTのデジタルアートの購入を始め、いまでは300点余りの作品を保有しています。取材の時には、みずからのコレクションを収めたバーチャル空間に案内してくれました。
Levさんは、実物の絵画や彫刻などを収集したことはなかったということですが、ウェブ上で販売されていた海外アーティストのデジタルアート作品を見つけて気に入ったことをきっかけに、NFTの世界にのめりこんだと話します。
Levさん
「2年前はNFTが購入できる場所も限られ、当時は全く見向きもされていなかったです。デジタルデータはいくらでも世の中にあふれているんですけど、唯一無二のホンモノの証明ができるというところが画期的だと思って、あくまで趣味の範囲で収集を始めました」

作品の価値を高める新技術 ”NFT”

デジタル上で制作された作品はコピーが可能で、簡単に複製をつくることができました。

NFTは、作品につけられた証明書のようなもので、これはコピーすることができません。
暗号資産でも使われるブロックチェーンの技術が活用されていて、NFTによって特定の作品を唯一無二の「オリジナル」として取り引きすることができ、価値が認められるようになったのです。

加熱する市場 投資にはリスクも

ウェブサイト上には、NFTのデジタルアートを売買するための「取引所」があり、現金ではなく、ブロックチェーンの技術を活用したイーサリアムなどの暗号資産を通して購入することができます。
Levさんが収集を始めた2019年ごろには、数十ドル相当で作品を買えましたが、特にことしに入ってからはみるみるうちに価格が上がっていったそうです。

例えば、Levさんが数多くの作品を保有する「XCOPY」というイギリス在住のアーティストの作品。かつては100ドル以下相当で購入できましたが、最近では100万ドル=日本円で1億円以上に相当する価格で落札された作品もあります。

とりわけ初期から活動するアーティストは作品の価値も高くなり、多くの人が容易に買える金額ではなくなったといいます。
Levさん
「買った作品と同じアーティストの作品が数百倍から数千倍の価格で取り引きされる今のような状況は、全く想像していなかったですね。最近の取り引きでは、お金のにおいをかぎつけて投機目的で購入をする人が増えてきている印象があります。例えば、発売されたばかりの作品が、わずか数秒後に転売されることもたびたび見かけるようになりました。しかし、コレクターとして言わせてもらうと、出品の背景を理解して作品の適正な価値を見極めることは簡単ではありません」
転売目的で取り引きが過熱している今の状況には、リスクも伴いそうです。

本格的に注力するアーティストも

一方で、NFTの登場は、デジタル作品を手がけるアーティストにも大きな変化をもたらしています。
CGなどの映像作品を制作するアートディレクターの浅田真理さん。音楽イベントやブランドショップから依頼を受けて、空間演出のための作品を制作して収入を得てきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大でイベントの依頼は激減。一時は、仕事の依頼が全くなくなってしまった時もあったといいます。

そんな中でNFTの存在を知り、今年2月からみずから制作した作品の販売を本格的に始めました。主に海外のサイトに出品していて、作品は25万円相当で取り引きされています。
浅田さん
「デジタルの分野でもアーティストとして食べていける仕組みができたことがいちばん大きいです。依頼されるものをつくるだけでなく、今は自分がつくりたいものは何だろうと、制作者としての根源に立ち返っています」

転売もアーティストの収入に!

浅田さんが自分がつくりたいものにこだわりたいと語るのは、大きな理由があります。

通常の美術作品は、制作したアーティストが収入を得るのは最初に売った時だけで、その後に転売されて、どれだけ高額になったとしてもアーティストの収入にはなりません。

しかし、NFTは違います。NFTは「アーティストに購入代金の一部を支払う」というプログラムを仕込むことできるのです。これによって、作品が手を離れてからも、転売されるごとにアーティストが収入を得ることにつながるというわけです。
浅田さんは作品の販売だけではなく、ほかのアーティストと共同で展覧会を開いたり、NFTの普及活動にも力を入れています。

今年7月に渋谷で開いた展覧会では、NFTの作品を実際に目で楽しめるように、リアルの空間に展示するだけではなく、スマホでその場で購入できるようにするなど、デジタルアートのすそ野を広げることにも取り組んでいます。
浅田さん
「新しく参入する人が増える期待があります。私は、NFTがアートの世界に“デジタルルネサンス”をもたらすと思っています」。

ブームのその先は

アートの分野で一躍注目が集まったNFTですが、デジタルデータが形あるものと同じように価値を持つということは、アート以外でもさまざまなビジネスの可能性を秘めています。

すでにスポーツやイベントなどのチケットにNFTを付与して、新たな付加価値をつけるサービスなどの検討が始まっています。また、国内のIT大手が取引所を始めることを発表するなど、NFTビジネスを拡大しようという動きも相次いでいます。

NFTが、バブルのような一過性の高騰で終わるのか、それとも社会のデジタル化に伴って広く浸透していくのか、今のブームのその先が注目されます
経済部記者
野上 大輔
平成22年入局
金沢局をへて、経済部
現在、金融業界を担当