「デルタ株」感染の50代以下の患者急増 医療現場で危機感募る

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、首都圏で重症患者の治療にあたる大学病院では、感染力が強い、インドで確認された変異ウイルス「デルタ株」に感染している患者の入院が相次ぎ、患者の8割はワクチン接種が行きわたっていない50代以下になっているということです。現場の医師は危機感を募らせています。

埼玉県川越市にある、埼玉医科大学総合医療センターでは、人工呼吸器が必要な重症患者や、ほかの病院で状態が悪化し、より専門的な治療が必要な中等症患者への対応にあたっています。

この病院では、20日時点の入院患者は9人で、▽60代以上が2人、▽50代が3人、▽40代が3人、▽30代が1人で、全体の8割が50代以下になっています。

このうち、6人は、感染力が強い、インドで確認された「デルタ株」に感染していて、もう1人はデルタ株に感染した患者の同居家族で、検査中だということです。

先週入院したデルタ株に感染した50代の男性は、基礎疾患はありませんでしたが、発症から2日目に血液中の酸素の数値が急激に悪化し、搬送されてきました。

現在も酸素マスクを使用しないと十分に酸素を取り込めないほど肺炎の症状が広い範囲に及んでいるということです。

感染症科の岡秀昭教授は「先週から入院患者は例外なくデルタ株になり、2週間で急速に置き換わった。患者の年齢層が50代以下で占められているのは、低年齢でも重症化する1つのデータだと思う。40代、50代は高齢者ほどではないが症状が重くなるので、ワクチンの普及が進まない中、感染状況が悪化すれば、今後、医療のひっ迫が起きる」と危機感を募らせています。

そのうえで「高齢者の割合が少ないのは、ワクチンの効果を実感しているところで、40代、50代にもワクチンが行き渡ればコロナとの闘いにも期待が持てるのではないか。オリンピックだけでなく、長期休暇となるが、感染対策を徹底してほしい」と呼びかけていました。

自宅療養者急増に備えて酸素装置を導入

東京オリンピックの開幕を前に、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、東京・墨田区の保健所では、今後、病床がひっ迫し、入院できずに自宅で療養せざるをえない人が増加する事態に備え、自宅で酸素を吸入できる装置を確保し、貸し出しを行うことになりました。

新型コロナの感染拡大に歯止めがかからず、東京・墨田区でも7月に入って感染する患者が急増し、自宅で療養をしていた若い世代でも症状が悪化し、入院が必要になるケースも出てきているということです。

墨田区では、今後、病床がひっ迫し、入院できずに自宅で療養せざるをえない人が増える事態に備え、自宅でも酸素を濃縮して吸入できる「酸素濃縮装置」を3台、区で確保し、24時間体制で貸し出しを行うことになりました。

21日は区役所で医療機器メーカーと保健所の担当者らが打ち合わせを行い、装置の使用方法を確認したほか、入院までの間、医師会などと連携し、往診による健康観察を行うことを確認していました。

ほかにも、体内に酸素をどの程度取り込めているか測定する、「パルスオキシメーター」を今ある300台に加えて、新たに400台確保し、自宅療養者へのサポートを強化することにしています。

墨田区保健所の西塚至所長は「今後、病床がひっ迫した場合、すぐに、自宅で酸素療法を始めてもらえるように対策を進めているので、オリンピック期間中も、コロナ対策は今まで通り行ってほしい」と話していました。

医師「未接種で患者急増 移動控えて」

東京オリンピック開幕を直前に控えた医療現場の現状について、東京で新型コロナウイルスの患者の治療を行っている医師は、ワクチンを打っていない世代や打った直後の人などで、入院する患者が急増しているとしています。

感染の拡大を防ぐために、夏休みに伴う移動や大人数でのオリンピックの応援を控えるよう訴えています。

国立国際医療研究センターの森岡慎一郎医師によりますと、入院を依頼される数はこの1、2週間で急増し、20日時点での入院患者は30人余りと用意している病床の7割以上となっているということです。

入院している患者は、30代から50代の比較的若い世代が全体の7割を占めていて、特に肥満の人などが重症化しているケースが見られるとしています。

森岡医師は「ワクチンを打っていない人や打った直後の人たちが入院患者の多くとなっている。『ワクチンは信用できない』『マスクや手洗いは意味がない』『会食しても大丈夫』といったことをSNSで見聞きして、実際に行動に移してしまって感染する人が後を絶たず、医療者として非常に悲しい気分になる」と話していて、正しい知識に基づいてワクチン接種の判断を行い、基本的な感染対策を取るよう訴えています。

センターでは、19日からは別の診療科の医師が軽症の患者を診療するなどの体制を整えていますが、森岡医師は夏休みやオリンピックなどの影響で人の動きが活発になり、感染がさらに広がることで医療現場が再び、厳しい状態に置かれることになるのではないかと懸念しています。

森岡医師は「感染力が強い『デルタ株』も増え、これまでの緊急事態宣言のときより人と人との接触を抑えないと感染を抑える効果が得られないのではないか。オリンピックはふだんから一緒の人と自宅で応援してほしい。4連休やオリンピックでお祭り気分になり、ふだん会っていない人と会いたいという気持ちは理解できるが、東京から地方に行くと、コロナを拡散させてしまうリスクがある。移動に関連した感染はこれまでにも起こっているので真摯(しんし)に受け止めて行動してほしいというのが医療現場からの切実な願いだ」と訴えました。