熱海 土石流 「恐怖で身動き取れず」動画撮影の被災者

静岡県熱海市で起きた大規模な土石流で、猛スピードの濁流が住宅などを押し流す瞬間を捉えた動画を撮影した24歳の女性がNHKの取材に応じました。「当時は恐怖で身動きが取れなくなった。動画を見た人には自分が住んでいる場所の地形や土砂が流れてくるおそれがあるかどうかを確認しておいてほしい」と訴えています。

今月3日に熱海市伊豆山地区で起きた大規模な土石流では、発生時の瞬間を捉えた複数の動画がSNSを通じて発信されました。

その1つで、これまでに723万回以上再生された、住宅街の坂道を土石流が襲う動画です。

午前11時15分、路上で立往生した白い車に向かって、がれきや土砂がゆっくりと流れ下り、車がなんとか動き出した直後に猛スピードの土石流が住宅などを一気に押し流します。

この動画を撮影したのは、伊豆山地区の中島茉子さん(24)で、今月3日は仕事が休みで、4階建ての自宅で両親と祖母の4人で過ごしていました。

異変に気づいた母親から「急いで上に逃げて」と言われ、4階に駆け上がってベランダから外を見ると、がれきや土砂が流れ始めていたため、無意識のうちにスマートフォンで撮影したといいます。

茉子さんは「びっくりして言葉も発せず、気づいたら撮影していました。はじめはその怖さを感じずに無我夢中で撮っていましたが、次第に恐怖で身動きがとれなくなりました」と振り返ります。

「助けてほしい」という一心で動画をツイッターに投稿し、家族とともに3階の窓から隣の家の屋根づたいに避難したということです。

投稿から5時間後にツイッターを確認すると、動画を見た全国や海外の数多くの人たちからメッセージが届いていることに気づきました。

茉子さんは「明日も見えない状況で絶望していたので、いろんな人が『大丈夫ですか』とか『無事ですか』と心配してくれました。被災した経験がある人からのメッセージもあったので、とても勇気づけられました」と涙を浮かべて語りました。

一方、家族の生活は土石流の被害で大きな影響を受けています。

父親の秀人さん(52)は、伊豆山地区で創業80年余りの老舗の製麺所を経営していて、熱海市内のラーメン店などおよそ50店舗に麺を出荷していました。

しかし、自宅の1階と2階部分にある工場や倉庫に土砂が流れ込み、製麺機や大型の冷蔵庫が壊れるなどの大きな被害を受けました。

さらに、自宅のある場所は警戒レベルで最も高いレベル5の「緊急安全確保」が出され、立ち入りが制限されていて、家族はいまも避難生活を余儀なくされています。

こうしたなかでも、秀人さんは協力を申し出てくれた東京の製麺所に麺づくりを依頼し、被災した3日後から中島茉子さんとともに取引先への配送を再開しました。

秀人さんは、「工場の被害を見たときは想像をはるかに超えていて、がく然としました。はっきり言って未来は見えていませんが、土砂に負けたくないという強い思いがあります。同じように被災した人たちが少しでも前向きになるよう、勇気づけられたらと思います」と話していました。

茉子さんは製麺所の再建に向けた支援を求めようと、東京に住む姉と協力してクラウドファンディングで寄付を募ることにしています。
投稿した動画を通して伝えたいことを聞くと、「私自身、こんな被害が起きるとは想像していませんでした。動画を見た人には自分が住んでいる場所の地形や、土砂が流れてくるおそれがあるかどうかを確認しておいてほしい」と話していました。