温暖化対策の炭素クレジット 需要急増で注目 国内外企業が活用

地球温暖化対策への機運の高まりを背景に、温室効果ガスの排出量の取引の一種「炭素クレジット」と呼ばれる民間主導の仕組みに注目が集まっています。市場規模は5年間で4倍近くになり国内外の企業などが活用に向けて動き出しています。

「炭素クレジット」は森林の保護や植林などによって生まれる温室効果ガスの削減量を「クレジット」として発行し、ほかの企業などとの間で売買できるようにする仕組みです。

二酸化炭素の排出を実質ゼロにすることを目指す企業が増えていることでクレジットの需要は増していて、イギリスの調査会社のまとめによりますと、去年世界で発行されたクレジットは二酸化炭素2億2300万トン分となり5年間で3.8倍に増えました。

現在は1トン当たり平均で5ドルほどで取り引きされていて、今後需要が一段と伸びることで2030年までに価格が最大10倍ほどになると予測されるということです。

炭素クレジット市場の拡大はITを活用した森林や農地の管理など効率よく二酸化炭素を吸収するための技術開発につながると期待されていて、欧米の企業を中心に利用が活発になっているほか国内でも動きが出始めています。

一方で温室効果ガスの削減量を適正に評価できるかなど課題もあり、共通の基準づくりに向けた国際的な議論が進んでいます。

アメリカ 市場拡大に期待

アメリカでは環境政策を重視するバイデン政権のもと、炭素クレジットが「新たなゴールドラッシュ」とも表現され期待を集めています。
中西部オハイオ州の農家リック・クリフトンさんは、およそ1200ヘクタールの畑で秋に大豆を収穫したあと畑を使わない春までの間、収穫しないライ麦などを植える取り組みを始めました。

二酸化炭素を土の中にとどめる効果があるということで削減できる分をクレジットの形で売っています。
5年間で17万5000ドル、日本円で1900万円余りを手にできるということで、クリフトンさんは「土に養分を与えられ炭素の貯蔵もできる。私が取り組んだ分を誰かが買いたいというなら取り組まない理由はないです」と話していました。

さらに、炭素クレジットの拡大に向けて巨大IT企業も動き出しています。

マイクロソフトは、自社の二酸化炭素の排出を削減するとともに炭素クレジットを活用して2030年に排出量を実質マイナスにする目標を掲げています。

単にクレジットの買い手となるだけでなく大気中から二酸化炭素を直接回収する設備を手がけるスイスの企業へ出資したほか、森林の管理や農業ビジネスの企業と相次いで提携しクレジットを生み出す事業に資金を振り向けています。

衛星写真をAI=人工知能で解析するなど自社のビジネスも活用して森林の管理などの効率を高めていく考えです。

マイクロソフトのカーボン・プログラム・マネージャー、エリザベス・ウィルモットさんは「二酸化炭素を取り除く技術の開発は重要だが大きなコストがかかる。資金力のある企業がまず動いてまだ規模の小さい炭素クレジット市場を健全に成長させなければならない」と述べました。
そのうえで「西海岸の熱波で見られるように気候変動問題は緊急性が高くいま動かなければならない。気候変動に強い経済社会を目指しながらビジネスが発展する機会だと捉えている」と話していました。

日本で事業に乗り出す企業も

世界の流れを踏まえ、日本でも炭素クレジットを生む事業に乗り出す企業が出始めています。

石油元売り最大手のENEOSホールディングスは、環境関連の企業に相次いで出資していて、このうちことし3月には森林を管理するシステムを手がけるスタートアップ企業に出資しました。

そして、茨城県日立市にあるグループ会社の遊休林で二酸化炭素の吸収の効率を高め、削減分をクレジット化するための調査を始めました。
調査では100ヘクタールの山林をドローンで上空から撮影して木の種類や密度を調べるほか、リュックサック型の機材を背負って森林の中を歩き立体的に幹の太さや木の量を把握します。

データを解析することで森林がより多くの二酸化炭素を吸収するために手入れをすべき部分を効率的に割り出せるということです。

ENEOSホールディングス未来事業推進部の大間知孝博グループマネージャーは「エネルギーの供給会社として完全に排出をなくすのは難しく最後は炭素クレジットが必要になる中で、先端技術を使って自然を後世に残す取り組みに資金がまわるようにしたいと考えた。まずは1つ実績をつくることを目指したい」と話していました。

専門家「日本企業にもチャンス」

海外を中心に民間の炭素クレジット市場が拡大していることについて、みずほリサーチ&テクノロジーズの内藤秀治コンサルタントは「炭素を減らすための新たな技術開発などにも役立っている。今後排出量の実質ゼロを目標とする多くの企業が活用し、需要がさらに増えてくると現状のクレジットの供給量では足りなくなる」と分析しています。

そのうえで「日本企業も目標達成のために単にクレジットを買うだけでなくクレジットを創出する側にもなることが望ましい。海外がまず先行しているが二酸化炭素の回収などは関連する技術を持つ日本企業も多いので技術を普及させていくチャンスがある」と話していました。