【ここに注目】パラ陸上

パラリンピックの陸上は、1960年の第1回、ローマ大会から実施されている伝統ある競技です。さまざまな障害のある選手が道具を駆使したり工夫を凝らしたりして「走る」「跳ぶ」「投げる」の限界に挑戦します。

道具やパートナーと一体で

パラリンピックの陸上は公平に競い合えるよう障害の種類や程度ごとにクラスに分かれているため、種目が多く、東京パラリンピックでは100メートルだけで29人の金メダリストが生まれることになります。陸上はすべての競技の中で最も多い、167種目が実施される予定です。
足のない選手に欠かせないのが、カーボンファイバー製の板を使った競技用の義足です。地面を蹴るときの反発力を生かして走ったり、跳躍したりしますが、義足を十分にたわませて大きな反発力を得るためには、選手には義足を体の一部として使いこなせるだけの筋力や技術が求められます。
車いすの選手は「レーサー」と呼ばれる3輪の競技用車いすに乗って走ります。ギアなどはなく選手は腕力など上半身の力だけでスピードを生み出すため、選手の力が車いすに最も効率よく伝わるよう座席の高さを調節するなど、ミリ単位の調整が欠かせません。

視覚障害の選手は「絆」と呼ばれるガイドロープで結ばれた伴走者や、走り幅跳びで踏み切りの位置やタイミングを声や手拍子で伝えるコーラーと呼ばれる先導役と二人三脚で競技します。

知的障害の選手にとっては、障害の特性を理解してくれる指導者の存在が欠かせません。道具やパートナーと極限まで同化してコンマ1秒のタイム、1センチの距離を削り出す、選手たちの工夫や努力がパラリンピックの陸上の最大の見どころです。

日本代表の顔ぶれ

パラ陸上の日本代表は45人です。
【男子】
赤井大樹/生馬知季/石田駆/伊藤智也/岩田悠希/上与那原寛和/大島健吾/大矢勇気/唐澤剣也/久保恒造/熊谷豊/小久保寛太/小須田潤太/佐藤友祈/白砂匠庸/鈴木徹/鈴木朋樹/十川裕次/永田務/樋口政幸/堀越信司/松本武尊/山崎晃裕/山本篤/和田伸也
【女子】
喜納翼/佐々木真菜/澤田優蘭/高桑早生/高田千明/高松佑圭/竹村明結美/辻沙絵/土田和歌子/兎澤朋美/外山愛美/中西麻耶/西島美保子/藤井由美子/古屋杏樹/前川楓/蒔田沙弥香/道下美里/村岡桃佳/山本萌恵子

男女の第一人者が登場 走り幅跳び義足のクラス

パラ陸上の第一人者として長年、日本のパラスポーツ界を引っ張ってきた山本篤選手が挑むのが、男子走り幅跳び義足のクラスです。
前回大会、銀メダルの山本選手は東京パラリンピックをパラスポーツの普及につなげるためにも、自身初の金メダル獲得に近づく7メートル台の跳躍を目指しています。
女子の走り幅跳びは、おととしの世界選手権で初優勝した中西麻耶選手が世界女王として大会に臨みます。目標はパラリンピック新記録となる6メートル台の跳躍です。
2人の共通点は、期待されるほどより大きな力を発揮する勝負強さです。大一番での2人の跳躍から目が離せません。

オリンピックへの挑戦状 ブレード・ジャンパー

走り幅跳びには世界のスーパースターも出場します。
男子走り幅跳び義足のクラスで「ブレード・ジャンパー」の異名をとる、ドイツのマルクス・レーム選手です。
ことし6月にマークした8メートル62センチの世界新記録は、リオデジャネイロオリンピックの金メダリストの記録を24センチも上回っています。
3連覇のかかるパラリンピックだけでなく、東京オリンピックへの出場も目指し、オリンピックとパラリンピックの融合というテーマを世界に投げかけてきたレーム選手。東京パラリンピックでの「オリンピック超え」なるか、世界が固唾をのんで見守っています。

表彰台独占なるか 車いすのクラス

東京パラリンピックの日本代表で「金メダルに最も近い男」との呼び声が高いのが、車いすのクラスの佐藤友祈選手です。
おととしの世界選手権は、リオデジャネイロパラリンピックで敗れたアメリカのライバル、レイモンド・マーティン選手に完勝し、男子400メートルで3連覇、1500メートルで2連覇。この2種目の世界記録も保持し続けています。2種目での金メダル獲得を公言するパラ陸上のエースは、いまのところ向かうところ敵なしです。
その佐藤選手に迫るスピードの持ち主が、北京パラリンピックで2つの金メダルを獲得した「車いすの鉄人」こと、伊藤智也選手です。
免疫の難病で、コロナの感染を避けるため在宅トレーニングを徹底してきましたが、ことし5月、1年半ぶりの復帰レースで400メートルで佐藤選手に肉薄し、健在ぶりを証明しました。おととしの世界選手権は、1500メートルで佐藤選手、上与那原寛和選手、伊藤選手の3人で表彰台を独占していて、東京パラリンピックでその再現の期待が高まります。

知的障害のクラス メダル期待の若手が続々

男子1500メートルで今シーズン1位の赤井大樹選手をはじめ、日本選手が世界ランキング上位にひしめくのが知的障害のクラスです。

22歳の赤井選手や女子1500メートルで今シーズン、世界ランキング2位相当の記録を出している26歳の古屋杏樹選手など、初出場の若手選手が実力を伸ばしています。
決められた目標に向かって日々の練習をこなすことが心の安定につながる知的障害の選手にとって、東京パラリンピックの1年延期や、去年相次いだ大会の中止は、とりわけ大きな試練でした。
パラリンピックでのメダル獲得という目標を失わず、努力することをやめなかった選手たちが、知的障害のクラスの陸上選手として日本初となるメダルを手にできるか注目です。

総合力が問われる新種目「ユニバーサルリレー」

東京パラリンピックの新種目として注目されるのが、さまざまな障害のある選手による「ユニバーサルリレー」です。
1走・視覚障害、2走・腕や足の障害、3走・脳性まひなど、4走・車いすの選手が100メートルずつ走り、バトンではなく「タッチ」でリレーします。
必ず男女2人ずつで編成するというルールも加わり、まさに各国・地域の総合力が試される種目になっています。
前回も別のリレー種目で銅メダルを獲得した日本にとって、リレーはオリンピック同様、パラリンピックでもお家芸。磨き上げた「バトンワーク」ならぬ「タッチワーク」で、個々の走力で上回る強豪を制することができるか、期待されます。
義足のクラスの21歳、大島健吾選手や脳性まひなどのクラスの19歳、松本武尊選手など、メンバーには次世代を担う若手も多く、個人で出場が見込まれる100メートルとともに注目です。

東京を走るパラのマラソン

東京パラリンピックの最終日を飾るのが、マラソンです。猛暑対策としてコースが札幌に変更されたオリンピックとは異なり、選手たちは東京都心をめぐるコースを走り抜け、国立競技場にフィニッシュします。
3つのクラスで争われ、ガイドロープで結ばれた伴走者のガイドで走る視覚障害のクラスでは、前回大会以降、世界記録を3回更新している女子の道下美里選手が他を寄せつけない圧倒的な速さを誇り、金メダルの最有力候補です。
さらに去年、パラ陸上の世界に飛び込んだ腕に障害のあるクラスの永田務選手は世界ランキング2位です。
車いすのクラスには、世界選手権3位の鈴木朋樹選手が世界トップクラスの実力を備え、3つのクラスすべてでの日本のメダル獲得も期待されています。

金0個→20個へ 真価問われる日本パラ陸上

1964年の東京大会でパラリンピックに初参加して以降、日本が陸上で積み上げてきた金メダルは、すべての競技で最多の58個。
夏の大会では初めて日本が金メダルなしに終わった前回、リオデジャネイロ大会から5年、日本選手団が掲げる金メダル20個という目標が達成できるのか。そして、パラスポーツの認知度の向上と普及拡大の道筋をつけることができるのか、パラ陸上の真価が問われるときです。