被災地に積み上がる災害廃棄物 都市の復旧遅れ 深刻化のおそれ

水害の復旧からの妨げになる、水につかった家財道具などの災害廃棄物。
荒川の下流で大規模な氾濫が起きた場合、どこでどのくらい廃棄物が出されるのか、詳細なシミュレーションがまとまりました。
最悪の場合、都の廃棄物全体の処理能力を大幅に上回る量が、およそ1か月にわたって出続けるおそれがあり、研究グループは「街のいたるところに廃棄物が積み上がる事態が長期に続く可能性がある」として、対策を急ぐ必要性を指摘しています。

廃棄物工学が専門で、岡山大学大学院の藤原健史教授の研究グループは、3年前の西日本豪雨で大きな浸水被害が出た岡山県倉敷市真備町の住民にアンケートを行い、どんな廃棄物をいつ、どのくらい出したかを詳しく調べました。

その結果をもとに、東京の荒川下流で氾濫が起きた場合、災害廃棄物がどのように出されるか詳しいシミュレーションを行いました。

最悪の影響を調べるため、浸水が想定される範囲すべてが水につかり、浸水域で同時に住宅の片づけが始まるとした場合、廃棄物の量は3日目でおよそ2万5000トンに達しました。

これは東京都が1日で処理が可能な災害廃棄物の量およそ2400トンの10倍以上で、一般廃棄物の処理量およそ1万7000トンも大幅に上回る量にあたります。
最も多くなるのは11日目のおよそ68万トンで、10万トン前後の廃棄物がおよそ1か月にわたって出続けるという結果になりました。

災害廃棄物の処理を円滑に進めるため、国は市区町村に対し、一時的な保管場所の確保を求めていますが、都内では候補地の選定が進んでいないところも多く、研究グループは、このままでは街のいたるところに廃棄物が積み上がって、道路に車が入ることもできない状態が数か月続き、復旧に深刻な影響を与えるおそれがあるとしています。

藤原教授は「これだけ多くの災害廃棄物が出されると、経済にも大きな影響が出かねない。一時的な保管場所の候補地を各地にできるだけ多く確保しておくなど、対策を急ぐ必要がある」と指摘しています。

災害廃棄物の一時保管場所 東京23区の半数超が未選定

災害廃棄物の一時的な保管場所について、国は7年前から全国の市区町村に対し、候補地をあらかじめ決めておくよう求めていますが、去年3月末時点で「仮置き場の確保や候補地の選定を検討している」と答えたのは65%にとどまっています。

特に大都市部では確保が進まず、NHKが東京23区を対象にアンケート調査をしたところ、半数以上の12の区がまだ確保できていないと答え、確保できているとした区もスペースが足らないなど課題が山積しています。

国は7年前から、自治体に対して災害廃棄物の一時的な保管場所を決めるよう求めていますが、NHKは今月、東京23区にアンケートを行い、現在の確保状況を尋ねました。

その結果「一次仮置き場」や「地区集積所」といった一時的な保管場所が決まっておらず「選定中」または「見つかっていない」などと回答したのは、12の区に上りました。

まだ選定ができていない理由については「空いている土地が見つからない」などが多く挙げられました。

また、一時的な保管場所が選定できていると回答した11の区では、地域の公園を候補地に選んでいて、その数は合わせておよそ1100か所に上ります。

これらの区に対し、現状の保管場所で想定される災害廃棄物の量に対応できるか尋ねたところ、「あまり対応できない」「ほとんど対応できない」と答えたのが7つの区に上りました。

公園を活用する際の課題としては、「避難場所や救助の拠点となる可能性があり、実際に活用できるかはわからない」とか、遊具や植林などがあり、実際に保管できるスペースが限られる、搬入や搬出路が狭いところがあるなどという点が寄せられました。

このほか、必要な候補地を確保するため、国や都などに用地の提供を要望している区や駐車場など民有地を貸借することを検討している区もありました。
廃棄物の問題に詳しい国立環境研究所の多島良主任研究員は「空き地が少なく人口が密集する都市部ならではの課題で、区によって準備状況に差が生じれば、廃棄物が区をまたいで出されたり、都全体としての処理に支障をきたしたりするおそれもある」と指摘しています。

そのうえで「公有地がなければ、民有地の活用も検討すべきで、どの程度の人員や車両が必要になるかをはじめ住民にどう周知するかなどの検討も重要だ」と話しています。

1週間で公園が廃棄物でいっぱいに 岡山 倉敷市真備町では

「とにかくこのゴミをなんとか出さなくちゃ」。岡山県倉敷市真備町に暮らす鈴木知子さん(72)。

3年前の7月に起きた西日本豪雨で、自宅が床上浸水する被害にあった翌日、和室にあり、水でぬれて散らかった畳やテレビ、たんすを見てこう思いました。

鈴木さんは自宅の前にある公園を、近所の人たちと一緒に地域の廃棄物“置き場”として使うことに決め、市に伝えたうえで家具などを運び出しました。

しかし、いつしか見知らぬ人も捨てていくようになったといいます。

「軽トラックに大量の廃棄物を積んだ人たちが突然やってきて勝手に捨てていくようになりました。公園は1週間足らずであふれるようになり、外にはみ出して車庫の車が出せなくなったり、悪臭やハエも発生するようになったりしました。町は他にもそんな場所だらけで、渋滞もすごかった」(鈴木さん)。

真備町内では、道路や空き地、公園など町のいたるところに廃棄物の山ができ、国道は最長2キロにわたって車道の一部がふさがれました。

激しい渋滞が発生し、緊急車両の通行に遅れが生じたケースもあります。

こうした廃棄物置き場は、行政が公式に設置する「仮置き場」に対し「勝手仮置き場」とも呼ばれています。
市によりますと「勝手仮置き場」は真備町内の少なくとも200か所で確認されました。

自然発生的にできるため、市は毎日、状況の把握に追われたほか、生ごみと混在するなどして、通常よりも収集や処理に時間がかかったということです。

一方、市の担当課には「早く撤去してほしい」などの要望やクレームが1週間で1000件以上寄せられたため、災害後の膨大な業務に加え、こうした対応にあたる職員の確保も必要になり、復旧業務の停滞にもつながったと言います。

結局、町にあふれた勝手仮置き場は49日かかって撤去、全体の廃棄物の処理にはおよそ2年かかりました。

市はこの災害を受けて、仮置き場の候補地の数を10倍以上増やしたほか、広報体制の強化などの対策もとりました。

倉敷市一般廃棄物対策課の大瀧慎也課長は「早く元どおりの生活を送りたい人たちの気持ちはよくわかるが、自宅の片づけが進んでも、地域の中に廃棄物が残って処理が滞れば、結果的に復旧は遅れるので、難しい課題だ。想像以上に廃棄物が出るスピードが早かったので、対応が後手に回ってしまった部分はあるが、今後は最悪な事態を踏まえて行動できるように努めたい」と話していました。

広域災害では膨大な災害廃棄物が

近年、毎年のように起きている水害では多くの災害廃棄物が発生しています。

おととし(令和元年)の台風19号では154万トン、去年(令和2年)の7月豪雨では54万トンの災害廃棄物が発生し、特に自治体が設置した「仮置き場」以外の路上などに置かれた廃棄物は撤去するだけで数か月かかっています。

また、想定されている広域災害では、膨大な災害廃棄物の量が出るおそれがあります。

環境省によりますと、南海トラフの巨大地震で2億4700万トン、首都直下地震では1億1000万トンの災害廃棄物が出ると試算されています。

東日本大震災で出た災害廃棄物の量およそ3100万トンに比べると大幅に多くなり、処理は広域で行う必要があります。

環境省は「災害廃棄物の対策は事前の準備が極めて重要で、仮置き場の選定を含めて各自治体の計画づくりを引き続き、環境省としても支援していきたい」としています。