イングランド 規制撤廃も 感染急拡大で不安や懸念 広がる

イギリスのイングランドでは19日、新型コロナウイルスの感染対策として続けられてきた規制が、ほぼすべて撤廃されました。
現地では「自由の日」とも表現されていますが、感染が再び急拡大する中で不安や懸念の声も広がっています。

ロンドンのあるイングランドでは19日、新型コロナウイルスの感染対策として続けられてきた公共交通機関やスーパーなどでのマスクの着用義務や、人との距離の確保といった規制がほぼすべて撤廃されました。

1年4か月ぶりに営業を再開したナイトクラブでは、日付が変わる前から若者たちが長い列を作り、カウントダウンとともに、音楽やダンスなど久しぶりの自由な雰囲気を楽しんでいました。

一方、イギリスでは、インドで確認された変異ウイルスのデルタ株によって、感染者は急速に増えていて、17日には1日の感染者が5万4000人を超えました。

こうした状況で、一部の専門家からは規制の撤廃はリスクが高いなどと批判の声があがっています。

市民の間でも不安の声が広がっていて、ロンドンでは、市が運営する地下鉄などでマスクの着用義務を継続する独自の対策がとられているほか、一部の店舗でも店内での着用を求めています。

ジョンソン首相は、ワクチンによって重症化する感染者や死者は大きく減少していると強調しながらも、市民に対して警戒を怠らないよう呼びかけています。

ジョンソン首相は感染が確認されたジャビド保健相と濃厚接触したとみられ、今月26日まで自主隔離を続けることにしています。

飲食店でも懸念強まる

新型コロナウイルスの感染が再び拡大する中で、イギリスのイングランドで規制が撤廃されることについて、飲食店でも懸念が強まっています。

このうち、ロンドンにあるレストランでは、規制撤廃後も店内の利用客に飲食時以外はマスクの着用を求めるほか、店内を動き回らずにすむよう、携帯電話でQRコードを読み取って注文してもらうなど、これまでの対策を、ほぼそのまま続けることにしています。

オーナーのエリー・フォスターさんは「まだ規制を撤廃するには早すぎると感じている。この周辺でも特に若い世代で感染者が急速に増えている。マスクの着用や、テーブル数の制限を続けるのはみんなにとってそれが安全だからだ。大勢の人とにぎやかに交わりたいという客を失うかもしれないが、危険なことはしたくない」と話していました。

また、店のスタッフは10代や20代が多く、ワクチンの接種を2回済ませていない人もいることから、スタッフの安全についても懸念しています。

経済界では、今後、感染がさらに拡大すれば、労働者が感染者や濃厚接触者となり、隔離が必要になることで働くことができないケースが増えるのではないかという懸念も強まっています。

フォスターさんの店では、スタッフが足りない状況が続いているということで「もし誰か1人でもスタッフが病気になったら、代わりがいないので店を開けられない状況になる。スタッフを隔離しなければならないような事態にならないよう祈るしかない」と話していました。

重症リスク高い人からは怒りの声

イングランドでは、免疫不全や重度の呼吸器系の疾患がある人など重症化するリスクが高いとされる人たちの数は、370万人にのぼるとみられています。

南東部エセックスに住むクレア・ラウリースさんは、およそ12年前に肺の移植手術を受け、その後、免疫抑制剤による治療を続けています。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、去年2月からは、病院に行く以外は家の中に閉じこもり、人との接触を避けて在宅での仕事を続けてきました。

ラウリースさんは、今回の規制の撤廃について「みんなが自由に外出し、人と会いたいという気持ちはわかる。しかし、マスク着用の義務がなくなれば私のような人にとっては、より自由ではなくなり、監禁されるようなものだ」と話し、政府の対応を強く批判しました。

ラウリースさんの夫も基本的に家に閉じこもり、在宅勤務を続けています。

ラウリースさんは、今後も外出はせず、天気のよい日に自宅の庭で過ごしたりオンラインで友人と話したりするなど、これまでどおりの生活を続けていくことになると考えています。

ラウリースさんは「店内や交通機関でマスクを着用するよう明確な指示があれば、重症化するリスクが高い人たちも少しは自由を味わうことができる。リスクが高いのは、あまり外出もしないお年寄りだけだと思われているかもしれないが、私たちは活動的で、いろいろなことをしている。私たちは無視されて、置き去りにされている」と怒りをあらわにしていました。

労働組合は強い懸念示す

働く人たちが加入する労働組合は強い懸念を示しています。

その1つ「GMB」は、イギリス国内の公的機関やさまざまな業種の民間企業で働く組合員62万人を抱えています。

ゲイリー・スミス書記長は、NHKの取材に対し「われわれは経済を活性化させたいと思っている。多くの人々が職を失ったため、経済を再び動かすことは重要だ」としていて、経済活動の再開そのものには賛成の立場を示しました。

一方で「懸念しているのは、政府が労働者の安全を確保するための適切な規制や措置を講じていないことだ。マスク着用を個人の責任に頼るとする政府の方針は、労働者の健康と福祉、そして社会を守るために政府が負うべき責任を完全に放棄している」と述べて、このままでは働く人の安全が脅かされると訴えました。

そして「清掃員や介護職員、それに公共交通機関などで働く人々はこのパンデミックの中でも働き続けてきた。適切な安全対策が講じられなかったために、何万人もの人々が亡くなったことを忘れてはいけない」と警告し、政府に対して、安全を確保するための措置を引き続き求めていくとしています。

専門家は政府の対応を批判

規制の撤廃をめぐって、イギリスをはじめ、アメリカやオーストラリア、ドイツなどの専門家120人余りは、今月イギリスの医学雑誌「ランセット」に寄稿し、政府の対応を批判したうえで、ワクチンの接種がさらに進むまで規制の撤廃を延期するよう求めました。

専門家のひとり、イギリスのリーズ大学のスティーブン・グリフィン准教授はこの中で「感染拡大を放置しておくのは危険な誤りだ。イギリスのワクチン接種は、規制の撤廃を安全に実施するには十分ではない。感染拡大に伴う影響を軽視してはいけない」として政府の対応を批判しています。