電気自動車の充電スタンド なんで減ってるの?

電気自動車の充電スタンド なんで減ってるの?
脱炭素社会を目指す機運が高まる中、EV=電気自動車が注目されていますが、EVに乗る時って、どこで充電ができるのか気になりますよね。充電スタンドの数はここ数年、増えていたのですが、実は今、その数が頭打ちになっているんです。
(経済部記者 樽野章)

右肩上がりで増えていたのに...

ことし、地図制作会社が毎年行っている調査で、意外な結果がまとまりました。

調査が始まった2010年度以降、右肩上がりで増えていた、EV用の充電スタンドの数が昨年度初めて減少したのです。
商業施設や宿泊施設など、住宅以外の公共の場所に設置され、誰もが使える充電スタンドの数は昨年度2万9233基。前の年度と比べて1087基減っていました。

要因は“老朽化”

政府は去年、2035年までにすべての新車をEVやハイブリッド車、燃料電池車などの電動車にするという目標を掲げました。国をあげてこれから電動車を増やそうというまさにそのタイミングで、充電スタンドが減少に転じたのはなぜなのか。

その要因の1つは“老朽化”です。

充電スタンドの耐用年数は、8年前後が目安とされています。国内の多くの充電スタンドは、2010年代前半に国の補助金制度を活用して設置されましたが、その時に急増した充電スタンドが続々と耐用年数を迎えているのです。

撤去される充電スタンド

古くなったのなら、新しいものに更新すればいいのでは?ついそう考えてしまいますが、簡単ではないようです。

東京・葛飾区では区役所の駐車場などに3つの充電スタンドを設置していましたが、ことしに入って2つを撤去しました。

1基当たりの設置費用は500万円以上、年間の維持費もおよそ100万円ほどかかっていたといいます。
葛飾区役所 担当者の話
「最近は故障も多くなっていました。これからは民間の事業者が充電スタンドを増やせるような施策を検討していきます」

EVは全体の1%...

日本自動車販売協会連合会の統計では、昨年度、国内で販売された新車のうち、充電を必要とするEVやPHEV=プラグインハイブリッド車の数は3万台ほど。乗用車全体のおよそ1%にとどまっています。

東京では、ほかにも江東区が設置した充電スタンドをことし撤去することにしました。

耐用年数を迎えるタイミングで撤去に踏み切る自治体や民間事業者が相次ぐのは、充電スタンドの数に対して、EVなどの普及が追いついていないという事情がありました。

充電スタンドの整備などを手がける民間の事業者「e-Mobility Power」は、EV・PHEVの台数が今の4倍を超えないと事業として軌道にのらないのではないかとみています。

違うメーカーだと気が引ける...

充電スタンドの数だけでなく、設置された場所にも課題がありそうです。ユーザー目線で見ると、必ずしも使いやすい所に置かれていないという指摘があります。

さきほどの「e-Mobility Power」は、公共のスペースにある急速充電器、国内およそ7800台のうち、6900台をサービス対象にしていますが、このうちおよそ4割は車の販売店=カーディーラーに置かれているそうです。
車の販売店は少しでもユーザーの利便性を高めようと設置していて、他社の車であっても自由に使ってほしいと呼びかけています。

でも、A社の車を利用しているのにB社の販売店に行くのは、ちょっと気が引ける...というのが、利用者の本音かもしれません。

ガソリンスタンドには置けないの?

車がよく立ち寄る場所=ガソリンスタンドに置くのはどうでしょう。

これも安全面の制限があるようです。

日本には、火災を防ぐためガソリンの給油口から一定の範囲には引火しやすい機器などを置いてはいけないというルールがあります。とりわけ都市部の敷地が狭いガソリンスタンドとなると、給油口と充電スタンドの間に一定の距離を取るのが難しい面もあります。

仮に設置できたとしても、1台1台の充電に時間がかかるため採算をとるのは難しいといった見方もあるようです。

一方、世界を見渡すと、電動車の普及に力を入れているドイツは去年、ガソリンスタンドに充電スタンドの設置を進める方針を打ち出すなど、充電インフラを整えるための対策を次々と打ち出しています。

道路で手軽に充電

こうしたなか新しい取り組みも始まっています。

横浜市で2021年6月に始まった実証実験の舞台は、なんと“公道上”。2022年3月までの期間限定ですが、急速充電スタンド1基を横浜市内の県道脇に設置しました。

充電スタンドの利用状況によって車の流れが滞らないかなどを検証し、実用化の道筋を探っています。
e-Mobility Power 四ツ柳尚子社長
「都市部には店舗にもなかなか駐車場がない上、マンションの比率が高く、充電スタンドが置きにくいという事情があります。欧米諸国のように公道上に充電スタンドが日本でも置けないのか、実証実験のなかで課題を洗い出していきたいです」
横浜市によると、開始から1か月で230台が利用していて、これは市内にある一般的な充電スタンドの利用数を上回るといいます。

新常識 走りながら充電!?

「車を止めてから充電する」というこれまでの常識をひっくり返すような研究も始まりました。

東京大学のチームは、道路上に磁気を発生させ、磁気に反応するコイルを積んだ車がそこを走ると、電気が発生するという仕組みを研究しています。つまり、EVを走らせながら充電するのです。実験では、磁気が発生している道路を30メートル進めば、350メートル走行できる分の電気を充電できたということです。
この「移動しながらの充電」。フィンランドやスペインなど、海外ではすでに公道上での実験が始まっています。

研究チームは、スマートシティーのある千葉県柏市の道路で2023年から実験を行い、実用化を目指すといいます。
東京大学大学院新領域創成科学研究科 藤本博志教授
「交差点などに一定の間隔で設置できれば、バッテリーの残量を一切、気にしなくていいEVが実現できると思います。実証実験を成功させ、技術的に可能だということを多くの人に知ってもらいたいです」

「2030年までに15万基」

政府は、ことし6月に「2030年までに充電スタンドの数を、今の5倍にあたる15万基に増やす」という目標を掲げました。

インフラ網の拡充で、EVの普及に弾みをつけようというねらいです。

ただ、設置する場所など“使い勝手”がよくなければ、ユーザー(=EVなど)が増えないだけでなく、インフラの維持自体が大きな負担となってしまいます。

ルールの見直しや技術のブレークスルーといった“合わせ技”がますます必要になってくると感じました。
経済部 記者
樽野 章
平成24年入局
福島放送局を経て
令和2年から現所属