男性のレイプ被害 HIVに感染も「被害を認識できなかった」

男性のレイプ被害 HIVに感染も「被害を認識できなかった」
複数の男性から望まない性行為を強いられ、HIVに感染したという男性。私たちが“性暴力”について意見募集しているサイトに体験談を寄せてくれました。
男性は長い間、自分が被害者だと認識することができなかったといいます。その背景には、多くの男性被害者が直面する深刻な事情がありました。
(政経・国際番組部ディレクター 神津善之)

複数の男からレイプされHIVに感染

ダイスケさん(40代・仮名)です。関東地方で看護師として働き、妻と2人の子どもと暮らしています。

ダイスケさんが被害に遭ったのは3年前。知り合いの男性に誘われて行った、男性専用のサウナでの出来事でした。
汗を流したあと、チューハイを飲むように勧められました。そこには睡眠薬が入っていたとみられ、急激な睡魔に襲われました。

意識が混濁するなか、男性に支えられながら仮眠室へ向かい横になったと言います。

そして眠りに落ち、気が付くと、体に力が入らないまま、複数の男からレイプされていたのです。
被害後、性感染症の不安にかられ検査を受けたところ、HIVに感染していることが分かりました。いまも血液検査や薬の処方が欠かせず、3か月に1回、通院しています。
(※現在はさまざまな治療薬があり、服薬することでエイズ発症を予防することが可能です)

ダイスケさんは、検査日が近づくたびに、被害のことを思い出して苦しくなると言います。
ダイスケさん(仮名)
「なんで自分がこういうことになってしまったんだろうという思いとか、悔しさとか、自分の何が悪かったんだろうという気持ちとか、そういうのが一つひとつ積み重なっていくというか。やっぱりそういうことを考えてしまうので、一つひとつ苦しいっていう感じがあります。以前はフラッシュバックが頻回にあったり、そのフラッシュバックによって急に目が覚めて中途覚醒みたいな感じになったり、十分な睡眠や休息がとれないとか、男性の大きな声を聞いたりするとドキっとしてその瞬間手が震えはじめたりとか、そういう体の変化もありました」

“体の反応”に混乱「被害を認識できない」

被害によって体にも心にも大きなダメージを受けたダイスケさん。しかし、被害について当初は「レイプだと認識できなかった」と話してくれました。

もともと男性がレイプの被害に遭うということを考えたことがなかったことに加えて、被害時に自らの体が反応したことをどう理解すればいいか分からなかったからだと言います。
ダイスケさん(仮名)
「自分の中では非常に苦痛だったし、自尊心を傷つけられることだったので、本当につらい状況だったという認識なんですけれど、体の反応としては、快楽が得られたあとのような反応、つまり、勃起して射精している状況だったので、まったく自分の中でも理解できないというか、自分の気持ちが本当に性行為をやめてほしかったのか、それとも受け入れていたのか、その辺が本当に混乱して。体で感じた感覚と心で感じた痛みっていうのはすごいかい離しているので、非常に混乱したっていう感じですね」
「自分を許せなかった」と繰り返し語ったダイスケさん。被害に遭ったという認識を持てず、自らを責め続けてきました。

そして、この経験を誰にも話すことができず、一人で抱え続けてきたのです。

被害を認識したきっかけ“自分だけじゃない”

ダイスケさんが、自らの経験を性被害だと明確に認識するようになったのは、私たちが2年前からネットで連載している「“性暴力”を考える」の記事がきっかけでした。

レイプの被害に遭った男性の記事を目にしたのです。さらに、専門家のインタビューに心を救われたといいます。
心理カウンセラーの山口修喜さんです。カナダの専門施設で経験を積み、10年前に男性被害者専門のカウンセリングオフィスを開設。これまで700人以上の相談に応じてきました。
山口さん
「性被害に遭ったとき、自分の『体の反応』に混乱し、『強い恥』を感じてしまう男性が少なくありません。『体の反応』とは、性的な興奮や快感が生じること。自分の意思に反した行為をされたにもかかわらず、体が反応してしまったことを恥じている男性たちには、必ず『それは自然なこと』と話しています。熱いものを触ったときにやけどをするのと同じように、あなたの意思とはまったく関係がない。あくまでも自然な体の反応。だから、あなたがおかしいわけではないんです。もし、あなたの体が反応したとしても、あなたが望まない性的な行為であったならば、それは性暴力です」
ダイスケさん(仮名)
「自分が受けた行為がどういうものだったか、ほかの方のエピソードを通じて理解することができて、自分は男性による性被害を受けたんだと、男性も性被害を受けることがあるんだということが、いちばん理解につながったというか、自分を受け止められるきっかけになったと思います。そのなかで、自分が自分に対して嫌悪感を持っていた射精する行為っていうのが、生理的な反射によって起こったことで、自分の思いとは違うということが理解できて、自分をやっと許せるように思いが変わってきたという感じです」
男性の性被害についての知識を得たことで、徐々に自らの被害について受け止められるようになったというダイスケさん。

今回、その経験を語ることで、自分と同じように被害に遭った人の役に立つことができればと取材に応じてくれました。

“あきらめなければ必ず回復できる”

6月に私たちが性被害に遭った男性にWEB上でアンケートを行ったところ、260人から回答をいただきました。

そして、「約7割が誰にも相談していない」ことが分かりました。

公的な相談窓口としては全都道府県52か所に、「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」が設置されています。

カウンセラーの山口さんは、専門の窓口に相談することを勧めています。

そして、苦しみがなかなか癒えないと感じている男性たちに強く伝えたいことがあるといいます。
山口さん
「『あきらめなければ回復できる』ということです。相談に訪れた人たちの中には、カウンセリングを受けて不安や恐怖が軽減されていった人、フラッシュバックが徐々に減り、最終的には症状がなくなった人もいます。性暴力は人の尊厳を傷つけます。被害に遭った人が負う傷は非常に深くて大きいです。でも、そこから回復することができることも、ぜひ知ってほしいと思います」
政経・国際番組部ディレクター
神津善之
平成23年入局
「性暴力を考える」プロジェクトで2年余り性暴力問題を取材