“10分前にある音が” 熱海土石流 直前にあった異変

“10分前にある音が” 熱海土石流 直前にあった異変
私たちの目に飛び込んできた衝撃的な映像。土石流の恐ろしさを、まざまざと見せつけました。7月3日、静岡県熱海市の伊豆山地区で発生した土石流。14日時点で11人が死亡、16人の行方が分かっていません。NHKは土石流を間近で目撃した人々から、生々しい証言を集めてきました。土石流に襲われたとき、どうすれば自らの命を、大切な人の命を守れるのか。数々の証言を専門家が分析しました。(週刊まるわかりニュース 井上二郎 吉田雄太郎)

恐怖の瞬間 目撃した人たちは…

土石流は、およそ2キロにわたって流れ海まで到達。住宅など、およそ130棟が被害を受けました。

大雨によって、水と混ざりあった大量の土砂や岩などが谷に沿って一気に流れ下る現象が土石流です。熱海市では当時、長い時間、雨が降り続いていて、土の中に水分が蓄積される「長雨蓄積型」とも言える降り方でした。土砂災害のリスクが、高まっていました。
映像で見ていた私たちにも衝撃を与えた、恐怖の瞬間。
NHKは、その瞬間を間近で目撃していた多くの人たちから証言を得てきました。
証言から見えてくる土石流の特徴について、土砂災害に詳しい東京農工大学の石川芳治名誉教授に分析してもらいました。石川さんの分析からはいくつかの重要なポイントが、浮かび上がってきました。

証言:土石流の“前兆”

最初に石川さんに見てもらったのは、土石流が起きる直前、人々が見たり聞いたりしたという現象についての証言です。
「土石流発生の10分ほど前、小さな雷のような音がしたんです。そして、斜面の上のほうで、木がザワザワと揺れた。すごく変だと思ったんです」
「赤い土、そして水が、道路に溢れて、すごい勢いで流れていました」
「ふだん、川を流れているはずの水の流れが止まっていました。何かにせき止められていたんだと思います」
「ゴーゴーと、ものすごい音が聞こえたから、ビックリして家を飛び出したんです。その時には何も起きていないように見えたんですが…。ザーッと土石流が襲ってきたのは、音が消えたあとでした」
こうした証言の中で石川さんが特に注目したのは、「音」に関するものでした。
石川名誉教授
「みなさんが聞いた音は、土砂が木にぶつかったり、家にぶつかったりした音でしょう。つまり、音を聞いた時には、何らかの現象がすでに発生しています。音を聞いたときには、すぐに逃げないと、間に合いません」

“音”が先に到達

一般的な「前兆現象」ということばは、土石流が発生する前の何らかのシグナルというイメージがありますが、石川さんは、すでに土石流が発生している可能性を示していると指摘します。

また「音が消えてから、土石流に襲われた」という証言について、石川さんはこう分析します。
石川名誉教授
「音のほうが、土石流そのものより速く来ます。発生した音を聞いてから、それが目の前に来るまでには多少の時間があるので、その過程の音だと考えられます」
そして直前に見られた赤い土や川の水位の変化などについても、すでに土石流が発生している可能性を示していると話していました。

証言:“何度も押し寄せた”

また多くの人たちが口を揃えて証言したのが、「土石流が何度も押し寄せた」という点です。
「5回か、6回来たんじゃないか」
「ドーンと音がして、土砂が流れてきて、地面にぶつかってはねる。それが3~4回あった」
「2波、3波、4波と来て…5波ぐらい来たかなあ」
「『なんで止まらないんだろう』『いつまで流れているんだろう』というくらい。1時間くらい、ずっと流れっぱなしでした」
石川名誉教授
「土石流が2回、3回と押し寄せる例は、珍しいことではありません。ここで大事なのは、『第1波』がもし小さかったときのその後の対応です。それを目撃したら、『次』が来る可能性が高いと考えてください。現場に近寄らず、逃げてください。次の土石流の予兆だと考えてもらうといいですね」

証言:恐ろしい威力とスピード

土石流に巻き込まれ、ぎりぎりのところで助かった女性は、こう振り返りました。
「自宅にいたら、ドンと音がして、『なんだろう』とドアを開けた瞬間、土砂が中に入ってきました。その土砂と一緒に、そのまま流されたんです」
その威力・スピードについて、多くの生々しい声がありました。
「めちゃくちゃ速かったですね。もしも、そのまま私がいる方向に土石流が流れてきたら、全く動くことはできなかったと思います」
「上から家が、『飛んで』きたんです。流れる方向と直角の方向に、必死に逃げました」
石川さんは、こう指摘します。
石川名誉教授
「土石流は土などが入っていて重たいので、ただの水より圧力が大きく、かなりの破壊力があります。速さは、一般的に毎秒約10メートルと言われています。これはちょうど、100メートル走の選手と同じくらいの速度です。走って逃げられるのではないかということには、期待をしないほうがいい。ですから基本的には、事前に避難しておくしかないということになります」
「『流れる方向と直角の方向に逃げた』という証言がありましたが、確かに横方向のほうが比較的速度が遅いので、直角方向に逃げれば、なんとかうまくいけば逃げられます。少なくとも、命が助かる確率は高くなります」
最後に、土石流などの自然災害から命を守るため、私たちは何をすべきか石川さんに聞きました。
石川名誉教授
「自分が住んでいるところを、よく調べてください。どんな災害が起きやすいところなのかを知ってください。そして、ふだんと違うことが起こった場合、それが災害に結びつく可能性があると、イメージできるようになることが重要です」

あなたと、あなたの大切な人の命を守る

石川さんは、土石流に対しては事前に逃げるしかない、そのためには災害の特性を知り、自分の暮らす地域を知ることが大切なのだと、繰り返し語っていました。

そのために、ぜひハザードマップを見て下さい。
いつも言われるけど、見るのが面倒だ、難しそうだ、自分は大丈夫だろう、そう思っている方はいませんか? 過去には「ハザードマップ」で危険性が指摘された場所で、洪水や土砂災害による被害がたびたび発生しています。

今回の熱海市の土石流災害でも、土砂災害の危険性が高い「土砂災害警戒区域」で被害が出ました。自治体などが公表している「ハザードマップ」は、あなたが持っているパソコンやスマートフォン、タブレット端末などを使って、簡単に確認することができます。

証言者たちの声は、未来の被災者をなくしてほしいという訴えでもあります。

「知って」事前に備えること、それこそが、あなたと、あなたの大切な人の命を守ることにつながるのです。
週刊まるわかりニュースキャスター 
井上二郎
平成10年入局
熱海土石流の緊急特設ニュースを担当
ニュース制作部記者
吉田雄太郎
平成23年入局
主に災害・事件などのニュース制作を担当