肉も!家も!値上がりのなぜ?

肉も!家も!値上がりのなぜ?
身近な食料品から住宅まで。
今、身の回りのさまざまな物が値上がりしています。

それもこれも“ある国”が関係しています。
いったいなぜ?

(ニュースウオッチ9 星 麻琴、経済部 長野幸代)

ハンバーグが!?

東京・新橋のオフィス街にあるレストラン。
食べ応え満点の手ごねハンバーグが人気を集めています。

しかし、この看板メニューをめぐって今、経営者が頭を抱える事態が起きているんです。

その理由が、このところの急激な輸入牛肉の値上がりです。
店の代表を務める本郷庄一さんが見せてくれたのが、仕入れ先から届いた「価格改定」の通知書。

アメリカ産牛肉などを使った「合いびきミンチ肉」の仕入れ価格が、1か月半で約2割も上昇することになったのです。

短期間での相次ぐ価格上昇に「利益がなくなってしまう」と話す本郷さんは、「アメリカや中国では、外食需要が高まって、牛肉がとられてしまっていることが原因」と聞かされ、世界的な事情なので仕方がないと肩を落としていました。
コロナ禍が外食産業に打撃を与える中、このレストランも売り上げが4割ほど減っています。

仕入れコストの増加は厳しい経営に追い打ちをかけることになりますが、本郷さんは「当分値上げはしない」と言います。

値上げによって、客足がさらに遠のくことを懸念しているためです。
少しでも利益を出そうと、肉の量や質は変えない代わりに、付け合わせをポテトから、より安いコーンに変えたり、仕入れ先を見直したりするなどして、1品当たり数円単位のコスト削減をコツコツと積み重ねています。
本郷庄一代表
「仕入れ価格がここまで大きく上昇することはこれまではありませんでした。お客様には同じ価格で提供したいのでギリギリまで頑張りたいと思っていますが、ただでさえコロナで少なくなっている利益がさらに少なくなるので、正直かなり厳しいです」
アメリカ産牛肉の国内での卸売価格は高値が続いています。

5月の卸売価格は1キロ当たり冷凍のバラ肉で1087円と、去年の同じ月に比べて67%高くなっています。(「農畜産業振興機構」調べ)

値上げ続々 理由は同じ!?

牛肉だけではありません。実は今、私たちの暮らしに身近なものの価格が次々と上がっています。

例えば7月から家庭用の小麦粉の価格は2%から4%、マヨネーズは最大で10%引き上げられました。食用油の大手3社は、来月ことし3回目の値上げを行う計画で、1キログラム当たり50円以上引き上げます。さらにコーヒー豆も9月から約2割値上がりする予定。
全国のレギュラーガソリンの平均価格も7月5日時点で1リットル当たり157.5円と、2年8か月ぶりの高値となっています。

相次ぐ値上げの背景にあるのは、世界経済をけん引するアメリカと中国の景気の動向です。米中でコロナ禍からの消費の回復がいち早く進み、急激に需要が高まったことで、食料品や原油などの資源価格が高騰しているのです。

“ウッドショック ”新築住宅にも

その影響は、国内の住宅の現場にも思わぬ形で現れています。住宅業界では今、輸入木材の価格高騰と品不足に見舞われ、1970年代の「石油ショック」ならぬ「ウッドショック」とも言われています。

その影響で東京都内のある現場では、住宅の建設工事が中断されていました。
基礎工事は6月中に完了したものの、柱などに使う木材が予定を過ぎても入ってこないのです。工事は7月中に再開予定ですが、完成の正確な見通しは立っていないと言います。

施主の男性は「こればかりは仕方ないことだと思いますが、最終的に費用はいくらになるのか、引っ越しはいつになるのか、見通しがたたないことが不安です」と話しました。

今、こうした工期の遅れは各地で出ています。

大手のメーカーは事前に仕入れ先と年間契約を結ぶなどして在庫を確保していますが、中小の工務店は受注契約ごとに必要な木材を仕入れるのが一般的で、価格高騰や品不足の影響を受けやすい状況となっているのです。

アメリカで好調な住宅市場

「ウッドショック」の背景にあるのもアメリカの住宅市場の回復です。

日本総合研究所の小澤智彦研究員は「アメリカのことしに入ってから5月までの住宅着工件数は、コロナ前の2019年の同じ時期と比べて約3割増加し、高水準となっている。空前の低金利が最大の要因で、リモートワークの浸透や郊外需要の高まりも背景にある」と分析します。
アメリカ・シカゴの取引所では、去年の夏ごろから木材の先物価格が上がり始め、今年5月には1年前と比べて5倍以上に高騰しました。

ここをピークに最近は下落傾向にはありますが、関係者は日本への影響は今後も続くとみています。
淡中克己社長
「アメリカの市場が異常ともいえるほど強く、数が少ないので欲しければいやおう無しに買わざるをえないというのが交渉の実態。高値で買った木材が日本に入ってくるのは秋ごろになり、その時は今の市況よりも高くなる。これに伴って国産材も不足している」

中小工務店に深刻な影響

国土交通省も実態を把握しようと、全国の中小工務店にヒアリング調査を行っています。
それによると、5月末時点の状況について、125社に調査し、回答したうちの92%が「木材の供給遅延が発生している」と答えました。また、25%の企業が「ここ1か月の間に新規の契約締結を見送った物件がある」、22%が「新たに資金繰りが厳しくなった」と答えていて、経営に深刻な影響を与えている実態が見えてきました。
取材した横浜市の工務店でも、木材の値上げを知らせる連絡が4月から毎週のように入るようになっています。

年間12棟の木造住宅を手がけるこの工務店では、木の資材をより多く使うことを特徴としていますが、その分、木材価格上昇の影響を受けやすく、建築コストも1棟当たり100万円から200万円ほど上がる可能性があるといいます。

しかし値上がり前に工事契約を結んだ場合、工事完了までに仕入れ価格が上昇した分は、工務店側が負担せざるをえません。
関尾英隆代表
「工務店にとっても死活問題です。大工や職人などの生活もかかっているので会社を存続させなければいけない。今が正念場だと思う」

今後の経済、暮らしは

専門家は、日本の景気回復はアメリカや中国に比べて遅れており、こうした値上がりが、家計への打撃となるだけでなく、企業の業績回復にも足かせになりかねないと指摘します。
斎藤太郎 経済調査部長
「一部の業種を除いて企業はコロナ禍からの回復局面にある。しかし、国内では需要が強くないので仕入れコストの上昇を小売り価格に転嫁するのは難しい。そうなれば、企業の負担が大きくなり、回復が止まるきっかけになりかねない」
去年、新型コロナウイルスの感染拡大で、世界経済は一斉に停滞しましたが、気がつけば、足元の景気の回復状況には大きな差がついています。原材料価格の上昇は日本の景気回復をさらに遅らせ、私たちの生活により大きな影響をもたらしかねません。

日本経済をどう立て直していくのか。

暮らしの現場から取材を続けたいと思います。
ニュースウオッチ9 リポーター
星 麻琴
2014年入局
岡山放送局、札幌放送局を経て2019年から現職
経済部 記者
長野 幸代
2011年入局
岐阜放送局、鹿児島放送局を経て現職