生活費借りることができる特例貸付 1年3か月で決定額1兆円超に

仕事を失った人などが、当面の生活費を借りることができる国の制度は、去年3月に新型コロナウイルスの影響を受けた人にも対象が広がってから1年3か月で、貸付の決定額が1兆円を超えたことが分かりました。

失業や収入の減少で生活に困っている人には、当面の生活費として、いずれも無利子で最大20万円を借りられる「緊急小口資金」や、1か月につき最大20万円の借り入れを原則3か月間、繰り返し受けられる「総合支援資金」という国の制度があり、去年3月以降、新型コロナウイルスの影響が認められる人も申請できる特例措置が続いています。

厚生労働省によりますと、2つの制度の貸付の決定件数は、去年3月25日から今月3日までの1年3か月余りの間に合わせて243万4682件、金額にして1兆472億円に上っているということです。

リーマンショック後の平成21年度からの2年間の2つの制度の貸付件数はおよそ10万6000件、金額にして490億円余りで、今回のほうが期間が短いにもかかわらず、すでに当時の20倍を超えています。

厚生労働省は、新型コロナウイルスの影響が長期化し、厳しい雇用情勢が続いているとして特例措置の申請期限を来月末まで延長することにしています。

特例貸付 利用終了した困窮者には給付制度も

厚生労働省は、生活に苦しむ人向けに特例貸付のほかに、給付金などの支援策も設けています。

特例貸付を利用し終わっても、まだ生活に困るケースが見込まれるとして、1世帯当たり最大30万円を給付する新たな制度を設け、今月から申請の受け付けを始めました。

申請した月から3か月間、
▽単身世帯は月6万円、
▽2人世帯は月8万円、
▽3人以上の世帯は月10万円が給付されます。

申請の期限は来月末までとする方針です。

支給を受けるためには、
▽収入が東京23区の単身世帯で月13万8000円以下という要件のほか、▽預貯金が100万円以下で、
▽再就職に向けた活動を行っていることなどが求められます。

このほか、失業などで家賃が払えなくなった人に、市町村ごとに定める額を上限に家賃を原則3か月、最長で9か月支給する「住居確保給付金」制度もあります。

いったん支給を受けたあとに生活に困窮した場合は3か月間、再び支給を受けることができ、再申請の受け付けはことし9月末までです。

これらの申請は、自治体や各地の社会福祉協議会などで受け付けています。

厚生労働省では「新型コロナの影響が長期化する中、貸付金や給付金など、さまざまな支援策があるので、生活に困るなど必要なかたは、事情にあわせて活用してほしい」としています。

利用者の中には返済に不安も

特例貸付制度の利用者の中には、返済への不安を感じている人もいます。

都内に住む40代の男性は、プロボクサーになることを夢見て20歳のときに地方から上京し、20年余りにわたって派遣社員やアルバイトなどの非正規雇用で働いてきました。

30社以上の派遣会社に登録していますが、新型コロナウイルスの影響で仕事が減り、ことし1月「緊急小口資金」制度を利用して20万円を借り、生活費に充ててきました。

しかし、新型コロナウイルスの影響が長期化する中、先月15日に働いたのを最後に、全く仕事の予定が入らなくなりました。

生活保護の申請も考えましたが、自治体の担当者から親族に問い合わせがあれば、困窮した現状を知られることになると思い、断念しました。

今月、男性は生活費を少しでも切り詰めようと家賃5万円から3万5000円の部屋に引っ越しました。

風呂はなく、台所の前でタライに水をため、体を洗っているといいます。

現在の預金残高は、およそ25万円。

経済的に追い込まれた男性は、先週、「総合支援資金」制度で15万円を3か月分借りる申請を行いました。

しかし、安定した収入を得るめどがたたない中、返済ができるのか不安を感じています。

男性は「不安でいっぱいです。仕事さえ見つかればなんとかなりますが、緊急事態宣言によって求人そのものが減っているので、なかなか見つからず、ボディーブローのように効いてきています」と話していました。

支援団体「給付金も含めた継続的な支援が必要」

特例貸付の利用者の支援などにもあたっている団体の代表は、借金の返済が負担となって本当に必要な人に届いていないケースもあるとして給付金も含めた継続的な支援が必要だと指摘しています。

ひとり親世帯の社会的な孤立を防ぐ取り組みを続けている一般社団法人「ひとり親支援協会」が、ことし1月にひとり親世帯の会員などおよそ2000人を対象に行ったアンケートでは、特例貸付を利用したと回答した人は全体のおよそ2割にとどまったということです。

これについて団体の今井智洋代表理事は「借金にハードルの高さを感じた結果だ。例えば月収が10万円ほどの人にとって、緊急小口資金や総合支援資金の返済は大変な負担で、なかなか借りることができないという現状がある」と話しています。

そのうえで、今後、求められる支援について「貸付でなく、要件のない給付への切り替えが必要だ。これから夏休みに入り、子どもがいる世帯では給食がなくなったり、光熱費がかさんだりすることで負担が増え状況がひっ迫する。国や自治体による継続的な経済的支援が欠かせない」と指摘しています。

一方、国が新たに最大30万円を支給する制度を設けたことについて今井代表理事は、「生活に困窮しているすべての人が対象にはならず、要件の一つに特例貸付の利用がある。『返せる見込みがない』と貸付を利用していない人には、届かない支援になってしまっている」と話しています。