目の病気の「遺伝子治療」治験進む 実用化されれば国内初に

遺伝子の異常で起こる重い目の病気を、正常な遺伝子を含んだ特殊なウイルスによって治療する「遺伝子治療」の治験が、東京都内の医療機関で進められていて、今後、実用化されれば、目の病気では国内で初めての遺伝子治療になると期待されています。

「遺伝性網膜ジストロフィー」の患者を対象に

この治験は製薬会社のノバルティスファーマが東京・目黒区の国立病院機構東京医療センターで行っています。

治験は、「RPE65」という遺伝子の異常が原因で光を感じるのに必要なたんぱく質が作られず、視力が低下したり、視野が欠けたりする「遺伝性網膜ジストロフィー」という病気の患者が対象で、正常なこの遺伝子を人体に無害なウイルスに組み込んで投与します。
これまでに4歳以上の患者4人への投与を終えたということです。

この治療法はすでにアメリカなど海外では承認されていて、会社では治験で安全性や効果が確認できれば、国に承認を申請するということです。

厚生労働省によりますと、承認されれば目の病気の遺伝子治療としては国内では初めてとなります。

治験を担当する東京医療センター視覚生理学研究室の藤波芳室長は「不治の病と言われてきた目の遺伝病の初めての治療法となりうる。実用化が進めば、ほかの遺伝子の異常による病気に対しても、治療法が相次いで開発されると見込まれる」と話しています。

遺伝子の異常による病気 これまで有効な治療法なく

「遺伝性網膜ジストロフィー」は、遺伝子の一部の異常によって目の網膜の機能が低下し、視野が欠けたり、視力が低下するなどする病気の総称です。

原因となる遺伝子によって症状はさまざまなで、主には、暗いところが徐々に見えなくなり、視力が低下する難病「網膜色素変性症」や、視野の中央が見えなくなる難病「黄斑ジストロフィー」などがあります。

東京医療センターによりますと、国内の患者の数はあわせておよそ5万人と推定されるということで、有効な治療法がないことから遺伝子治療や再生医療などの研究が進められているということです。

原因となる遺伝子はこれまでに300以上確認されていて、今回の治験ではこのうち「RPE65」という遺伝子の異常が対象となっています。

「遺伝子治療」欧米中心に広がり日本でも

遺伝子治療は、遺伝子の異常が原因で起こる病気の患者などに正常な遺伝子を補うなどして治療するものです。

遺伝子治療でよく使われるのは無害化したウイルスに遺伝子を組み込み、ウイルスごと投与して体内で必要なたんぱく質を作り出す方法ですが、ほかにもさまざまな方法が開発されています。

これまで治療法がなかった遺伝性の病気にも効果が期待できることから最近になって欧米を中心に相次いで承認されています。

国内でも、2年前に足の一部がえ死することがある「重症虚血肢」の治療薬「コラテジェン」が国内初の遺伝子治療として承認されたほか、去年、全身の筋力が低下する難病「脊髄性筋萎縮症」の治療薬「ゾルゲンスマ」が承認されるなどしています。

がんの治療にも応用されていて、日本では2年前には免疫細胞に免疫を活性化させる遺伝子を入れることでがんを治療する「CAR-T細胞療法」が承認されています。

このほか国内で承認されている新型コロナウイルスの3種類のワクチンは、いずれもウイルスの遺伝子の一部を投与し、体内で抗体の目印となる「スパイクたんぱく質」を作る仕組みとなっていて、遺伝子治療の技術が活用されています。

専門家「遺伝子治療の研究 日本は周回遅れの状態」

遺伝子治療に詳しい自治医科大学の小澤敬也名誉教授は、今回の治験について「遺伝子治療の技術が進み、今回の目の病気のように生活の質を改善する病気の治療にも応用されるようになってきた。特に目の網膜の病気に対する遺伝子治療は薬を局所的に投与するだけで済むため、患者の負担がほかの病気と比べて小さく、今後、開発がさらに進むと期待される」と評価しています。

一方で、「遺伝子治療の研究・開発は一時期、停滞していたが、その間も欧米ではベンチャー企業が中心になって開発を続けていたのに対し、日本の企業は二の足を踏んでいた。日本は海外と比べて若い研究者が不足していて基礎研究でも周回遅れになっている状態だ。今後、国レベルで開発を後押ししていく必要がある」と指摘しています。