【詳報】開幕まで2週間 五輪観客の扱い決まる さまざまな反応

東京オリンピックの開幕まで残り2週間。
観客の扱いが唯一決まっていなかった北海道では、サッカーの競技会場に観客を入れて開催する方向で検討されていることが大会関係者への取材でわかりました。

これでようやく東京都と8つの道と県で開催される東京オリンピックの観客の扱いはすべて決まることになります。
各地の人たちはどう受け止めているのでしょうか?

五輪すべての会場 対応決まる

東京オリンピックの観客について8日、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の会場ではいずれも観客を入れずに開催されることが決まりました。

一方で、宮城、福島、静岡の3つの県は収容定員の50%以内で上限1万人とする原則で観客を入れ、茨城は学校連携観戦チケットによって子どもたちの観戦のみ認めることとしたものの、北海道だけは扱いが決まらず検討が続けられていました。

大会関係者によりますと、今月11日までで北海道ではまん延防止等重点措置が解除されることなどを受け、オリンピックのサッカー競技の会場には観客を入れる方向で検討されているということです。
これで東京都と8つの道と県で開催される東京オリンピックの観客の扱いはすべて決まることになります。

一方で、同じ北海道で開催されるマラソンと競歩について、北海道と大会組織委員会は沿道での観戦の自粛を呼びかけることを決めています。

東京都医師会「ワクチン接種に集中 ありがたい」

東京都医師会は先月、東京オリンピックの開催について無観客での開催を探ることなどを求める意見書を国などに提出していました。
9日朝、新聞で1都3県の会場での無観客が決まったことを改めて確認した東京都医師会の尾崎治夫会長は「観客が入るとコロナや熱中症があるかもしれない、いろんな災害があるかもしれないという負担が減るので、感染者への対応とワクチン接種にしっかり集中して取り組むことができ、ありがたいことだ」と話しました。

一方で「数週間で有観客が無観客に切り替わったが、今の感染状況は専門家や都のモニタリング会議で予測できていたことなので、もっと前に冷静に無観客という判断をしていただければよかった」と話しました。

そして、緊急事態宣言中に開催されるオリンピックについては「東京オリンピック中にステイホームが進み感染者がどんどん減ってきたという結果を作ることが、コロナに打ち勝つオリンピックだと思う」と話していました。

有観客の宮城 サッカー会場 反応さまざま

東京オリンピックでサッカーの男女10試合が行われ、上限を設けて観客を入れることになった宮城スタジアムがある宮城県利府町での反応です。

【地元の人たちからは不安の声も】
町内の20代の女性は「コロナ禍が続くなか、観客によって人流が増え感染者が増加するのではないかと不安です。スポーツをするのはいいですが、客を集めるのはいかがなものかと思います」と話していました。

また、50代の女性は「地元でオリンピックの競技が行われるのは一生に一度あるかないかのことですが、コロナ禍で人が集まるというのは町民としては複雑な気持ちです」と話していました。

このほか、宮城スタジアムで行われるサッカーの試合のチケットを持っているという20代の男子大学生は「県内や東北からの観客に絞るならいいですが、感染が拡大している首都圏などから人が来ることは不安です」と話していました。

【村井知事「予定どおりの開催 問題ないと判断」】
一方、宮城県の村井知事は、9日に東京で取材に応じ「宮城県としては予定どおり開催しても問題ないと判断した。できるだけまっすぐ帰ってもらうような啓発運動を含めてしっかりと感染対策を行い、宮城県を訪れる選手や観戦に訪れた人たちが来て良かった、やって良かったと思える大会にしたい。結果として、われわれの感謝の気持ちも伝えられる大会になればいい」と述べました。

【利府町 熊谷町長「復興進んだ姿表現する機会 大変喜ばしい」】
また、利府町の熊谷大町長は、9日朝に町役場で取材に応じ「上限はあるにせよ、10年前の震災での支援に対する感謝や、復興が進んだ姿を国内外に表現する機会をいただけたことは大変喜ばしい」と述べました。

そのうえで、県内外から観客が訪れることについては「一人ひとりが感染防止対策を徹底してほしい。県とも話し合い、町民が不安なく納得する形で観客を受け入れたい」と述べました。

選手の受け止めは

【豪テニス選手「無観客でのプレー受け入れられない」】
テニス男子のニック・キリオス選手は、オーストラリア代表として初のオリンピック出場が決まっていましたが、SNSに「オリンピックに出場しないことを決めた」と投稿しました。

さらに「簡単な決断ではなかった。国を代表してオリンピックに出ることは私の夢だったし、この機会が二度と来ないかもしれないということも分かっている。ただ、観客のいないスタジアムでプレーすることは受け入れられない。また、体を整えるために必要な時間を使いたい」として無観客での大会開催と体調面の問題を理由に、出場しないことを決めたと説明しました。

26歳のキリオス選手はシングルスの世界ランキングで最高13位の実力者で、ファンを楽しませる独創的なプレースタイルも持ち味です。

先月からイギリスで開かれているウィンブルドン選手権では、3回戦で腹部のけがを理由に棄権していました。

オーストラリアオリンピック委員会はNHKの取材に対し「キリオス選手が代表チームに参加しないのは残念だが、彼の決断を尊重する」とコメントしています。

【空手 喜友名選手「無観客は想定内」】
東京オリンピックの新競技、空手の男子「形」の代表で金メダル獲得を狙う喜友名諒選手は、競技が東京・千代田区にある日本武道館で観客を入れずに開催されることについては「無観客での開催は想定内だった。テレビなどの画面を通して、自分の気持ちが見ている人に伝わったらうれしい」と心境を話しました。

おもてなし準備してきた大学生「複雑な思い」

東京・渋谷区にある津田塾大学の千駄ヶ谷キャンパスはメインスタジアムとなる国立競技場や東京体育館に程近く、学生たちは訪れる人たちをもてなそうと準備を進めてきました。

大学の創立者、津田梅子にちなんで「梅五輪プロジェクト」と名付けられたこの取り組みは4年前に始まり、毎年およそ200人の学生が参加しています。

3年前には、得意の英語力を生かし、将棋会館や国立能楽堂といった地域の名所を英語で紹介する地図をつくってJR千駄ヶ谷駅の構内に設置しました。

ことし3月に海外からの観客の受け入れ断念が決まったあとは、地図を作り直し、国内から訪れる人向けにイラストを強調したものにしたといいます。

また、オリンピックやパラリンピックを見据え、携帯電話で話さないなど、外国人に電車内でのマナーを守るよう英語で呼びかけるパンフレットも3000部つくりましたが、コロナ禍であることを踏まえ、オリンピックの時期には配りません。
「梅五輪プロジェクト」の代表を務める総合政策学部の3年生、前田美樹さんは「千駄ヶ谷に毎日何万人もの人が訪れることを想像し、『おもてなし』したいと思っていたので寂しいです。ただ、今の感染状況をみると観客を入れないのは当然のことで冷静に受け止めています。にぎやかな千駄ヶ谷を見たかった気持ちはありますが、命より大切なものはないので安心・安全な大会を開催してもらいたいです」と話していました。

入手した観戦チケットは…

【観戦チケット入手した人 不満「決定の判断が遅い」】
東京・渋谷区で不動産会社を経営している滝島一統さんは、2006年のイタリアのトリノ・オリンピックで競技を観戦する楽しさを知り、それ以降、夏、冬合わせて7大会連続で会場に足を運んできました。

東京大会では、多くの知り合いにも会場の雰囲気を楽しんでもらおうと柔道や競泳などおよそ100枚のチケットを手に入れていましたが、すべて無観客になりました。

滝島さんは「オリンピックには会場でしか味わえない雰囲気や感動がある。日本で開かれる大会で多くの人が経験できなくなったことは非常に残念だ」と話します。

そのうえで、組織委員会などの対応について「開幕まであとわずかとなってから無観客と決まるのは判断が遅すぎる。チケットの払い戻しの方法も具体的に示されておらず、あまりにもずさんで憤りを通り越してあきれるしかない」と不満を表していました。
【チケット95%払い戻しに】
大会組織委員会は、観客を入れて開催する競技のチケットの取り扱いについて、9日会見を開きました。

この中でオリンピックの33の競技では「セッション」と呼ばれるチケット販売の単位ごとに、750セッションのチケットを販売していましたが、95%にあたる716セッションが無観客の対象となることを明らかにしました。

そのうえで無観客となったセッションのチケットについては、大会のあと順次払い戻しすると説明しました。

一方で、観客を入れる34のセッションはサッカーと野球・ソフトボール、それに自転車の3競技のみで、このうち野球・ソフトボールとサッカーの7つのセッションが観客の上限を超えているということです。

そこで、これらのセッションについては再抽せんを行い、10日未明に結果を発表するとしています。

再抽せんで「無効」となった人は払い戻しの対象となり「有効」となった場合でも、希望する人は10日から今月20日まで払い戻しの申請ができるということです。

東京オリンピックの一般向け観戦チケットはこれまで363万枚が販売されていましたが、そのほとんどが払い戻される見通しとなりました。

経済にも影響

【ホテル キャンセル相次ぐ】
東京・墨田区にあるホテルでは、先月東京オリンピックが観客を入れて開催するという方針が発表されてからは、徐々に予約が増えていました。

ホテルでは大会期間中は7割程度の客室がうまると想定していました。

ところが8日夜、1都3県の会場では観客を入れずに開催されることが発表されると、予約を取り消す連絡が入り始め、日によっては10件以上のキャンセルが出ているということです。

旅行シーズンの夏休み期間中に東京都に緊急事態宣言が出されることで、経営への影響も大きいということですが、ホテルでは稼働が減っている宴会場をワクチンの接種会場として地元の墨田区に提供するなど、感染を抑え込むために協力したいとしています。

東武ホテルレバント東京の藤田祐基宿泊部支配人は「無観客はとても残念でホテルにとっては厳しい状況が続く。少しでも早く元の生活に戻れるように協力したい」と話していました。

【鉄道各社 首都圏の臨時列車運行取りやめ】
鉄道各社は、首都圏で計画していた通常の終電よりも遅い時間帯の臨時列車の運行を取りやめることにしました。

鉄道各社は、東京オリンピックの観客が帰宅できるよう、大会組織委員会の要請により、20事業者、64の路線で、通常の終電よりも遅い時間帯に臨時列車を運行することなどを計画していました。

8日夜、組織委員会など5者による会談で、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の会場はいずれも観客を入れずに開催されることが決まり、これを受けて鉄道各社は首都圏で計画していた臨時列車の運行を取りやめることにしました。

一方、北海道や宮城県、福島県、静岡県の会場は、観客を入れての開催が予定されていることから、東北新幹線を含む、会場近くの路線の臨時列車については、組織委員会と調整したうえで運行するかどうか決めるということです。

各国の受け止めは

【 仏スポーツ相「ウイルスとの闘いには打ち勝っていない」】
3年後のオリンピック・パラリンピックの開催国であるフランスのマラシネアヌ・スポーツ担当相は8日、ツイッターに「アスリートたちが観客と会えないのは悲しい。われわれはまだウイルスとの闘いには打ち勝っておらず、日本の当局を信頼している」とコメントしました。
【米報道官「大会の開催を支持」】
アメリカ、ホワイトハウスのサキ報道官は記者会見で「日本政府はこれまで大会の開催や準備にあたり人々の健康が最優先だと強調していて、われわれも準備の過程で日本政府と緊密に連絡をとってきた。われわれは大会の開催を支持している」と述べて理解を示しました。

また、大会にあわせてファースト・レディーのジル夫人が来日するかどうかについては「まだ検討中だ」と述べ、今週末に先遣隊を東京に派遣することを明らかにしました。

一方、アメリカ政府で新型コロナウイルス対応にあたるファウチ博士は「大会では厳格ともいえる感染対策がとられることになっていて、ジル夫人が日本を訪問できない理由はない」と述べました。