アメリカでも人気沸騰 大谷翔平の衝撃

アメリカでも人気沸騰 大谷翔平の衝撃
大リーグでホームラン王争いの単独トップに立つ選手が、オールスターゲームに投打の両部門で選出された。

野球の歴史を塗り替え、マンガでもお目にかからないような活躍を続ける大谷翔平選手。

大リーグに与えている衝撃の大きさを現地からリポートする。

(アメリカ総局記者・山本脩太)

もはやアピール合戦、ファンに愛される大谷

オールスターゲームのファン投票では、1次投票で196万票を集めた大谷選手。

2位はオールスターの常連、レッドソックスのJ.D.マルティネス選手だったが、121万票の大差をつける“圧勝”だった。

もちろん日本からも多くの投票があった結果だと思うが、最近の球場のスタンドの様子やファンの反応を見ていると、大差の結果もうなずける。

大谷選手が打席に入る時はビジターの球場でも大歓声。

打席に立つたびに起きる「MVPコール」は日に日に大きくなっている。

中でも本拠地は、大谷選手を愛するファンたちの“アピール合戦”の場と化している。
日本でも話題になった「私とデートしませんか?」という女性ファンの大胆なお誘いや、小切手に「いくらでも好きな金額を書いて」とするボードも。
大谷選手の今シーズンの年俸300万ドル(約3億3200万円)では「安すぎる」ということだろうか。

もしくは「好きな金額を書いてエンジェルスにずっと残ってほしい」という願いが込められているのか。
現場を取材して感じるのは、大谷選手を応援するアメリカ人は今シーズン、明らかに増えているということだ。

球場のグッズ売り場では大谷選手の大きなマネキンが出迎え、ユニフォームは飛ぶように売れていく。
先月売り出した漢字の名前が入ったユニフォームは、今も注文の電話が鳴りやまないという。
球団グッズ販売担当者
「翔平のグッズは入団当初は5種類ほどだったが、今では50種類近くある。ことしの売り上げは本当にすごいが、まだピークじゃない。彼はもっと多くのファンを獲得すると思う」

NYタイムズで異例の全面特集

大リーグを扱うアメリカのメディアも相次いで大谷選手を特集。

テレビの専門チャンネルでは、大谷選手を「野球の神様」ベーブ・ルースと比較し、連日その偉業ぶりを伝えている。
中でも話題となったのは、有力紙のニューヨークタイムズがまるまる1ページを使って大谷選手の特集記事を掲載したことだ。

日本よりはるかに地元球団びいきが強いアメリカ。

人気球団のヤンキースやメッツを抱えるニューヨークの新聞が西海岸のチームの選手をこれだけ大きく扱うのは異例中の異例だ。

記事を執筆したベテラン記者に話を聞くことができた。
スコット・ミラー記者
「今シーズンの大リーグもいろいろな話題があるが、中でも大谷翔平は最大のトピックだ。野球に少ししか興味がない人にも、『ねえ、この選手に注意を払ってください!彼がしていることは本当に特別だよ!』と知ってほしかった」
記者歴30年以上のミラーさん。

ベーブ・ルース以来100年以上いなかった二刀流のスター、大谷選手の存在は、近年人気の低迷がささやかれていた大リーグへの見方そのものを変えていると感じている。
「大谷翔平の存在は、大リーグが新たなファンを獲得するのを助け、カジュアルなファンも注目している。これは大リーグにとってすばらしいことだ。彼が健康を保てば、シーズンMVPを受賞する確率が高いと思っている」

マッドン監督の決断「大谷ルール」の撤廃

全米が驚がくする大谷選手の快進撃を下支えしているのは、何と言っても投打の「フル回転」。

今シーズンの大谷選手は86試合で欠場はわずか2試合と、これまでにないペースで出場を続けている。

プロ野球・日本ハム時代から続いていた、登板日の前後を休養日とするといった大谷選手独自の「翔平ルール」は完全になくなった。

起用法を変えた理由について、マッドン監督が単独インタビューで明かしてくれた。
マッドン監督
「彼は投打のどちらか1つではなく、二刀流をやるためにアメリカに来た。翔平は今後数年でこれまで誰も見たことのないような、そして誰も真似ができないような選手になるかもしれない。私は制限を設けるよりできることを模索しないといけないと思っている。彼の持つすばらしさの邪魔をすることはしたくないんだ」
大谷選手は大リーグに挑戦してからの3年間で右ひじと左ひざの手術を経験。

長い時間ケガに苦しんできただけにフル回転の起用法は当初、大胆すぎるとも思われたが、日本選手のシーズン最多ホームラン記録を前半戦だけで塗り替え、ホームラン王争いを引っ張る活躍へとつながっている。
実はマッドン監督は翌日のスケジュールを決めるためほぼ毎日、大谷選手と話をしている。

監督によると、大谷選手は自分の状況を率直に話してくれるということで、コンディションをつぶさに把握できているという。

注意しなければいけないのは脚に疲れがある時で「そういう時は休みが必要」なんだそうだ。

MVPの行方は?あえてNYで聞いた

こうなると気になってくるのは、少し気が早いがシーズンMVPのゆくえ。

本拠地のファン以外のフラットな意見が聞いてみたいと思い、ニューヨークの大リーグの公式ストアを訪れた野球ファンに話を聞くことにした。

その結果がこちらだ。
<誰がアメリカンリーグのシーズンMVPになると思うか?>
大谷翔平選手(エンジェルス)22票
ゲレーロJr.選手(ブルージェイズ)3票
ボガーツ選手(レッドソックス)3票
ジャッジ選手(ヤンキース)2票
全30票 驚きの大差だった。

正直、ここまで差がつくとは思っていなかったが、ニューヨークでも大谷選手の人気はすごかった。

ヤンキースが地区4位に沈みフラストレーションがたまっているニューヨーカーたちも大谷選手の活躍に話を向けると、目を輝かせていた。
ニューヨークに住むヤンキースファンの男性は
「大谷は真のスターだと思うし、ベーブ・ルース以来なんて本当にすごすぎる。ジャッジごめん、ことしは大谷で決まりだ。間違いない」と断言していた。
日本選手のシーズンMVPは、2001年に大リーグ1年目だったイチローさん(当時マリナーズ)が首位打者や盗塁王を獲得して新人王とのダブル受賞をして以来、誰も到達していない。

快挙中の快挙だが、今シーズンの大谷選手を見ていると、獲得したとしても「何も不思議はない」と思えてしまうのだから、すごい。

20年前のイチローさんの時もそう思ったが、同じ時代に生きていて本当によかった。

ありがとう、大谷選手。

これからも投げて打って走って、野球の楽しさをみんなに伝えてほしい。
アメリカ総局記者
山本脩太
2010年入局
スポーツニュース部でスキー、ラグビー、陸上などを担当し2020年8月からスポーツ担当としてアメリカ総局へ。