まさか通学路で…

まさか通学路で…
まさか安全なはずの通学路で事故に遭うなんて。

その「まさか」がこれまで何度も繰り返されてきました。

先月には千葉県八街市で下校中の子どもたちが事故に巻き込まれ、5人が死傷しました。

あなたの家族や友達がいつも使っている通学路、危険な場所はありませんか?

危険な通学路98%が“対策済み”?!

事故が起きた2日後、菅総理は関係閣僚にこう指示しました。

「悲しく痛ましい事故が二度と起きないよう通学路の総点検を改めて行い、緊急対策を拡充、強化し、速やかに実行に移していく」

事故を受けて行われることになった全国の通学路の点検。

実は、これが初めてではありません。
2012年4月には、京都府亀岡市で登校中の子どもや保護者の列に軽自動車が突っ込み、10人が死傷。

7歳の女の子と8歳の女の子、子どもに付き添っていた26歳の女性が亡くなりました。

女性のおなかには赤ちゃんもいました。

当時ほかにも各地の通学路で事故が相次いだことから、文部科学省などは緊急点検を行います。

その結果、事故などが起きるおそれのある危険な場所が全国で7万4483か所見つかり、対策が行われることになりました。

八街市の現場は含まれていませんでしたが、このとき見つかった危険な場所は文部科学省などのまとめによれば、2019年度末の時点で98%が“対策済み”になっています。

つまり大半の危険な通学路が対策によって安全になっているはずです。

しかし、どのくらい効果があるのか、疑問符を投げかける専門家もいます。
通学路の安全対策に詳しい 久保田尚教授
「多くの自治体が行った対策は交差点や通学路でドライバーに注意喚起を促すための路面標示をするとか、道路の一部をカラー舗装して子どもが歩く場所と車道を色分けするといったものでした。

狭い道路の場合ガードレールを設置することも難しいため、抜本的な対策になっていないケースが散見されます」

スピード落とす「ハンプ」の効果

では事故を防ぐ効果的な対策とはどういうものなのでしょうか。

通学路の安全対策に詳しい久保田尚教授と考えてみます。

久保田教授がまず挙げたのが地面に凹凸をつくる「ハンプ」の設置です。
車道に設置するとドライバーが衝撃を和らげようと車の速度を落とす効果が期待できます。

実際に設置した沖縄県浦添市の通学路を見てみると、その効果は一目瞭然。

ハンプの設置前は車がスピードを落とすことなく通り過ぎるのに対し、設置後は車がいったん止まり、ゆっくりと乗り越えていきます。
この通学路は住宅街の道幅の狭い道路ですが、幹線道路につながっていて、抜け道としても使われていました。

子どもたちの通学する時間帯は通勤時間帯とも重なり、交通量が増えるうえにスピードを出す車もあり、以前から危険だと指摘されていました。

また新潟市では通学時間帯だけ「ライジングボラード」という車止めが設置されるようにして、通学路に車が進入できないようにしている地域があります。

実現に1年 地域を巻き込んだ話し合い

こうした対策を行う上で欠かせないのが周辺住民や道路を利用する人たちの理解を得ることだといいます。

実際、浦添市の小学校周辺の地域住民はおよそ1年かけて対策について話し合いました。
始まったのが2016年。

自治会・小学校・幼稚園・PTA・警察署・市役所など、およそ20人が参加しました。

試験的に交差点に横断歩道とハンプを設置したのがその翌年でした。

車が速度を落として歩行者に譲るケースが増えたため、本格的に設置が決まったそうです。
久保田教授
「小学校、周辺の住民、そして市役所、警察の人たちが一体となって議論していただくことが絶対に必要です。

通行止めなどにすると不便になる人も出てくるので、そういう人たちと一緒に話をしないと、解決につながらないのです」

大事なのは“子どもの目線”

今すぐにできる対策も聞きました。

まずは子どもと一緒に通学路を歩いて危険な場所を把握すること。

大事なのは「子どもの目線」だといいます。

チェックしたい項目を4つ挙げてくれました。
~気をつけたい通学路の危険ポイント~

1 交差点
小学生の事故のおよそ4割が交差点内で起きているという統計があります。
特に信号のない交差点は注意が必要です。
見通しが悪いところでは、車が近づいてくるまで見えないこともあるので、しっかり確認を。

2 歩道のない狭い道路
特に幹線道路の抜け道になっている場合は注意が必要です。
車が急いでいるとスピードを出しやすくなるため、とても危険です。

3「通学時間帯」の状況
登下校時に何が起きているかも大事なポイントです。
たとえば、通学路に面したマンションはちょうど朝の子どもたちが登校する時間帯に通勤の車がたくさん出てくる、ということもありえます。
昼間歩いても気がつかない危険が、登下校時にあるかもしれません。

4 子ども自身が「危険」と感じた場所
何より大切なのは、子ども自身がいつ、どこで、どんな時に危険を感じたのかです。
そして、その声を保護者からPTA、学校、そして警察、自治体へと伝え、対策につなげなければいけません。

亀岡市の事故の遺族が伝えたいこと

小谷真緒さん(当時7歳)。

小学2年生になるのを間近に控えた2012年3月、桃の節句のお祝いをしたときに撮影した写真です。

このおよそ1か月後、事故に巻き込まれて亡くなりました。

現場には、その後、車の速度を落とすため道幅を狭くするポールが設置されました。
しかし、事故から時間がたつにつれてスピードを出す車が増え、ポールにぶつかる車もあるそうです。

どれだけ対策をしたとしても、子どもたちが交通ルールを守っていても、ドライバーが安全運転をしなければ事故のリスクをなくすことはできません。

八街市の事故ではトラックのドライバーの呼気から基準を超えるアルコールが検出されたことがわかっています。
真緒さんの父親、小谷真樹さん。
ドライバーに通学路であることを理解して、ルールを守って運転してほしいと心から願っています。
小谷真樹さん
「真緒は本当だったらことし17歳になっていたはずです。真緒の姉や妹は高校生、中学生になりましたが、真緒だけは小さかったあの頃のまま、時がとまってしまっています。

9年間、真緒がいない苦しみと交通ルールを守る大切さを、講演会などを通じて伝え続けてきました。事故が起きてしまってからでは遅いのに、まだまだそれが分かっていないドライバーがいることがとても悔しいです。そして、自治体や国にも、命を守るためにできるかぎりの安全対策にしっかり取り組んでほしいです」
私は記者になったばかりだった9年前、亀岡市の事故を取材しました。

事故が起きるたび、懸命に訴え続けている遺族の姿を思い起こします。

ひとりでも多くの人の心に、そのことばが届くことを信じています。

(社会部記者 間野まりえ)