ビジネス特集

規格外の野菜・果物=安い、は古い?

スーパーなどの店頭に並んだまっすぐなキュウリや真っ赤なトマト。私たちがふだん見る野菜は、産地などが決めた形や大きさ、傷がないなど「見た目がきれい」という規格を満たしたもの。それ以外のいわゆる「規格外」の野菜は、廃棄されたり、安く売られたりしてきた。しかし今、そうした規格外=安い、という常識を覆すような取り組みが始まっている。
(経済部記者 川瀬直子)

ふぞろいな見た目を“価値”に

「鬼花(おにばな)トマト」というちょっと変わった名前がつけられたトマト。本来は、いわゆる「規格外」の野菜として販売されていなかったが、今では人気商品となっている。

これらの野菜を取り扱っているのは、野菜などの宅配サービス「らでぃっしゅぼーや」。これまで一般的に「難あり」とされてきた野菜の個性をあえてブランド化して、ことし4月から販売を始めた。

写真のトマトは、栄養が集中してしまった花から実がなったもので、形はいびつだが、ゼリー状の部分が多く、味も濃いという。
カタログより
専用のカタログには「形」「色」「サイズ」「傷」など、訳ありとなった理由を載せ、個性をアピールしている。

育ちすぎた春菊のベビーリーフも「チャイルドリーフ」と名付けて販売している。えぐみの少ない春菊として楽しめるということで、この会社が販売している春菊の2倍近くの売り上げとなっているという。
担当者
「消費者の意識がだんだん変わってきているのを感じます。不ぞろいならではの個性を楽しんでもらえるよう商品を増やしていきたいです」

“見た目を良くする作業をやめてみました”

不揃いりんご
見た目にこだわるのをやめようという取り組みも始まっている。

「無印良品」を展開する良品計画は、去年、都内の80店舗で「不揃いりんご」と銘打ったりんごを販売した。説明文には「見た目を良くするための作業をやめてみました」の文字。

通常ならば規格外となる色むらや傷のあるりんごも、「規格」に合ったりんごも、大きさに応じて1個100円から150円で販売した。あえて安売りしなかったが、「味がおいしい」と評判になり、ことしはさらに販売する店舗を拡大する計画だ。
きっかけは2年前、社員が生産の現場を知ろうと、りんご農家のもとで研修を受けた際、見た目を良くするために多大な労力をかけていることを知ったことだった。

りんご全体に赤い色をつけるために、地面に反射シートを貼り、一つ一つ手作業で回転させて実全体に太陽の光をあてる作業。外見を丁寧にチェックして色むらや傷がついているりんごを選別する作業。
こうした作業の時間を調べたところ、400時間以上にのぼったという。

りんごが消費者の手元に届くまでにこれだけの手間がかかっていることはほとんど知られていない。

そうした手間を省いてみることで、新しいりんごの売り方ができるのではないかと考えたのだ。
担当者
「その作業がなくても味に関係がないのであれば、省いてみることで一石を投じられると思いました。実際に販売してみると、ストーリーに共感していただいたお客さんもいましたが、何よりおいしかったのでもう一度購入したという方が多かった。見た目が良いものはおいしいと感じますが、それ以外の選択肢も需要があると思うんです」

おいしいりんごを続けるために

りんご農家の成田英謙さん
このりんごを作ったのは、青森県の農家、成田英謙さん。20歳でりんご農家となり、14年目。これまでの常識を覆す初めての取り組みに「消費者に受け入れられるか不安でいっぱいだった」という。

しかし、農業の人手不足が深刻化する中で、労働時間を減らしながら、おいしいりんごを作り続けることは農業の未来につながると考え、挑戦することを決めた。
成田英謙さん
「農家の思いは『おいしいものを作りたい』ということです。そのために、その作業が本当に必要なのか再確認してみることは重要だと思ったんです。将来に向けて新しい価値観が受け入れられる土壌を作るという意味でも重要だと考えました」
秋に実ったリンゴを見ると、色づきの面ではほとんどがいわゆる「規格外」だった。「訳あり」として安く売るのではなく、あえて規格に合った商品とほぼ同じ値段にすることに不安はあったが、それは杞憂に終わった。

この経験をきっかけに成田さんは、消費者に選ばれ続けるためにさらに「味」を良くする重要性を改めて感じたという。

ことしは養分を作る葉の状態を整える作業に多くの時間をかけるなど生産方法を見直している。さらに仲間の農家にも声をかけて生産量も拡大する計画だ。
成田英謙さん
「どうすればおいしくなるのか今まで以上に考えるようになりました。この取り組みをきっかけに『こういう色や形でないとダメだ』といった固定観念が変われば、日本の農業にとっても明るい話になるのかなと思います」。

“見た目”重視がフードロスに

しかし、規格に当てはまらない野菜が販売されるケースはまだ少なく、一部で安く売られているのが現状だ。
「日本の小売りの現場では見映えのよい、形の整った野菜や果物が好まれるので、それに合わせて市場の流通規格も決められています。市場の規格にそぐわないものは、多くの場合、産地や流通過程の中で廃棄されているんです」
大竹康弘社長
こう話すのは、大手卸売会社「東京促成青果」の大竹康弘社長。

大竹社長は、全国の産地から野菜や果物を仕入れ、大手のスーパーや通販サイトなどに販売していて、いわゆる規格外の野菜を詰め合わせてインターネットで販売する取り組みも始めている。
では、どのくらいの量が廃棄されているのか。

そうした統計はないが、推計だと前置きしたうえでヒントとなる数字があると大竹社長が教えてくれた。

農林水産省によると、令和元年に全国で収穫された野菜や果物は1575万トンだが、出荷されるのは1368万トン。

残りの200万トン余りは、農家で消費されたり、流通ルートに乗らずにジャムやジュースなどに加工されたりする分を除き、ほとんどが生産段階で廃棄されていると見られるというのだ。大竹社長は収穫量の10%程度になると推測している。見た目の規格を重視する傾向は”食品ロス”につながるとも言えるのだ。

こうした状況を受けて農林水産省も野菜や果物の“脱見た目”やいわゆる規格外のブランド化を後押ししようと、企業や団体のネットワークを作ったり、情報発信を始めたりしている。

野菜や果物に新たな価値を

今回の取材を通じて見た目を良くするために生産者が多くの手間をかけ、それでも見た目が悪いなどの理由で多くの野菜や果物が廃棄されているという現実を知った。

見た目が悪いからと捨ててしまったり、どうせ捨てるからと安く売るのではなく、それ以外の価値を大切にする取り組みが増えれば、消費者にとっても生産者にとってもメリットが生まれる。

おいしい野菜や果物をこの先もずっと食べられるために消費者として何をすべきか考えていきたい。
経済部記者
川瀬 直子
平成23年入局
新潟局、札幌局を経て現所属
農林水産行政を担当

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