「握手やハグも大丈夫?」 コロナ後の“心地よい距離感”って

「握手やハグも大丈夫?」 コロナ後の“心地よい距離感”って
先日、アメリカ・ロサンゼルスに赴任しました。経済活動が再開したばかりの街は驚くほど活気にあふれています。病院や学校など以外では、ワクチンを接種していればマスクをしなくてもよいので、着けていない人も多く見かけます。そんな街なかで、ある会話が耳に止まりました。
「お店、予約しておいたほうがいい?」
「そうだね。でもまずはみんなのコンフォートレベルを確認しないと」
「コンフォートレベル」、どういう意味なんでしょうか?
(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

心地よい人との距離感

コンフォートは「快適さ・心地よさ」、レベルは「度合い」という意味なので、コンフォートレベルは「心地よい度合い」とでも訳せるでしょうか。

アメリカでは最近、このことばがメディアでも多く取り上げられ、高い関心を集めています。人と対面で会う際、どのような状況なら安心でき、快適と感じられるか、しっくりくるか、という尺度を指します。

例えば、まだハグをするのは抵抗があるけれど、肘と肘で触れるあいさつならよいかな、という具合。経済活動が再開し、人との交流が戻ってくるにつれて、自分や周りの人のコンフォートレベルをきちんと考える必要が出てきたのです。

100人いれば100とおり

カリフォルニア州では、人口のおよそ6割がワクチン接種を終えていますが、中には接種を希望しない人、持病などの理由で接種できない人もいます。

接種した人とそうでない人がいる中で、どのような形で友達づきあいなどを元に戻していくのか。アメリカでは、新型コロナウイルスの影響を最も受けそうな人のコンフォートレベルに合わせるのがマナーだといいます。

ワクチンを接種した人は屋内の混み合ったレストランでも不安を感じないかもしれませんが、接種していない人は、屋外のテラス席を好むかもしれません。

また、時間をかけてコース料理を楽しむより、カフェでの軽食を好む人もいるでしょうし、外食ではなく、誰かの自宅に集まりたいという人もいるでしょう。

だからこそ、冒頭の会話のように、グループで集まる際には、まず全員のコンフォートレベルを確認したうえで、集まり方を決めるという流れができているのです。

まだオフィスに戻りたくない

コンフォートレベルの考え方は、職場でも浸透しています。
アメリカの調査会社「モーニングコンサルト」が2200人を対象に調査したところ、今月4日時点で「仕事で国内出張に行くことに抵抗がない」と答えた人は47%。また、「職場のパーティーや大勢の人が集まるイベントに参加することに抵抗がない」と答えたのは44%。

ワクチン接種の拡大に伴って、抵抗がないという人が増えているものの、いずれも半数以下にとどまりました。
また、コロナの影響でリモートワークを余儀なくされているおよそ400人を対象にした調査では、「オフィスに戻ることに抵抗がない」と答えた人が68%だった一方、「抵抗がある」と答えた人が29%と、依然として3割程度の人が職場に戻ることに消極的だという結果が出ています。

企業にとっても、社員のコンフォートレベルを適切に把握し、配慮の行き届いた働き方の提示が必要になっているのです。

手首を見れば分かる

こうした中で注目されているアイテムがあります。カラフルなリストバンドです。

色は緑、黄、赤の3種類。
緑:ハグや握手をしても大丈夫というサイン
黄:肘と肘であいさつする程度の距離感
赤:身体に直接触れることは避け、距離を保ちたいという意思表示
ワクチンを接種したかどうか、むやみに尋ねることはできませんし、接種後でも人との距離を保ちたい人もいるでしょう。

リストバンドでわかりやすく意思を表示することで、適切なコミュニケーションがとれるようにしようと開発されました。
作ったのはフロリダ州に住むデズリー・ホーラーさん。

プラスチック容器を作る会社を経営していますが、仕事で関わる人とのコミュニケーションがコロナ禍でぎこちなくなってしまった経験がきっかけとなり、去年6月にリストバンドを作る会社を新たに設立しました。

演劇やライブなどの大規模なイベント会場で来場者全員に着用を求めたり、スーパーの入店時や出勤を再開したオフィスでも導入が図られたりと、さまざまな使われ方が広がり、すでに数千の顧客が購入したといいます。
ホーラーさん
「コロナの状況が深刻なとき、オフィスに訪問者が来ると『まだ人に会いたくない、気持ちがそこまで追いついていないのに』と思いながら対応しなければならないことをつらく感じていたんです。その時にこのアイデアをひらめきました。このバンドがあれば、自分のコンフォートレベルが今どの段階にあるのか、何も言わなくても周りに伝わります」

ポストコロナの思いやり

筆者がロサンゼルスに着いて1週間、新居への引っ越しを終え、アパートの共有スペースで近所の人たちと雑談していた時のことです。まだワクチンを打っていないこともあり、筆者だけがマスクを着けている状況でした。

すると住人の1人が「私もマスクをしたほうがいい?」と聞いてくれたのです。

屋外で距離も保たれていたので、「大丈夫、気にならない」と答えましたが、こうしたちょっとした場面でも、相手のコンフォートレベルを気にかけることが大切なのだと実感しました。

感染リスクをきちんと理解しながら、会う人それぞれの事情や状況に合わせて、何がベストな対応なのか、その都度きちんと考えて行動する。

ポストコロナの日常を考えると、コンフォートレベルという考え方は、日本にとっても、とても参考になると感じます。
ロサンゼルス支局記者
山田奈々
2009年入局
長崎局、経済部、国際部などを経て現所属