米 ワクチン接種ペース減速 “政治的立場で意識に違い”

アメリカは4日、独立記念日を迎えましたが、バイデン政権がこの日までに目指していた「18歳以上の70%が新型コロナウイルスワクチンを少なくとも1回接種する」という目標には達していません。1日当たりのワクチンの接種回数はピーク時のおよそ6分の1とペースの減速が顕著となる中、州ごとの接種率の差も広がっていて、専門家は政治的な立場によるワクチンへの意識の違いも影響していると指摘しています。

アメリカでは今月3日時点で、18歳以上の67.1%が少なくとも1回、ワクチンを接種していますが、バイデン政権が掲げていた「今月4日の独立記念日までに70%に到達する」という目標には達していません。

ワクチンの接種率は年齢別では若い人たち、人種別では黒人の間で低くなっていて、こうした層への接種をどう進めていくかが課題になっています。

同時に、接種率は州によっても大きな開きが出ていて、東部バーモント州やマサチューセッツ州、それにハワイ州では80%を超えた一方、南部ミシシッピ州は46.3%、ルイジアナ州は49.2%、西部ワイオミング州は50.2%にとどまり、いわゆるリベラルな考えの人が多い民主党の地盤とされる州で接種率が高く、保守層が多い共和党の地盤とされる州では低い傾向になっています。

民間の財団が5月下旬に行った世論調査では「まだワクチンを接種していない」と答えた人の内訳は共和党の支持者が49%を占めた一方、民主党の支持者は29%でした。

アメリカでは「個人の自由」の尊重を重視する考え方があり、新型コロナウイルスの感染対策をめぐっても、これまで共和党側が、経済活動の制限に反対して、バイデン政権で政策立案を担う専門家を繰り返し批判するなど、政治的な対立も浮き彫りになっています。

専門家は政治的な立場によるワクチンへの意識の違いも接種率に影響しているとして「共和党の支持者はワクチンに関する否定的な情報に接することが多く、接種に消極的な姿勢につながっている。接種率を向上させるには科学的な情報だけでは不十分で人々の感情に向き合う戦略が必要だ」と指摘しています。

接種率 大統領選の結果で差

アメリカCDC=疾病対策センターによりますと、少なくとも1回、ワクチンを接種した人の割合は、最も高い東部バーモント州の85.4%から、最も低い南部ミシシッピ州の46.3%まで州によって大きな開きがあります。

全体的な傾向としては、東部の州や西部の州で接種率が高い一方、南部や中西部では接種率が低くなっています。

このうち、接種率の高い上位20の州はすべて2020年の大統領選挙でバイデン大統領が勝利した州で、下位20の州は、ネバダ州とジョージア州を除きトランプ前大統領が勝利した州となっていて、リベラルな層が多い民主党の地盤とされる州で接種率が高く、保守層が多い共和党の地盤とされる州で接種率が低い傾向となっています。

CDCのワレンスキー所長は今月1日の会見で「アメリカ南東部や中西部の地域ではワクチンの接種率が低く、一部の地域ではすでに感染者の増加が起きている」と述べてこうした地域で再び感染の急激な拡大が起きる可能性があると指摘しました。

CDCではこうした地域で重点的に感染対策を行うチームを立ち上げ集団感染が起きた場合に迅速な追跡と隔離を行うほか、ワクチン接種を呼びかけるキャンペーンを行うなどして感染の再拡大を防ぎたいとしています。

地域単位でワクチン接種の働きかけも

アメリカでは、政府や公的機関による啓発活動だけでなく、よりきめ細かな地域単位でのワクチン接種の働きかけも進んでいます。

全米の大学に基盤を持つ組織「インターフェイス・ユース・コア」は、さまざまな宗教の間の協力を推進するための団体ですが、この4月から、ワクチンの啓発活動に参加し、現在、およそ1500人の若いボランティアが活動しています。

この団体では特に、ワクチンの接種に消極的だったり不信感が強かったりする宗教コミュニティーに対し、そのコミュニティーに属する学生らが働きかけるという方法をとっています。

南部ノースカロライナ州で活動するジェイミー・モケットさんは、ワクチンについての知識を身につけ、カウンセリングの訓練も受けたうえで、自分の所属するキリスト教の教会を中心に、接種をためらっている人に対し、働きかけを行っています。

モケットさんによりますと、教会に通う人たちの中には「ワクチンは不妊になる」という誤った情報をもとに「将来、妊娠できなくなるのが怖いので接種しない」という人や、「これまで何人もの感染した人と接触したが感染しなかったので、ワクチンは必要ない」という人、それに「親が反対するので接種できない」という人などさまざまな事情の人がいるということです。

モケットさんは、それぞれの事情をじっくり聞き、信頼関係を作ったうえで、ワクチンの仕組みや、どのように安全性が確認されているかなどを説明するようにしているということです。

この団体で学生ボランティアの指導を行うクイーンズ大学のスザンヌ・ヘンダーソン教授は「頭ごなしにワクチン接種を強制するのではなく、接種をためらう理由を丁寧に聞くことが、接種に前向きになってもらう上で重要だ」と話しています。

専門家「反発招かない働きかけが重要」

公衆衛生政策が専門のニューヨーク大学クリス・ディッキー博士は「共和党の支持者は伝統的に『大きな政府』への不信感があり、政府による決定などに懐疑的な傾向がある。それ自体は本来健全なものだが、その不信感が政府の感染対策への反感となっている」と分析しています。

そして「保守的な人々がおもに利用するメディアは、感染対策の必要性について否定的に伝える傾向があり、それがワクチン接種などに消極的な姿勢につながっている」と指摘しています。

そのうえで「感染症対策をはじめとした公衆衛生においては、個人の自由を制限する措置をとらざるをえないが、アメリカにおいては個人の自由が非常に重要な意味を持ち、制限されることへの反発は極めて強い。科学的にワクチンの効果と安全性を説明することはもちろん重要だが、反発を招かないよう、人々の感情に向き合う戦略も必要だ。特に、ワクチン接種に消極的な人たちが信頼しているコミュニティーのリーダーの役割が重要になるだろう」と述べて、きめ細かな働きかけが重要だとしています。